山門編-初国知らす王の章(30)-出雲の荒王(1)
<これまでのあらすじ>
豊秋津島の青垣山籠もれる山門の国は、俳優の少年御統と黒衣の少女豊、そして多くの人の活躍と犠牲で剋軸香果実の厄災を乗り越えた。
天孫の磐余彦狭野姫を献身的に支えてきた手研は、恣意の感情を露わにし始めた彼女を正道に立ち戻らせるべく、あえて簒奪者を演じ、磯城族の県主の入彦に自らを斃させる。狭野姫は本当に愛すべき人が誰であったかを知り、深い悔恨に陥る。
狭野姫は山門を去り、出雲へ向かう。豊城彦、豊鍬姫、黒豹の如虎、そして葛城族の剣根が旅の仲間に加わる。狭野姫は名を日照と改め、剣根には雄心の名を授ける。
日照たちは吉備の統治を巡る争いに巻き込まれる。先の吉備主が崩って後、吉備は出雲からの異邦人である温羅の呪法に支配される。吉備主の遺児である阿曽姫を擁して反抗する集団を率いるのは山門人の武彦であり、日照一行は武彦に与力する。
吉備の支配を確たるものとするために温羅が開催した直会の相嘗大会を武彦が急襲し、日照の妖艶にして荘厳な神楽舞により、温羅の呪いに誑かされていた吉備人は正気を取り戻す。武彦と阿曽姫は吉備の正統を取り戻すが、温羅を取り逃す。
≪是非ご一読ください。ご感想、ご評価をいただけましたら幸いです。≫
<人物紹介>
豊城彦
俳優の少年・御統と黒衣の少女・豊の生まれ変わり。入彦を父として育つ。自由奔放。
豊鍬姫
俳優の少年・御統と黒衣の少女・豊の生まれ変わり。入彦を父として育つ。呪能に秀でる。
入彦
磯城族の氏上。厄災を乗り越え、一角の人物に成長する。磯城の県主。
美茉姫
入彦の妻。明るい美しさの女性。淑やかであり、闊達でもある。
活人
入彦と美茉姫の子。引っ込み思案で臆病者だが、やるときはやる。いつも兄と姉に翻弄される。
大彦
入彦の伯父で舅。怪力無双。豪放な性格だが、娘の美茉姫には頭が上がらない。
石飛
磯城族の青年。入彦の舎人。
百襲姫
磯城族の斎宮。入彦の大伯母。呪能は無尽蔵。
翠雨
入彦の愛馬。御統の友人。濡れたような深い青色の毛並み。
如虎
黒豹。豊の友人。厄災後は、磯城の三輪山の森の中で静かに暮らしている。
翔
豊鍬姫になついている熊鷹の子。
日照
旧名は狭野姫。かつて天孫族の氏上であり、磐余彦を号して山門主であった。超絶美女だが、乱暴でわがまま。入彦を慕っている。
手研
故人。狭野姫の年上の甥。狭野姫が唯一甘えられた人物。入彦に狭野姫を託して逝く。
珍彦
狭野姫の忠臣。手研の盟友。
道臣
狭野姫の忠臣。手研の盟友。
吾曽利
天孫族の有力者。狭野姫に不満を抱いている。山門近傍に潜伏し、捲土重来を期す。
太忍
葛城族の氏上。山門の権力掌握をもくろむ。
雄心
旧名は剣根。太忍の庶子。過去の所業を悔やみ、日照の従者となる。
五瀬
故人。狭野姫の長兄であり、手研の父。高千穂族とともに東の真秀場を目指し、天孫族を号する。初代の天津彦。
五十鈴媛
五瀬の後妻。出雲族の出身で、製鉄技術者集団と縁が深い。手研にとっては、同年代の継母。
香魚
両性具有の人。神々も魅了する美しい瞳を持っている。
武彦
齢は古老であるはずだが、見た目は壮年。かつては磯城の颱と恐れられた暴れん坊。
真守
武彦に心酔する剣の達人。忌瓮部であり吉備人。
温羅
出雲人。直会の呪術で吉備の支配を目論む。
王仁
出雲人。温羅に忠実な弟。剛力無双。
<用語>
高天原:天上世界
豊秋津島:物語の舞台
葦原中国:豊秋津島の別名
山門:豊秋津島のほぼ中央に位置する地方
青垣山:山門の周囲を囲む山並み
筑紫洲:豊秋津島の西部にある大きな島で、白日、豊日、建日、日向の四地方を持つ
真:西の海の果ての大陸にある巨大帝国
氏上:一族の族長
天神地祇:八百万の神々
祖霊:祖先の霊魂 氏上は死ぬと神上がって祖霊となる
精霊:森羅万象に宿る魂
魑魅:山林の異気から生まれた邪霊
厄災:山門を呪いによって支配していた饒速日の体制を瓦解させた大災
剋軸香果実:高天原の神々が下界に投げ捨てた邪心が凝固したもの いつか高天原に帰ることを望み、時を戻す霊力を蓄えるため大地に寄生して石の花を咲かせる
吉備から出雲へと向かう径は、重畳たる山々を踏み越えてゆく径である。
視野にようやく草原が広がったとき、その向こうにぎがたる大山が聳え立っているかに見えたが、それは巨大な雲であった。まるで天界を統べる主のような威厳で下界を睥睨しているが、その白い姿から吹き下ろす風に雪山の厳しさはなく、初夏の爽やかさがあった。
春の初めに吉備を発ち、季節ひとつの間、山渓を巡った。行程は峻険であったが春の山中の恵みは豊かで、食料にも飲水にも困難はなかった。
「あのまま日女さまが吉備主になれていたんじゃないかなぁ」
山桃の実を頬張りながら、豊城彦が言った。その口ぶりがあまり残念そうでもなかったのは、束縛を嫌う豊城彦の本性が、人間社会よりも野性を好むからだ。
「良き童女でもいたか」
瓠の水で喉を鳴らした雄心が豊城彦をからかった。
「雄兄こそ、ぐずぐずしてると寡男になるぞ」
山桃の種を吐いたついでに、豊城彦はそう返した。ふたりはそういう軽口を交わしあえる仲になっている。
それにしても、吉備に可憐な女児や妙齢の佳人がいないはずはなく、現に、吉備の解放者である雄大と豊城彦は艶めいた視線を集めた。二人にとっての不幸は、間近に絶世の美女と数年後にはその仲間入りをするのに疑いがない女童がいたことだ。
その美女は絵心のある神が描いたかのよう優美さで小岩に腰掛けているし、女童は彼女が翔と名付けた熊鷹の子と戯れている。その彼らを少し離れた木陰で寝そべりながら見守る黒毛の獣がいる、というのが、日照一行の木立での憩いの光景だ。
日照は光がさざなみを立てる初夏の草原を見つめている。
吉備は、正統を継ぐ阿曽姫の健気な姿に寄せられる吉備人の誠心を武彦が力強く牽引したことにより、速やかに混乱を収束した。
温羅とその弟の王仁は吉備族の追討から逃げきり、海に浮かぶ孤島に砦を築き、新たな本拠とした。その砦の攻略には吉備人の多大な犠牲と日数を要すると考えた武彦は、あえて温羅を討伐せず、力を喪失した吉備の復興を優先させた。
武彦と阿曽姫の方針に異存はなかった日照だが、彼女は次第に微妙な立場に置かれることになった。
吉備の簒奪を狙った温羅への反抗を指導したのは武彦であり、吉備主の血統を継ぐのは阿曽姫で疑いない。しかし、温羅の呪法から吉備人の魂を解放したのは、日照の神楽ではなかったか。吉備の復興に尽力し、阿曽姫を崇める心を日増しに増やしていく吉備人であったが、身体と心のどこかが、日照の神楽を求めて疼いている。
このままでは、己が第二の温羅になりかねないと危惧した日照は、雄大や豊城彦、豊鍬姫の意見を聞いたあと、武彦を訪れた。
その後、吉備には、ある噂が広まった。
「先の吉備主の御世、天津彦を名乗った外人が吉備と出雲の仲を取りもったことがあった。天津彦は吉備主の褒美をまんまとせしめたが、その裏で出雲主と引合し、出雲主が温羅を吉備に差し向ける下ごしらえを為した。日照というあの山門人は、天津彦の血を継いでいる」
噂の内容は、大方このようなものであった。なにしろ事実もしっかりと含まれているから、吉備人がその話を広めるのに、さほどのときは必要なかった。そのうえ、吉備人の年配者の中には、天津彦が出雲で交渉している間、吉備の片隅に逗留していた童女の面影を覚えている者がいた。その童女こそ、まだ狭野姫であった頃の日照である。
吉備人が日照一行に向ける視線の温度が下がった。頃合いを見定めた日照は、阿曽姫と武彦に断ったうえで、仲間と共に吉備を去ることにした。
吉備から出雲へ向かう小集団を見送る吉備人の姿はそれほど多くはなかったが、日照に哀愁はない。何しろあの噂は、日照自身が武彦と真守に頼んで流してもらったものである。むしろ、阿曽姫と武彦、真守以外にも見送人がいたことに、日照はこの先の旅路に弾みを得た思いだった。
筑紫島の日向の高千穂族の氏上の子として生まれて以来、民の指導者たる道を知らず知らず歩いてきた。紆余曲折はあるにしても道が定まっているということは、負うべき責任もまた定まっている。
高千穂族、天孫族、山門諸族、吉備族と、彼らの真秀場へ至る道を導いてきた。たしかに有意義な使命感があり、達成感もあった。
しかし今は、小さな旅の集団の一員として、初夏の草原を見つめている。この集団をなす人間は、みなそれぞれに自分の足で歩くことのできる者ばかりである。一応はこの集団の行く先を決める立場にはあるが、誰をも従わせる必要はなく、彼らを守ることさえできればそれでよい。そしてこの集団の誰もが、仲間を助けるべく行動することができ、そしてそれを望んでいる。日照にとって、気軽で安心できる旅路である。
ひとりの感情だけを抱いて眺める風景は光彩に溢れている。
起伏はあるが、見渡す限りの草原である。喬木はそれほど多くなく、灌木の群生が視界に幾つか見える。
左手に光が列をなして流れてゆくのは、そこに川があるからだろう。川幅は広いようだ。
ふと、日照は小岩から立ち上がった。その動きが、危険を察知した牝鹿のように素早かったので、近くにいた雄心は怪訝な顔をして、
「日女さま、いかがなされましたか」
と、問うて、辺りを見渡した。彼の視界の中は平和そのものである。
雄心には応えず、日照は歩き出した。歩みはすぐに疾走に変わった。
川面を流れる光の帯に異質な輝きを見た。今はそう答えるしかないが、それでは雄心に、日照の心象に映った凶い予感を伝えられない。ゆえに行動で示した。
日照の影を追って、雄心ら残された者たちも一斉に走りだした。
川辺に近付くにつれ、風に清涼さが増した。その涼しさを蒸発させるほど、日照は身体を火照らせていた。
日照の足が、汀で水飛沫をあげた。その音で、川の中に立っていた女性が振り返った。
美しい女性であった。その容姿はもちろん、花顔を色づけている清らかさは、心の澄明を映しているのだろう。それは幽明の境に射す光の清らかさと言ってよかった。つまりその女性は、川の深みに進んでいくことで、現し世を去ろうとしているのである。
川の中の女性は、剣を両手に捧げていた。黄泉路の加護を、川の神に祈ろうとしていたのだろう。
女性の柔らげな両手が捧げるその剣は、鉄であった。かつて天孫族を率いていた日照には鉄の知識があり、その鉄剣は相当の業物と認められた。
「河伯に剣を献り、何を祈っておられましょうや」
乱れた息を整えて、日照は刺激を与えぬ声で問いかけた。
水中の女性は、汀に現れた姿を人か精霊かと見定めるように目を細めてから、
「わたくしの身を案じてわざわざ来られたのか」
と、返した。凛とした響きに威厳のある声である。この声だけで、水中の女性がただの女人ではなく、指導者の立場にいる人物なのだとわかる。巫であるのなら、斎王であろう。
「ご案じ召されずとも、水はこの身を冷やしはせぬ。むしろ、ちょうど心地よい」
余計な世話を焼かず、通り過ぎてもらいたい。そう受け取った日照であるが、水中の女性に、もう岸辺に上がる気がないことは日照には明白である。
雄心たちが追いついた。雄心もこの場景を見て察したらしく、川に入ろうとしたが、日照の手に制せられた。
「その身は冷やされずとも、御心を冷やされては人は損なわれます。どうかお上がりなさってください」
日照は冥路を降りようとする女性を引き戻そうと試みた。
ところで、水中の女性が斎王であったとして、もしも重要な儀式の最中であったのなら日照は大罪を犯したことになり、川の祇の怒りを受けることになったであろう。しかし、川岸に壇は築かれておらず、祝詞も聞こえなかった。そのため女性が川中に身を浸しているのは儀式ではなく、入水であると日照は判断し、そしてそれは過ちではなかった。日照が遠目に見た異質の光は、女性が捧げる鉄剣が放った光であろうが、女性の心意を吸って、不吉な輝きとなったのであろう。
川の中の女性は、なおも日照を見つめる瞳に親しみを灯さない。自分の行為を妨げようとする人物の出現が、単なる偶然であるのか、それとも御稜威なる霊妙の意思であるのか、見定めようとしている。
「わたくしは山門から参りました。名は日照と申します」
日照は川の中の女性の頑なさを説こうと試みたが、予想以上の反応があった。
「山門から参られたのか。まことか」
川の中の女性は瞠目した。夏の夜空の真珠星のように輝く瞳で、汀に立つ日照の過去をも見通そうとするように見つめた。
「御身は、まさか狭野姫殿か」
今度は日照が驚愕した。このような山門を遠く離れた地で、かつての名を知る人がいようとは夢にも思えぬことであった。
摩訶不思議に打たれる二人の間を、川の水が夏の日差しを運んでさらさらと流れてゆく。
「なにゆえ、わたくしの古き名をお知りなのですか。御身の御名をお明かし願えませぬか」
日照は奇怪さの中から脱せなかったが、川の中の女性は何かを了知したという微笑みを頬に浮かべた。
二人のやり取りを固唾をのんで見守っている雄心たちにも驚きが広がった。日照の護衛を己に課している雄心は驚きを危惧に転じて剣の柄に手を置いたが、豊城彦は相変わらず呑気だ。
「日女さまを知っているなら怖がることないだろ。こっちに来て、日女さまに悩みを聞いてもらうといいよ」
従兄弟の肩を叩いて助言するかのような豊城彦の言い草である。これには、川の中の女性も、頑なさを多少解かざるを得なかった。
「はは、男童よ、我はなにも恐れているわけではないが、ひとつ問おう。汝の主はどのような悩みをも解きほぐしてくれようか」
日照の従僕と勘違いされたようだが、豊城彦は気づいていない。隣の豊鍬姫を見て、
「だって日女さまだもんな」
と、同意を求めた。豊鍬姫は済ました顔で、
「ことのはをたれに運ぶや浮日草」
と詠い、清明な声を川面に流した。
「童らの主は、吾の患いを払ってくれようか」
川の中の女人は豊鍬姫の無垢さを受けて朗らかに微笑んだが、瞳の光をまだ緩ませてはいない。ちなみに、浮日草は睡蓮の一種で、水面に日の雫のような白い花を咲かせる。その花弁は生薬として使われ、悪気を取り去る。
「父母から授かった名を棄てたわたくしですが、父母の教えは喪ってはおりません。御身がもしも患いに苛まれておいでなら、それを祓うお手伝いをさせていただけませぬか」
惻隠の情は、人として決して喪ってはならぬ心の根幹である。
「ならば、誓約なされよ。御身が、その汀の土で盞を作り、それに言霊を乗せて吾がもとまで流し至らすことができたなら、わたくしは御身の言の葉に従いましょう」
川の中の女人は、いつの間にか挑むような目で日照を見つめている。彼女は、日照が頼むに足る呪能を有しているのか、試そうというのだ。ちなみに、盞とは酒杯のことだ。
自ら冥路を降りようとする者など放っておけばよい。難題をふっかけてきた女人に、雄心は反感の一瞥を投げかけて横を向いたが、その視界の下で、日照は汀の土を集め始めた。
川辺の土は水分を帯びているから、土器のように捏ねることはできる。だが川水に浮かべれば、すぐに溶け、元の土塊に戻って川底に沈むのは必定のはずだ。
「あれいての、氷魚の鰭のあらあらと、あれいての、鰐の尾鰭のいくいくと、瞼へ、瞼へ」
言霊を織り込むようにして土を捏ねた日照は、艀の象をした土器を作った。それを川面に浮かべ、風招くするように口をすぼめて息を吹きかけると、滑らかに川面を流れ始めた。
土の艀は川の中の女人の腰の辺りにまでたどり着くと、ようやく水中に沈んだ。その様を最後まで見ることなく、顔つきを強張らせた女人は川辺へ近づき、汀に上がるや、日照の正面で跪き、仰ぎ見て恭しく剣を捧げた。
「吾君」
と、女人は日照を呼んだ。吾君とは親しんで相手を呼ぶときの人代名詞だが、我が君という意味も持つ。川から上がった女人は、日照が誓約によって映し出した霊妙な呪能に感動し、順服したのである。
「わたくしは、名を五十鈴依媛と申し、鉄を冶金る族の氏上でございます。この鉄剣は、吾が族が鋳上げたものにございます」
女人は素性を明かし、捧げた鉄拳をより高く持上げた。その献上の容姿を正視し、五十鈴依媛の眼差しから真摯なものを感じた日照は、鉄剣を受け取り、天日にかざした。
驚くほど軽やかな剣であった。肉厚であるのに羽毛のように軽く、手を離せば、そのまま虚空に浮き上がるのではないかと思えた。
「この剣を、天羽々斬と名付けましょう」
そう言挙げした以上、日照は天羽々斬だけでなく、五十鈴依媛を川中に運んだ憂慮はもちろん、その族の難問をも背負うことになる。
「わたくしは、名を五十鈴依媛と申し、鉄を冶金る族の氏上でございます。この鉄剣は、吾が族が鋳上げたものにございます」
女人は素性を明かし、捧げた鉄拳をより高く持上げた。その献上の容姿を正視し、五十鈴依媛の眼差しから真摯なものを感じた日照は、鉄剣を受け取り、天日にかざした。
驚くほど軽やかな剣であった。肉厚であるのに羽毛のように軽く、手を離せば、そのまま虚空に浮き上がるのではないかと思えた。
「この剣を、天羽々斬と名付けましょう」
そう言挙げした以上、日照は天羽々斬だけでなく、五十鈴依媛を川中に運んだ彼女の心痛はもちろん、彼女が氏上であるのならその族の難問をも背負うことになる。そのことを自覚しながら、しかし日照に不安はなかった。
天羽々斬の切っ先が指す天空はどこまでも青く、剣身を輝かく日輪は昇ってゆくばかりである。まるで剣に天空へ導かれるように、日照の体内に溌剌としたものが満ちた。
先日の夜、何気に外へ出てみると、北斗七星がとてもきれいに見えました。
昼夜に関わらず、空を見上げるときにいつも思うのは、上古の人々は空や星を見て、何を考えていたのかな、ということです。現在の地上に上古の面影はほぼありませんが、空の風景はそんなに変わっていないでしょうからね。特に星空は。
中国では、北斗七星を天帝の乗り物に見立てるなど、数々の伝説に語られています。人の生死を司る星として、諸葛亮孔明が五丈原で北斗七星に延命を祈る光景は、三国志演義の中の名場面の一つです。
我が国の歴史書では、北斗七星はあまりメジャーではないようです。太陽神である天照大神を頂点とするその対比として、夜に瞬く星々はあまり良い扱いをされなかったのかもしれません。日本書紀には星の神としては天津甕星が登場するだけで、しかも悪しき神呼ばわりされています。
北斗七星がわが国でも重要な星座とされるのは、中国から道教思想や陰陽思想が伝来してからのようです。
天津甕星は国譲り神話の中で登場します。経津主と武甕槌が出雲の大国主に葦原中国の国譲りを迫った際に、ついでに討伐されてしまいます。舞台が出雲であったことから、天津甕星はおそらく出雲系の神として伝承されていたのでしょう。
これからしばらくは、出雲を舞台にお話を進めたいと思います。
なお、天津甕星を金星とする説もあるようです。




