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山門編-初国知らす王の章(40)-出雲の荒王(11)

<これまでのあらすじ>


 豊秋津島とよあきつしまの青垣山籠もれる山門やまとの国は、俳優わざをきの少年御統みすまると黒衣の少女とよ、そして多くの人の活躍と犠牲で剋軸香果実ときじくのかぐのこのみ厄災まがごとを乗り越えた。


 天孫あめみま磐余彦狭野姫いわれひこさのひめは、手研たぎしの乱を鎮めたあと、名を日照ひなてると改め、旅の仲間とともに出雲へ向かう。


 日照たちは吉備の統治を巡る争いに巻き込まれ、山門人の武彦とともに吉備の正統を取り戻す。


 日照は次兄の稲飯いないが出雲主の座を簒奪し、荒王すさのおうと怖れられていることを知り、出雲へ向かう。


 出雲の首邑、日隅邑ひのすみむらに到着した日照一行は、出雲主の仕掛けたまじないのひとやに囚われる。呪いを打ち払った日照は、出雲主たる次兄との対峙に挑む。



  ≪是非ご一読ください。ご感想、ご評価をいただけましたら幸いです。≫



<人物紹介>


 豊城彦とよきひこ

 俳優わざをきの少年・御統みすまると黒衣の少女・とよの生まれ変わり。入彦を父として育つ。自由奔放。


 豊鍬姫とよすきひめ

 俳優わざをきの少年・御統みすまると黒衣の少女・とよの生まれ変わり。入彦を父として育つ。呪能に秀でる。


 入彦いりひこ

 磯城族の氏上このかみ厄災やくさいを乗り越え、一角の人物に成長する。磯城の県主あがたぬし


 美茉姫みまつひめ

 入彦の妻。明るい美しさの女性。しとやかであり、闊達でもある。


 活人いくめ

 入彦と美茉姫の子。引っ込み思案で臆病者だが、やるときはやる。いつも兄と姉に翻弄される。


 大彦おおひこ

 入彦の伯父で舅。怪力無双。豪放な性格だが、娘の美茉姫には頭が上がらない。


 石飛いわたか

 磯城族の青年。入彦の舎人とねり


 百襲姫ももそひめ

 磯城族の斎宮。入彦の大伯母。呪能は無尽蔵。


 翠雨あおさめ

 入彦の愛馬。御統の友人。濡れたような深い青色の毛並み。


 如虎にょこ

 黒豹。豊の友人。厄災後は、磯城の三輪山の森の中で静かに暮らしている。


 かける

 豊鍬姫になついている熊鷹の子。


 日照ひなてる

 旧名は狭野姫さのひめ。かつて天孫族の氏上であり、磐余彦いわれひこを号して山門主であった。超絶美女だが、乱暴でわがまま。入彦を慕っている。


 手研たぎし

 故人。狭野姫の年上の甥。狭野姫が唯一甘えられた人物。入彦に狭野姫を託して逝く。


 珍彦うずひこ

 狭野姫の忠臣。手研の盟友。


 道臣みちのおみ

 狭野姫の忠臣。手研の盟友。


 吾曽利あそり

 天孫族の有力者。狭野姫に不満を抱いている。山門近傍に潜伏し、捲土重来を期す。


 太忍ふとに

 葛城族の氏上。山門の権力掌握をもくろむ。


 雄心をごころ

 旧名は剣根つるぎね。太忍の庶子。過去の所業を悔やみ、日照の従者となる。


 五瀬いつせ

 故人。狭野姫の長兄であり、手研の父。高千穂族とともに東の真秀場まほろばを目指し、天孫族を号する。初代の天津彦あまつひこ


 五十鈴媛いすずひめ

 五瀬の後妻。出雲族の出身で、製鉄技術者集団と縁が深い。手研にとっては、同年代の継母。


 香魚あゆ

 両性具有の人。神々も魅了する美しい瞳を持っている。


 荒王すさのおう

 出雲を実効支配する。元の名は稲飯いない。日照の実兄。


 五十鈴依媛いすずよりひめ

 須賀族の氏上。出雲の荒王となった稲飯を秘かに想う。


 秀火ほひ

 元須賀族。妖言により荒王の配下となっていたが、日照に解放される。


 若彦わかひこ

 元須賀族。妖言から解放されていたが、稲作で荒王を支える。



<用語>


 高天原たかまがはら:天上世界


 豊秋津島とよあきつしま:物語の舞台


 葦原中国あしはらのなかつこく:豊秋津島の別名


 山門やまと:豊秋津島のほぼ中央に位置する地方


 青垣山あおがきやま:山門の周囲を囲む山並み


 筑紫洲つくしのしま:豊秋津島の西部にある大きな島で、白日しらひ豊日とよひ建日たけひ日向ひむかの四地方を持つ


 みなか:先端の文明が栄えている西の海の果ての大陸


 氏上このかみ:一族の族長


 天神地祇あまつかみくにつかみ八百万やおよろずの神々


 祖霊おやたま:祖先の霊魂 氏上は死ぬと神上かむあがって祖霊となる


 精霊すみつたま:森羅万象に宿る魂 


 魑魅すだま:山林の異気から生まれた邪霊


 厄災まがこと:山門を呪いによって支配していた饒速日にぎはやひの体制を瓦解させた大災


 剋軸香果実ときじくのかぐのこのみ:高天原の神々が下界に投げ捨てた邪心が凝固したもの いつか高天原に帰ることを望み、時を戻す霊力を蓄えるため大地に寄生して石の花を咲かせる

 夏の陽射しが斎庭ゆにわを熱し始めたが、日照ひなてるの挙動を見つめる数百の出雲族は暑さを感じていなかった。それほど、誓約うけひを申し出た日照の声は清冷としており、立ち振る舞いは大気に芳香を放つようであった。


 斎庭の白砂に立つ一輪の花卉のような日照から立ち昇る呪気が風を起こし、薫風がゆるりと渦を巻いた。その薫りを吸い込んだ者は、役人であれ、門守であれ、邑人であれ、みな酔わされたように陶然とした。日照は、立つだけで万人を魅了する絶世の巫女なのである。


 出雲主稲飯の座るうてなだけが、結界を張り巡らしたかのように、日照から放たれる魅惑の影響外にあった。


「誓約か。さてもさても懐かしい」


 稲飯いないは目を細めて妹の艶姿を見下ろした。その目は現実を見ているが、心胸にはある日の夜景が映っていた。


 山門とその外界との境、孔舎衛坂くさえさか山門やまと御言持みこともちの前に痛恨の大敗を喫し、偉大な指導者であった兄、五瀬いつせの亡骸を暗い海の底へ沈め、海月のように波間に漂うしかなかったあの夜、稲飯と狭野姫は天孫族の行く先を占う誓約をした。その結果、兄と妹は、別々の道をゆくこととなった。


 いま再会し、名を日照と改めた妹と、またもや誓約することは兄妹の戯れ合いに過ぎないのか、それともこの世の根源の思惑なのか。ただ、この誓約で占われるのは天孫族の行く先ではなく、出雲族や須賀族の命運でもなく、稲飯と日照との呪能勝負である。


宣言のりことは、吾がさせてもらうぞ」


 稲飯は屹然と立ち上がり、台下の日照へ傲然と言い放った。日照は瞼を軽く閉じて、それを受容した。彼女の長い睫毛の先にまで、呪気が迸っている。


 稲飯はまず、真名井まないの清水を運ばせた。真名井とは、聖域に掘られた井戸のことた。そこから湧く水は、どのような穢れも祓う清らかさである。


 台上に真名井の水で満たされたたしらかが運ばれた。同じものが、日照の前にも据えられた。


 甕に湛えられた清水に夏の陽射しがきらめいている。その清らかな水面を震わせるように、稲飯が言挙げた。


「かけまくも畏き天常立尊あめのとこたちのみこと国常立尊くにのとこたちのみこと国狭槌尊くにさつちのみことに言挙げ奉る。この斎庭ゆにわをば祓い清めて神籬ひもろぎとなし、同母妹いろもの赤き心、もしも夜の南の赤星のごときであらば、霊代たましろより産みなす精霊すみつたまは、吾の産みなす精霊と必ずや相まぐわうであろう」


 朗々とした音吐で言霊を天空へ解き放つや、稲飯は首に掛けてあった首飾りを真名井の清水に浸し、浄められた首飾りを霊代として息を吹きかけ、狭霧を湧き出でさせた。稲飯の呪能を帯びた狭霧は、たちまち何らかの形を成そうと揺れ動き始めた。


 稲飯の霊産たまうみの呪いの作法と同調するように、日照は兄に献上するはずの剣を真名井の清水に浸し、浄められた剣を霊代として息を吹きかけ、狭霧を湧き出でさせた。


 稲飯と日照の呪能をふんだんに帯びた狭霧は、斎庭に満ち、台を覆って波打ち、いくつもの色彩を仄かにきらめかしつつ、間もなく、各々三体の人型に整えられた。


 出雲の人々や役人が固唾を飲んで見上げる上空で、雌雄定かならぬ狭霧の人型は、やがて美しい肢体の男女の姿となり、各々つがいとなって絡み合い、溶け合ったかと思うと、散華して光の粒子を人々の頭上に降り注いだ。荘厳で神秘的な光景に、出雲人たちは皆、陶酔のため息をもらすことすら忘れた。


 溌溂とした笑い声が、人々の視線と関心を集約した。稲飯が台上で胸をそらして笑っている。


「さてこと示したものよ。誓約うけひのとおり、確かに吾となれの精霊はまぐわった。汝の赤き心はかくのごときである」


 稲飯は首飾りを霊代として産みなした精霊を男霊をのたまとも女霊めのたまとも定めなかったが、ほぼ同時に産みなされた日照の精霊と余すことなく目交まぐわった。それは稲飯の無意識の選択に日照が寄り添った証である。ちなみに、目交いとは、見つめ合うことである。後の世にその言葉はもっと肉欲的な意味を帯びることになるが、実体を持たない精霊は、目と目を合わせることで一つになるのである。それが産霊むすひとなれば、目交うことによって有象を産みなすことができるのである。そうやって、世界に森羅万象が産まれたのである。なお、始まりの存在の一柱である神皇産霊かむむすひ高皇産霊たかみむすひであれば、その霊力の高大さから、独り身で産みなすことができた。


 それはともかく、同母妹いろもの赤裸々な心は稲飯の言挙げた誓約に適っており、稲飯は嬉々として日照を迎えるべく、台を降りようとした。その稲飯の喜躍する足取りを止めたのは、あの悪寒を放つ武人であった。名を振根ふるねという。


「お待ちなされませ、明主おかみよ」


 その振根が発した言葉は、ようやく陶酔から覚め、目の当たりにした霊妙の光景に感情が追いついた観衆が沸き上げ始めた熱気をもたちまちに冷えさせた。


「誓約の占形うらかたを疑ってはなるまいぞ」


 稲飯はさすがに口吻を尖らせた。


「決して疑ってはおるわけではございませぬ。ただあれにも些か試してみたいことがございます」


 振根は臆面もなく主へ向かってそう言った。


 大喝してよいはずである。氏上が認めたものを、陪人風情がさらに確かめるなど、僭越以外のなにものでもない。だが、稲飯は、振根の口述は正論として受け入れる思考構造となっている。違和感を覚えることはあるが、なぜか抗えない。聞き入れるべき忠言であると納得してしまうのである。


 振根は、氷刃を眼底に据え置いたような冷え凍えた視線を日照とその従者に向けた。


 その従者というのは雄心をごころのことであるが、彼は、大河すら凍てつかれる暴風雪を前にしてもたじろぐことはない。まして今は、全身全霊で護ると誓った日照が隣にいるのだ。が、その雄心が振根の眼差しを受けて冷や汗を滲ませたのは、彼が主の虚言を知っているからだ。


 日照が須賀族の氏上からの献上品と称して雄心に捧げ持たせている剣は、実は五十鈴依媛の鋳造した剣ではない。その剣、天羽々あまのはばきり大蛇おろちに奪われた。雄心の手にある剣は、日照の佩刀である韴霊剣ふつのみたまのつるぎである。天羽々切に勝るとも劣らぬ宝剣であるとはいえ、虚言であることに変わりはない。そのことが、雄心を怖れさせた。誓約に虚言を用いれば神罰を受けるという考え方が、この時代の常識である。


 振根の氷刃の視線を見返している日照にも外目にはうかがえぬ心の揺れがある。だがそれは雄心と同波長の揺れではない。あえていえば、闘志である。


 己の赤心を問う誓約に虚言を交えていたことは、百も承知の日照である。神罰が下るなら己の頭上のみであろうと腹を括っている。日照が心を揺蕩わせるのは、稲飯の声なき声に感応してのことだ。

 

 日照の赤心に雑色が混じっていたにも関わらず、誓約の言挙げが成就したのは偶然ではなく、御稜威みいつなる奇霊くしびの気まぐれでもない。日照と稲飯が産みなした精霊は互いに雌雄顕かならず、また、そもそも精霊に明らかに雌雄を別する境があるわけでもない。産みなされた精霊がそれぞれ目交わい昇華されたのは、 雌雄の組み合わせの結果ではなく、日照と稲飯の呪能の同調による。つまり稲飯は、日照の赤心を問う誓約を挑みながら、その真の声は、日照を、いや狭野姫を求めているのだ。


 日照は、死を死と感じるほど明確に、危険の存在を感知した。兄を、荒ぶる王として絡繰からくっているのは、兄の傍に立つ武人であると。


 兄を、武人の呪いから解き放たねばならない。振根の氷刃の眼光を、日照の炎矢のごとき眼差しが跳ね返した。


 氷を砕いた炎の余熱を皮膚で感じた振根は不思議そうに小首を傾げた。あの力を得て以来、己の眼光に抗った者は稀にいたが、砕き、跳ね返した者はいなかった。

 

(…おもしろい)


 振根の闘争心が滾った。炎矢の眼差しで挑み来る女を屈服させる想像は、彼の嗜虐性を刺激した。しかもその女は、辺りを照らすほどの美しさではないか。振根の欲望が舌なめずりした。


「何を試すという」


 不満を押し殺したような稲飯の声で、振根は卑猥な想像を終えた。


真実まこと、明主の妹君を名乗るに相応しい呪能ほきのみなをお持ちであられるのか…」


 言い終わらぬうちに、振根は台のきざはしを降り始めた。主に対して、不遜な振るまいと言わざるを得ない 。が、稲飯は彼を咎める叱声を絞り出すことができない。


 振根は日照と同じ白砂に降り立った。おなじ白砂であるにも関わらず、振根が踏み鳴らす音は、日照のときの涼やかな鈴の音色とはかけはなれ、腐れ沼の水疱が弾けるような不気味な音を奏でた。踏んだ白砂が、たちまち黒砂に変じそうである。


 振根が日照の眼前に立った。様子を見守る出雲人や役人の大半は、振根が出雲主に取り入る権力者でなければ罵声を浴びせかけたそうな顔をしていたが、実際には言葉を飲み下しただけである。


「出雲の御言持みこともち、振根である」


 請われてもないのに、振根は胸を反らして名乗りを上げた。


 御言持とは、氏上を支える最高位補佐官である。西の海の果ての大陸風に呼べば、丞相ということになる。もっとも、西の海の果ての帝国と豊秋津島とよあきつしまの人隅を占めるにすぎない出雲族とは、その国力も文化水準も比較の対象にすらなれない。せいぜい蛮族の副酋長程度であろう。


 孔舎衛坂で天孫族を打ち破った大日は山門の御言持であったが、その爽やかで威風堂々とした出で立ちを思うと、同じ言葉とは思えないほど、出雲の御言持ははるかに質が悪い。


「御身の名を聞くことは、五十鈴依媛様の言依ことよさしにはありませぬ」


 眼差しの鋭さはそのままに、しかし唾棄を催す悪感情は抑えた日照である。


「だが、この名を覚えておいてもらうことになろう」


「それはそれとして、どうかそこをお退きください。私は、五十鈴依媛様の御剣を奉らねばなりません」


「須賀族の氏上ごときの使い人が、出雲の明主へ直に奉ることができようはずがなかろう」


「…わたくしは、明主の同母妹いろもでございますよ」


「さて、そこよ」


 話柄を狙い通りに引き込めそうな手応えを得て、振根は欲深けな口の端を軽く歪めた。


「明主の御妹君ならば、今ごろは遠つ山門に坐されているはず。須賀族ごときに使われているはずはない」


「御身の知らぬことは獣入ししいりの蜆よりも多うございますよ」


 獣入りの海は、遥か後に宍道湖と呼ばれる。


「口の減らぬ娘子をみなであることよ」


「減る減らぬはわたくしの知らぬこと。聞き開かれましたなら、お退きくださいませ」


「我を退かせる方法すべは他にもあるぞ」


「それは…?」


 とは問わず、日照は眼差しに挑発を込めた。


 出雲の御言持が何を言いたいかの推測はつく。それは次兄に寄生する害虫を駆除しなければならない日照にとっても好都合である。


「我と続けて誓約すべし」


 それは誓約という祀儀しぎに託つけた決闘である。むろん、日照はその申し出を受けた。衆目の中で振根を打ち負かせば、排斥が容易くなる。


 だが、日照は振根を見誤ったというべきであろう。兄を想うあまり、彼がその兄をも従えているという事実を直視していなかった。

 日本書紀でも古事記でも、序盤は神々が生き生きと国土を形成していく神話が描かれています。(せんだいきずほんぎの件も)


 その神話が、舎人親王や太安麻呂に伝承や記録を伝えた人々の空想に基づくものであったとしたら、古代日本人はは現代でも通用する想像力を備えたクリエイターだったのではないでしょうか。


 さて、数々の神話のうち、もっとも有名な一幕のひとつは、天照大神の岩戸隠れではないでしょうか。


 天照大神は弟の素戔嗚尊のあまりの傍若無人ぶりに嫌気を差し、岩戸に閉じこもってしまいます。


 その物語の前段に、素戔嗚尊が高天原を奪おうとしているのではないかと疑った天照大御神が赤心を示すように命じます。そこで素戔嗚尊は、神産みによって赤心を明らかにすることを誓います。男神を産めば、赤心だということです。


 これは、一種の誓約うけひだと思います。日本書紀の本筋では、素戔嗚尊が天照大神の剣から男神を産み、天照大神が素戔嗚尊の首飾りから女神を産みます。素戔嗚尊は男神を産んだのですが、赤心は示されたはずですが、天照大神は自分の剣から産まれたのだから、男神は自分のものだと難癖をつけます。古事記や先代旧事本紀では、産まれた神々の数が異なるものの、ほぼ同様の筋となっています。


 日本書紀の「一書」によれば、天照大神が難癖をつけず、素戔嗚尊の赤心を認めたとするものもあります。霊代となった剣や勾玉などは、日本書紀の「一書」や古事記、先代旧事本紀でその所有者が天照大神であったり、素戔嗚尊であったりします。


 ところで、素戔嗚尊の赤心を示す神産みに、なぜ天照大神が参加しているのか、という疑問があるにはあります。


 ともかく、天照大神に赤心を認めさせた素戔嗚尊は、高天原で好き勝手は悪事を働きます。結局、赤心ではなかったということなのでしょうか。


 嫌気を差した天照大神は岩戸に籠り、高天原の神々の知恵によって、再び姿を現します。素戔嗚尊は罪を贖い、高天原を追放され、この一幕は結末となります。


 おそらく、何らかの事実が、様々な人の口を介するうちに色合いを変えたり、忖度や思惑が加わったりして、幾筋かの伝承・記録に分岐したのでしょう。


 天照大神と素戔嗚尊。この二柱の神を軸とした物語に、どのような史実があったのか、想像を掻き立てられますね。

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