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天泣の秘め事

作者: 杉浦 稔理

私が小学生になる前にお母さんが病気で亡くなり小学生高学年の時に、“新しい”お母さんができた。そのあとすぐに弟ができてお父さんと新しいお母さんは弟にかかりきりになった。


生まれた弟が病弱だったからそうなってしまうのは少し理解できていたけれど、私は私の話も聞いて欲しかった。


あの日も弟が熱を出して何度目かわからないお留守番をお願いされた。私は皆を笑顔で見送った後布団の上で泣いていた。

するといつの間にか目の前に白い狐がいて、私のことをじっと見つめたかと思うと顔を舐めてきた。


「慰めてくれるの…?」


そう問いかけると、そうだとでもいうように鳴いたので、一人ではないということが嬉しくてお父さんたちに話そうと思っていたことを狐さんに話した。話している途中で寝てしまったらしく、起きると狐さんはいなくなっていた。


夢だったのかと思い、悲しくなったが狐さんは家に一人で居るときや、泣いている時などにどこからともなく現れて側にいてくれるようになった。これが普通ではない事はわかっていたが、狐さんと会えなくなるのが嫌で気づかないふりをしていた。


中学生に上がったころ、白い狐さんは来なくなってしまったが、不思議な夢を見るようになった。満開の桜の木の下で男の人と話す夢。男の人は知らない人のはずなのに、知っている人のように感じていた。


「サクラさん!」


「いらっしゃい。今日も元気だね」


名前を教えてくれなかったので勝手にサクラさんと呼んでいる彼は気怠そうに手を振って迎え入れてくれた。


「サクラさん聞いて!今日ね…」


穏やかな夢の中で本当は彼の正体は白い狐なのだろうとわかっていた。彼も私がわかっていることを知っている。それでも二人とも知らないふりをして穏やかな時間を共有していた。


「でね、ついに行きたかった高校に受かったの!」

「へえ、そらよかったな」

「うん、特待生になれたからお父さんたちに苦労させることもないからよかった」


私がそういうと彼はほんの少し眉をひそめたが何も言うことはなかった。


弟はやはり普通より病弱で家族でも私はいいお姉ちゃんで居る必要があった。

だからこそ穏やかな彼との時間や変わることのない関係がいつの間にか私の支えになっていた。


高校に上がってからも変わらない日々が続くと思っていたが、穏やかな日というのは突然終わるものなのだと知った。


きっかけは多分、サッカー部でエースの人からの告白を断ったこと。何がきっかけで私のことを知ったのかわからないが、彼の告白を断った次の日から同学年の女子は話してくれなくなり、ノートに落書きや靴箱に手紙が入っているようになった。男子は女子に何か言われているのか話さなければならないことは話してくれるがそれだけだった。


両親に相談することもできずにいたある日、同じクラスの女子に「ついてきて」と言われたので大人しくついていくと空き教室の中に突き飛ばされ閉じ込められてしまった。


どうにか出ようとしたが出られず仕方なく見回りの先生が来るのを待つことにした。


扉の近くに座ると自然と涙が出てきた。なぜ告白を断ったら関係のない人からこのような仕打ちを受けなければならないのだろうか


「もうやだ」


家にいても本音で話せる機会は少なく、学校は針の筵のようになっている。もう何もかもが嫌になってしまった。ふと窓の外へ視線が行き“飛び降りて最悪打ち所が悪ければ死ねるのでは?”と思ったとき目の前にサクラさんが現れた。


「やあ、久しぶりだな」


その言葉でサクラさんに最後に会ったのが告白されるより前であったことを思い出した。


「サクラさん…?わたし寝てしまったの?」

「いいや。君の夢に侵入できなくなって様子をのぞいてみたら君が限界そうだから攫ってしまおうと思ってね」

「攫う?」


呆然と彼を見上げると彼はにんまり笑って私に手を差し伸べた。


「そうさ。君も気づいていただろう?俺は君の元に来ていた白狐。君が望むのならばこの世界から君を攫ってあげよう」


私は彼のその手を迷いなく取った。そんな私を見て彼は心底嬉しそうに笑うと私を抱きしめた。


「よしじゃあ行くか」


彼はそう言うと私を抱き上げ空き教室のベランダへと移動した。

空はきれいな夕焼けなのに雨が降っていた。


「お、天泣とはこりゃ好都合」


サクラさんはにんまり笑ってどこからともなく取りだした赤い番傘を広げ、私を抱えたままベランダから飛び出した。


サクラさんは、足場のないはずの空を駆けとある神社までたどり着いた。


「さて、お姫さん。最終確認だ」


私を地面におろした彼は初めて見るほど真剣な顔で私の前に立っていた。


「お姫さんが望むならまだ引き返せる。けれどお姫さんが俺と共に来てくれるのならば、お姫さんの名前を俺に名乗ってはくれないか」


迷わなかったかというと噓になるが私は“私が限界である”と理解してくれた彼と生きたいと思った。

真剣な、しかし不安そうな彼に微笑み口を開く。


「私の名前は―…」


彼に名前を告げると彼は眼を見開いた後私を抱きしめてくれた。


「もう絶対離してあげられんから覚悟しといてな」


私は彼の腕の中これ以上ないほどの笑みを浮かべた。


目に痛いほどの夕焼けの中、確かに見通しの良い神社の前に立っていた二人が忽然といなくなったが、降り注ぐ天泣が隠してしまい誰にも気づかれることはなかった。


かなり勢いで書いたので内容が薄かったと思いますが、最後まで読んでいただいてありがとうございます。

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