忘れたい
駅から歩いて15分。
桜並木の続く坂の上に私の通っている学校がある。
梅雨明け間近の今、桜はすっかり青葉になり、毛虫の温床だと思う。
いつ降ってくるかわからない毛虫のことを考えると不安になる。
でも、今日は雨。
傘をさしているから、毛虫が降ってきてもどうってことない。
変な安心感の中、友達の笑美加と一緒にたわいない話をして歩く。
「歩くのが遅いなぁ、2人とも」
そんな声に振り返る。幼馴染の戸塚俊だ。物心つく前から一緒にいて、一緒にいるのが当たり前な幼馴染。血のつながりはないけれど、家族のような存在。
「お、璃亜なんか今日は髪まとまってるね。山本さんはそのピン新しいやつじゃない?かわいいね。」
「「でしょでしょ」」
私も笑美加も昨日までとの違いにさっそく気づいてもらえてうれしくなる。
くせっけがまとまると母から勧められて軽くかけたパーマ。茶色がしっくりこなくて、髪の色はそのままで。
雨でいつも広がってしまう髪の毛も、今日は、上々なまとまり。母に感謝。
それにしても俊は相手のこと、よく見ている。そして臆せずにそれを伝える。
(見習いたいなぁ。)
3人で通学路を進みながら、ふと、見上げた坂のうえ。
彼だとすぐにわかってしまった。
すらっとした身長に、透明のビニル傘に見え隠れする無造作に立ち上げた茶色の髪。ポケットに手を入れて少し気だるそうに歩く。
若松大翔くん。
朝見かけるのは初めてだけれど、例外なく私の鼓動は脈打つ。
校門に吸い込まれる多くの生徒の中、こうして敏感に見つけてしまう。
忘れたい、ひと。
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