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言葉に、できない、  作者: maya.kamimuro
2/10

忘れられない


湿気で広がる髪の毛のおかげで毎年憂鬱だった梅雨も、今年は少し気分がいい。


放課後の静けさが増す廊下。降りやまない雨が窓ガラスをたたく中、物理の先生に頼まれたクラス全員分のプリントを回収し、6階の物理準備室へ届ける。


その帰り道、通り過ぎようとした屋上へ続く階段の踊り場にいたのは、若松くんと、誰だかわからない女の子。


肩の上で切りそろえられた艶やかな黒髪に、制服のスカートから除いた足は白くて華奢で、きっとかわいい子に違いない。


「好き」と聞こえた声は、少し震えていた。


人の告白現場を覗き見するなんて、悪趣味だ。

わかっている。わかってはいるけれど、床と足がくっついてしまったように、動かない。目が、離せない。



(若松くん。…なんて、返事するんだろう。)



目が離せなかったくせに、若松くんが女の子の告白を受け入れる姿なんて見たくなくて、目を閉じる。けど、一瞬で、ここにいるほうがよくないと思い直す。


(帰ろう。)

そう、瞳をあけて、心臓がドクンっと音を立てた。慌ててその場を離れる。

階段を駆け下りて、廊下を走る。走っているつもりが、足がもつれてうまく走れない。



昇降口まで来たところで、速度を落とす。


若松くんが、…女の子をそっと抱きしめていた。

見てしまった、そのシーンが鼓動を速くさせる。


悲しいのか悔しいのか寂しいのか辛いのか。

わからなかった。


でも、心がぐちゃぐちゃで、すごく、乱れた。



そして、自覚した。改めて。

若松くんへの想いを自覚した。


好きだった人、忘れられない人。では、ない。


まだ、好きな人。



(でも、もうダメかなぁ。)



若松くんは、女の子を抱きしめていた。

きっと、告白を受け入れたんだろう。


それに、若松くんと目があってしまった。と、思う。

のぞいていたことがばれてしまった。



嫌われてしまったかもしれない。


いや、一度振られている時点で…私は、なしか。




「俺には、無理だよ。一緒にいられない。」

そう言った切なくて苦しそうな顔が、最後に若松くんと言葉をかわした時の表情が、かすれた声が、脳裏に浮かぶ。



苦しいな。

私だけが、若松くんのこと、忘れられないのかな。



(……帰ろう。)



溢れてきた涙をぬぐって、教室へ向かう。



誰もいないと思っていた教室に、俊の姿があった。なかなか止まらない涙をまたぬぐう。



「…璃亜?」


俊の優しい声が聞こえる。その声に、さらに涙が溢れた。


俯く私に、ふわっと、俊の香水が香って、抱きよせられたのがわかった。

泣いている理由なんてわからないはずなのに、何度も大丈夫だって言って、頭を撫でてくれる。


俊の彼女には悪いけど、今はこの幼馴染に甘えてしまおう。


若松くんへの想いを、もう気づかないふりなんてできない。

忘れたい。忘れられない。忘れたくない。


好き。


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