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風の彼方に ~ミルテの空飛ぶ家~  作者: 瀬嵐しるん


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 国に戻った私とレクスは、一緒に暮らし始めた。

 住まいは、空飛ぶ家をベースにして必要な部屋を増築した。空を飛ぶために最低限の重量にしていた建物だから、増築するというのはつまり、もう飛ばさないということだ。家を置く場所は、例の農場に相談したら母屋の側の空いている土地を貸してくれた。


 空を飛びたいときは飛行魔法もあるし、ドラゴンやグリちゃんも背中に乗せてくれる。ヨゼフィン様たちにお祝いを言いに行くときも、私がドラゴン、レクスがグリちゃんに乗って行った。


 エーヴァウト様は猫サイズグリちゃんに陥落し、帰りにはリビングで使えるようにと猫用のベッドをプレゼントしてくれた。もちろん、フルーツパイもお土産にと各種取り揃えてくれた。

 空気を読んだグリちゃんが、自分を抱くエーヴァウト様に額を押し付けて甘えた。それを見て、ヨゼフィン様がひきつけを起こすんじゃないかと思うほど笑っていた。


 例の訪問団団長は国際魔導師協会の連絡係にされた。完全にヨゼフィン様の監視下で彼女の命じるままに働かされている。当然、彼の妻と偉い人らしい舅は文句たらたらだったが、エーヴァウト様が黙らせた。


 それから、私たちの国の協会代表には新たにレクスが任命された。大出世のレクスだが、協会の代表となると王立魔道士団員より立場が上になるそうだ。魔道士団の管理職を打診されたが、あっさりと宮仕えから抜けて身軽になった。魔導師協会の国代表として報告書やら論文の管理やら忙しそうだが、給料はだいぶ上がった。出張もそれなりにあるが、家で出来る仕事も多い。だから立派な書斎を作った。


 私はといえば、お世話になっている農場のちょっとしたお手伝いや、技師さんの相談にのる日々。農場の手伝いは現物支給、というより、もはや家族として扱ってもらっている。

 最初にここに来た時にキッチンに連れて行ってくれた息子さんは妻帯者。お嫁さんは家畜全般の面倒を見ている。家畜関係は、魔導装置の出番が多い。牛の搾乳機を改良したり、鶏の卵を自動で集める装置を作ったり、私の魔術研究は妙に農業に特化してきた。でも、この生活はとても楽しい。


 そんな暮らしでは、レクスに現金収入を頼っていると思われそうだが、さにあらず。なんと、最初に農場の水車で使った補助魔導装置、あれをヨゼフィン様に見せたところ、特許を取ってくださった。ちゃんとした国際特許だ。


 あの装置は、大掛かりなことは出来ないが、魔術を学んだ魔道士であれば、魔力が少なくても使える。困りごとをしばらく助けられるよう、魔術式を組んで発動させればよいのだ。

 困りごとが続くなら、その旨、国際魔導師協会に報告を上げれば調査に来てもらうことも出来る。補助魔導装置を正しく使っていればデータが残るので、解析にも役立つ。


 ちょっとしたことしか出来ない装置だが汎用性が高いので薄利多売。結構お金持ちになったが、装置の改良型研究をはじめたらキリがなくて支出も少なくない。見かねたヨゼフィン様が会計士を寄越してくれた。収支を検討した結果、権利を協会に預けて生産の管理も任せ、私は売り上げの一部を受け取る形に落ち着いた。領収書やら注文書やらをまとめておけば儲けだけが転がり込むという、夢のような状態だ。……それにしても、人付き合いに加えて事務仕事まで向いてないとは新たな発見だった。


 だが、補助装置の功績で、私は国際魔導師協会の名誉会員になった。協会の会議にも呼ばれる。引きこもり気味の私の将来に、素晴らしい魔導師たちと交流できる未来があったなんて。

 ヨゼフィン様や、レクスや、そしてもちろん私にも劣らない魔術馬鹿が、こんなにいるなんて! 夢のようだ。


「ミルテ、言い方!」


 外面の必要な仕事をするレクスには注意されるが、私は会議の時くらいしかいい顔しなくてもいいから。たまにお会いすることのあるエーヴァウト様にはグリちゃんをあてがっておけば大丈夫だし。


「子供の教育上、よくない発言は慎んで欲しいんだけど……」


 そうだった。今、私のお腹には赤ちゃんがいるのだ。この子が生まれたら、レクスを見習って将来外面で苦労しない子になって欲しい。


「まあ、持って生まれた性格もあるからね」


レクスはいつも通り、無理強いをするつもりはないようだ。



 外面重視のレクスが外面無視の私を選んだように、何事もなんとかなる。いろんな条件で道は曲がりくねっても、きっと、どこかには着けるだろう。空飛ぶ家に乗って、私はレクスを救い出せた。探し物は見つかったので、今は地上に降りたのだ。


「……なんか、地上に降りた天使みたいなこと言ってるし」


「駄目かしら?」


「いいけど、また何かを探しに飛びたくなったら、今度は僕が一緒に行くから」


「うん、その時はよろしく」


今日は仕事が早く終わったレクスは、洗濯物の取り込みを手伝ってくれていた。レクスの好きなお日様で乾いたシーツ。


『そろそろ、おやつの時間ではないか?』


 家では猫サイズを貫くグリちゃんが、催促に出てきた。今日のおやつは、母屋からもらったアップルパイだ。グリちゃん垂涎の一皿。


「すぐ支度するから、ちょっと待ってね」


「ミルテ、走らないで」


 洗濯かごを抱えているレクスに代わり、何かあったら私を支えるつもりのグリちゃんが側に来てくれる。高スペックの二人に守られ、支えられて、私はかなり幸せ過剰だ。


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