思い出作り
ゼンゾー、ユーコ、ユニオの3人は、次の日も車で出掛けて行った。
ハンドルを握りながらゼンゾーが言う。
「今日は町中を歩いてみよう。人の匂いの多いところでは鼻は鈍るが、アーミティアスを見かけた人がいるかもしれない。聞き込みだ」
「どこでもいいよ、ユニくんと一緒に歩けるなら」
後部座席のユーコが微笑みながら答える。
「いっぱい思い出を作りたい」
「どうせアーミは見つからないよ」
ユーコの隣でユニオが言った。
「アーミは姿を隠せるから」
「いや、いくらなんでも複数の人間に対して姿を隠せるわけがねえ。アーミティアスには特徴がありすぎる。誰か見ていたら覚えてるはずだ」
「探すのやめようよ、ゼンゾー」
「なんでだ? なんでそんなことを言う、ユニ?」
「ゼンゾーが殺されちゃうからだってば」
「ハッ! お前、アーミに脅されてでもいるのか?」
ゼンゾーがそう言いながら、こちらを振り向いた。
「俺を信じろ。すぐ側にアーミがいたら俺の鼻が感じ取らねぇわけないだろ」
「殺さ……ないでね?」
そう言いながらユニオが不安そうに、私のほうを見た。私はにっこり笑いながらも、隣に私が座っていることを仄めかそうとする彼にツノを向ける。
簡単だ。ここにいる者達は、ユニオを除き、助手席の犬も含めて、私がここにいることに気づいていない。いつでも殺せるのだ。
しかし私はそれをするつもりはない。そんなことをしても楽しくはないからだ。私の楽しみは、そんなことではない。今はその時が訪れるのを、ただ待っている。
「よし。このへんでどこかに車停めて、歩いてみよう」
ゼンゾーはそう言うとショッピングモールの駐車場に車を進入させた。
ショッピングモールの中を3人並んで歩いた。ゼンゾーはアーミティアスの人相をCGで描いてプリントしたものを持っている。なかなかの出来だ。それをすれ違う人達に見せて聞き込みをするが、誰もが知らないと言う。こんな綺麗な人を見かけていたら覚えていないわけがないと言う。
なかなか、笑わせる。
すぐお前の目の前にいるというのに。
「わあっ! あの服、ユニくんに似合いそう」
そう言ってユーコがユニオの手を引いて歩き出した。
「勝手に違う方向行かないで」
ゼンゾーが気づき、慌てて後をついて行く。
「聞き込み捜査中なんだ。俺はそっちに集中してる。はぐれちゃうよ」
「あっ。こっちのセーター、ゼンゾーさんに似合いそう」
ユーコがそう言うと、ゼンゾーの顔が嬉しそうに歪んだ。
「えっ? そ、そうかい?」
「いっつもそのヨレヨレスーツばかり着てるじゃないですか。たまにはお洒落しよう」
「うっ、そっ、そうだな」
結局、ゼンゾーもアーミティアスのことなどすっかり忘れてデートを始めた。
3人でモール内のカフェに入り、食事を楽しむ。息子のユニオが大きいので、傍から見ればユーコとユニオがカップルで、ゼンゾーは2人にくっついている不審者という感じだ。
「わあ〜、早速着てみようかなあ、このセーター」
はしゃぐゼンゾーがみっともない。
「ちょっ……! こんなところで上半身下着姿にならないでくださいよ」
ユーコが恐ろしい顔をして言う。
「着替えるならトイレにでも行ってしてください」
ユニオはサンドイッチを楽しそうに食べている。
「じゃ、ちょっと着替えて来る」
ゼンゾーが立ち上がり、買ってもらったばかりのセーターの入っている紙袋を持って店を出て行った。
「ふふ……。産まれて初めて大好きな女性から貰ったプレゼント……。ふふ」
ゼンゾーが店を出て行くと、ずっとそれを窓の外から見つめていたライオンが動き出した。
「ユニくん」
ユーコが隣に座るユニオに話しかける。
「美味しい?」
「うん」
ユニオは優しくユーコを見つめ、微笑んだ。
「でも、ママのごはんのほうがもっと美味しいけどね」
「帰らなくていいからね」
「えっ?」
「ずっとここにいていいから」
「そうなの?」
ユニオが不思議そうにユーコの顔を見る。
「でも、思い出作りって言ったじゃん?」
「思い出作りだよ」
ユーコはにっこり笑いながら、言った。
「ユニくんと会えなくなるのは本当なんだから」
そこへ横からライオンの巨体がやって来て、声をかけた。
「優子ちゃん」
「あれ、ゴゴさん?」
ユーコがびっくりした顔を向ける。
「どうしたの? いつからいたの?」
「話があった。だからだ」
ゴゴはそう言うと、辺りを覗った。
「アイタガヤのいるところでは出来ない。ちょっと一緒に来てほしい」




