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土兎

 体育館での朝は早い。

 朝は四時に起きて、布団を閉まったら朝食。

 この建物は泊まり込みを想定して作られており、寝床以外にも台所や浴槽完備だ。


 朝食を終えると、まずは一時間みっちり柔軟。

 一週間も経てば、少し体が柔らかくなり始める。


 それを終えたら、次は実戦。

 平之や銘華との戦いで、初日以降綾人の勝ち星は皆無である。


 それを昼まで続けたら、昼食を摂って筋トレを。

 強靭な肉体がなければ、長時間のお狐様使用には耐えられない。


 三時間程それを続けてから、一日の締めへ。

 大目玉の、妖力を学ぶ。


 最初はお狐様を装着して、体中に妖力を無理矢理巡らせる。

 最初は胡座の体制で魔力の簡単な操作を学ぶ。

 正解に妖力の感知を学び、ゆっくりとでも操作を可能に。


 次に感覚を広げる。

 体から漏れ出す妖力に自信の感覚を広げられれば、それは簡単なセンサーとなり、死角からの攻撃に対処が可能とだなるのだ。


 妖力の主な使用手段は妖術だが、その他にも元々の妖力の特性を生かした使い方は多々ある。

 これは、それに馴染む段階だ。


 次に、ゆっくりと動き出す。

 身体能力の強化を制御して、体が破壊されないギリギリを見つけ出す。

 老人の様な歩みで体育館の中を何周もして、次第に一歩一歩の速度を上昇。


 二十日も経てば、素の筋力も上がり、疾走する自転車程の速度で走る事が可能だという事が判明した。


 そして、世間での夏休み期間に終わりが近づいて来た頃、綾人を尋ねて桜井がやって来た。



「やあ、綾人。いいお知らせ持ってきたよ」


「桜井さん! 久しぶりですね」



 ここ最近、実戦の密度が上がり、常に疲弊状態にある綾人はテンションが高い。

 一周回りきってしまったのだ。



「いい知らせって言うと、なんでしょう?」


「いやね、君のご両親からようやく、ようやく転校の許可を勝ち取ったんだよ」


「まず、反対してる事を知りませんでした」


「まあ、考える余裕がなかっただろうし、そんな所だろうとは思ってたよ。君のご両親はこの業界に無知ではないけど、肯定的ではないからね。中々に苦労したよ。高めのメロンを八つ消費した」


「お疲れ様です」



 桜井に対して労りの言葉を送ると、背後から平之が。

 以前の晩に受け取った(ふだ)を持っている。



「ええ所に来たな、桜井。ちょうどええ、車出してもらうで」


「車? いいけど、まさか今日やるのかい?」


「ああ、今日や。土兎(つちうさぎ )の気性が荒いみたいでな、丁度ええわ」



 土兎―――未知の名前に、綾人は首を傾げる。


 それを気に留めず、平之は綾人に銘華を呼んでくる様にと。

 若干の不安を抱えながら、久々の移動を開始する。




 ●●●●●●




「土兎―――元は四国の方の古い言い伝えだ。家の柱を夜中に噛むなんて地味な嫌がらせをして、落ちた破片が金になるって言い伝えがあったんだけどね、ある事を切っ掛けに凶暴な生物とされた」



 車で移動を開始。

 暫く無言の車内が息苦しかったのか、到着時間を見計らってか、桜井が土兎の解説を始める。



「ある一家が、皿を割った娘を罰として、一晩柱に括り付けた―――するとその晩に偶然、その家に盗人が入ってね、娘を強姦した後に殺して、そのまま逃げてしまう。そして偶然同じ晩に、土兎も現れた―――娘の括り付けられた柱を、齧るためにね―――でだ、今となってはそんな真実が出回ってはいるが、昔は土兎が首ごと柱を齧ったんだと考えられた。妖怪ってのは生物ではあるものの、人の想像によってその形を大きく左右する。強い物なら兎も角―――土兎程度の弱いやつなら、生き物としての性質を変えてしまう程度にはね。土兎は凶暴に成った―――人の望むままに、恐れるままに。思い通りに柱を噛み、人を噛み、その時代の術師に封じられるまでの三年間、五十八の首を齧ったと言われている」



 よくある洒落怖話だなと、綾人は思う。

 昔の人がやらかしたせいで何かに強い影響を与えて、取り返しのつかない事態へと。

 そこに力のある者がやって来て、颯爽と退治して行くなど、テンプレもテンプレ。

 俗に言う、手垢でベタベタな展開である。


 その様な身近な展開だからこそ、思わず身震いした。

 車に乗る前、平之が言った―――今から綾人と銘華は、土兎と戦いに行けと。


 聞く分には慣れた話だが、自身が戦うとなれば話は別。

 それは薄らと思い浮かべる脅威ではない、目の前に現れる確かな、具体的な脅威なのだから。



「銘華ちゃんは…………まあ大丈夫だとして、綾人は覚悟出来てるかい?」


「若干は…………まだ怖いです!」


「素直だねえ、君は」



 桜井は言った―――綾人に対してと云うよりは、その隣に座る一人の女子に対して。

 理解したのか、銘華は眉を顰める。

 それを素直と捉えた桜井は小さく笑って、車の速度を落とした。


 つまり、到着したのだ。


 最初に殺された少女の骨と、土兎が封じられた土地。

 手兎墳墓(てうさぎふんぼ )へと。


読んでくださりありがとうございます!

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