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山奥体育館

「やあ、お目覚めかな?」


「一時間前には、起きてましたよ」


「それは、早いお目覚めで」



 現在時間は朝の六時。

 蔵の中に、開かれた扉より朝日が差し込んでいる。

 体調気分共に上々、これまでの人生でも指折りの心地良い朝である。



「いい夢見れたかい?」


「殺されかける夢は悪夢じゃないですかね?」


「違いない」



 カマをかけたわけではないが、夢の内容を桜井は知っているのではないかと思い、綾人は言ってみた。

 その予想は的中していた様で、桜井は何の疑問も浮かべずに、自分に同意した。



「さて、今日は少し移動するからね。夢の説明は車でするよ」


「やっぱあるんですね、移動」



 蔵での時間は、あの夢で終わりな気がしていた。

 何か大切な物を受け取った様な感覚があるのだ。



「車はすぐ傍につけてある―――そう時間はかからないけど、人を待たせてるからぼちぼち行こうか」



 蔵の横には、ここに来るとき乗っていた車があった。

 それに乗り込むと、桜井は語り出した―――あの夢について、世間話しでもする様に。



「夢には、何が出た?」


「漫画とかで見る様な、動く鎧が…………」


「それは、お狐様の初代継承者だよ。お狐様を受け継ぐには、幾つかの条件がある―――まず、お狐様を使用した戦いについて来れる健康的な肉体。次に渡される情報、知識に耐えられる脳―――そして妖刀、夜継(よつぎ )の使用の不可だ」


「妖刀って…………もしかして、あの」


「そう、君の祖父、五郎さんが仕舞い込んでたあの刀だ。五郎さんは残念ながら、夜継を使えなかったみたいでね、一度夢の中で首を()ねられてお狐様の使用権を生涯に亘り剥奪されたんだ」


「じゃあ、もしあのとき失敗してたら…………」


「死にはしないけど、お狐様が使えないのに妖怪共に襲われ続ける、五郎さんは妖力が極端に低いから妖怪共に見つからなかったみたいだけど、綾人は実質的な死が待ってた」



 あったかもしれない未来を想像して、思わず生唾を飲んだ。

 手足をもいで凶暴な肉食獣の前に放り出される様な、絶体絶命としか言いようのない状況。


 夜も眠れない様な恐怖が、死ぬまで付属する可能性があったのだ。



「まあ、君は見事それに合格したわけで、当分権利の剥奪は心配しなくて良いだろう」



 車は暗いトンネルの中に侵入。

 蛍光灯の灯が車内に順番に差し込んでは抜け出していく。



「それら合格したなら、俺って今どこに向かってるんですか?」


「ああ、それね。確かに綾人は合格したけど、あくまで及第点―――最低限なんだよ。今向かっているのは、それを余裕の合格まで引き上げるための場所。つまり、修行パートさ」




 ●●●●●●




 辿り着いたのは、山の中には似合わない建物。

 突如として現れた、市民体育館の様な建物だ。



「桜井さん…………これ山の中じゃなくても街でレンタルすればありますよ」


「なにも、バスケしたいがために作ったわけじゃないよ。街中じゃ妖術は使いにくいからね、ここは耐震耐火に結界完備さ」



 体育館の前には、一人の男の、綾人と同年代の少女が立っていた。

 その二人に綾人は、尋常じゃない違和感―――もとい、妖力を感じた。



「あの二人、また垂れ流してるよ。行こう綾人、彼らだよ」



 車を降りた桜井の後に続く。

 その途端、直に車の外の空気に、そこに満ちる妖力、夏の日差しによる汗が干上がる様な焦燥を感じた。


 それは紛れもなく、少女より放たれている物であった。



「お待たせ、平之( ひらの)


「遅いわ―――この暑さで干からびたら、どう責任取るつもりや」


「中は空調効いてるんだから、入ってればいい」


「アホか。新米か来るっちゅうんなら、カッコつけて待つのは常識やろがい」


「知らないよ、そんな常識」



 男、平之と桜井は、何やら中良さげな様子。

 それを一歩下がって見る少女は、それが不満な様子だ。



「先生、そろそろ中に…………」


「せやな―――ほな行こか。そっちもついて来い綾人、俺がしっかり、鍛えたるさかいな」



 そう言って、二人は体育館の中へと入っていき、それを見ていた綾人の背を、桜井が軽く叩く。



「僕は一旦別のやる事があるから離れる。しっかり平之に鍛えてもらうと良いよ」


「はい、行ってきます!」



 言って、綾人も体育館の中へと。

 これから綾人の、地道な日々が始まる。

読んでくださりありがとうございます!

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