Hide and Seek
「とりあえずロイをすぐに戻せ」
真っ白な体毛に覆われた醜い老人はそう言うと、壁から消えた。
「優子」
ゼンゾーがユーコを見つめ、言った。
「スティーブが帰って来て、ヘリの燃料や準備が出来次第、ユニを島へ戻す。いいね?」
「誰とお話してたの?」
「おれのじいちゃんだ。じいちゃんがコイツを必要としてる」
そう言ってユニオの細い肩を掴む。
ユーコは答えず、うつむいた。
ユニオが2人の顔を交互に見て、困ったようにこっちを向いた。私は椅子に腰掛けたまま、微笑みを浮かべて静かに首を振る。脅しが通じ、私を見ないように向こうを向いた。そして、ゼンゾーに言う。
「アーミは見つからなくていいの?」
「だってお前、見つける気ないだろ」
ゼンゾーが気づいていた。
「見つけたらおれが殺されるとか思って。すぐ側にいても『いない』とか言いそうなやつなんか、もう要らん。帰れ」
『要らん』と言われてユニオが泣きそうな表情をする。
甘いな。その程度で感情を相手の好きなようにされるとは。
うつむきながら、ユニオが何か考えを巡らせている。ユニコーンの思考していることなど手に取るようにわかる。単純だ。
ゼンゾーと別れたくない。ユーコと別れたくない。島に帰りたくない。どうすれば島に帰らずに済むか? そんなところだろう。
そして導き出す結論は? アーミティアスを捕まえればすぐに帰される。捕まえなくても先程ゼンゾーが言った通りにすぐ帰される。
帰されるのを嫌って逃げ出すか? いや、2人の元を離れはしないだろう。
ならば……。
私はユニオに向かって微笑むと、立ち上がった。窓に向かい、歩きながら目配せをする。窓を、開けた。
「ムッ!?」
ゼンゾーがこちらを見た。
「アーミ!!」
胸元から銃を取り出し、追って来る。
私は既に窓の外にいた。
見つかった! しまった! みたいな表情を作り、逃げ出してやる。
そうだ。追って来い。
窓の向こうの部屋の中で、ユニオは自分の考え通りになったことを喜んでいるように見えた。私が捕まれば島に帰される、私を捕まえる気がなくても同じだ。
ならば私がずっとギリギリの線で追われていればいい。
姿を見せたり隠したりしながら、捕まりそうで捕まらなければ、ゼンゾーはユニオに協力を求めざるを得ない。
「くそっ……! どこへ行った!?」
広大な愛田谷家の敷地内にある森の中での隠れんぼだ。今は市の所有だとか、関係ない。
「ユニっ! ユニーーっ!」
アーミティアスの姿を見失うと、思った通り、ゼンゾーがユニオに助けを求めた。ユニコーンの姿を見失わず追えるのはユニコーンだけだ。ユニオは必要とされている。必要なものは島へ帰したくはないはずだ。
しかし、返事がなかった。
「ユニ! 力を貸せ! アーミを探知してくれ!」
気配がない。先程まで部屋の中にいたユニオの……そして、ユーコの気配もなかった。
これは嬉しい誤算だった。ゼンゾーが側にいなくなったのをいい機会として、彼らは行動に出たようだ。私が姿を消したまま、様子を見に戻ると、確かにそこに2人の姿は消えていた。屋敷の中のどこにも気配がない。
どうやら始まったようだ。
最終章に向けての、血の惨劇が。




