ゴゴとユーコの会話
ゴゴが先に部屋に入ると、覚悟を決めたような顔でユーコが後から入って来た。その足元に寄り添って、騎士のように小型犬がついて来た。
「ちろくんは男だな」
ゴゴが犬を褒める。
「とても勇敢だ。ゴゴは君を尊敬する」
「聞かせてください」
ユーコが言った。
「どうしてユニくんを島に帰そうとするんですか? 帰さないと、あたしがどうなるの?」
「まぁ、座れ」
ゴゴは床に直接座り込むと、ベッドの上をユーコに勧めた。そして、聞く。
「ユニオがユニコーンだということは知っているな?」
「もちろんです!」
拗ねるように、ユーコが言う。
「あたしがユニくんについて知らないことなんて、何もないんだから……っ!」
「ならば、ユニコーンの生態は知ってるか? 人間とユニコーンの違うところは?」
「ツノがあるでしょう? あたし以外の人には見えないみたいだけど……」
「他にもあるぞ」
「あっ。ジャンプ力が凄い?」
「そんなことではない」
「あっ!」
ユーコは思い出したようだ。
「レバーが大好き! しまった、帰りに馬レバ買って帰るつもりだったのに……ゼンゾーのせいで……」
「そうだ。人間のレバーも大好きだぞ」
ゴゴが冷静に言う。
「子供を産んでいない女性のは特に、若さを保つために、喜んで食べる」
「ツノからでしょう!?」
ユーコがムキになる。
「口から食べるんじゃなくて、ツノでちょんと触れただけだもん! あたし、見たもん!」
「しかし、食べるぞ。必要だからだ」
「でもゼンゾーさんのキスで歳を取るのは抑えられるから! 島に帰す必要なんてないですぅっ!」
「あるのだ」
ゴゴは、言った。
「このままではユニオは成人の儀式として、優子ちゃんを殺して、肝臓を食べるだろう。だからだ」
くううっ……! というようなゼンゾーの悲しげな慟哭が部屋の外で聞こえ、向こうへ行く足音がした。
見えないゼンゾーを見送ると、ゴゴは続ける。
「ユニコーンは成人の儀式として自分の愛する母親を殺して食べる動物なのだ。そこには善も悪もない。本能だ。ゼンゾーの母親もユニコーンだったが、二十歳になったアーミティアスに殺されて、食われた」
ユーコは頑なな表情を崩さずに、聞いていた。可能な限り理解しようとするように、耳を前に出して聞き取ろうとしていた。
「ゼンゾーのキスでもユニが二十歳になるのを止めることは出来ない。遅くすることが出来るだけだ。ユニはどうしても二十歳になる。その時、君を殺して食べる。それを防ぐには、今すぐユニを島へ帰すしかないのだ」
「あたしを殺して食べたら……」
顔をしかめて黙って聞いていたユーコが、ようやく口を開いた。
「ユニくんがどうなるんですか? パワーアップするんですか?」
「そうだ」
ゴゴはうなずいた。
「するとゴゴも、ゴゴの仲間も、まずいことになる。ユニコーンが強くなりすぎて、島のバランスが崩れる。だからだ。だからゴゴは今すぐに、ユニが成人の儀式を済ませる前に、島へ帰したい。それで島の平和が守られる」
「どうパワーアップするんですか?」
ユーコの顔は怖いが冷静だ。
「すべての力が上がる。攻撃力も、スピードも、何より知力が爆上がりする。今のように子供みたいではなくなって……」
「成長は?」
ユーコがゴゴの話を遮った。
「赤ちゃんだったのが次の日には三歳児になってるとか、そういうことなくなるんですか? 普通のスピードで育つようになるんですか?」
「ユニの成長のスピードが異常なのは、アーミティアスにたまごにされたためだ」
ゴゴは説明する。
「今のままでは人間界に適応できず、二十歳を過ぎたら発狂することになるだろう。ここではユニはあまりに異常な存在だ。異常な速度で成長した。適応してない。だから、おかしくなるのだ」
「おかしくなったら、どうなるんですか?」
「きっと、自分を殺す。異常な速度で成長し続けようとする自分を止めるためには、そうするだろう」
「あたしを食べたらそれが収まるんですね?」
「ゼンゾーが言うには、そうだ」
ゴゴはうなずいた。
「最も愛する君の血肉を取り込むことで、人間界に適応できるようになると言う。アーミティアスやゼンゾーが人間界にいても平気なように、ユニも」
ユーコは黙った。その目はまっすぐにゴゴを見つめ、動揺ひとつ見せずに堂々としている。
「ゴゴは優子ちゃんが好きだ」
ゴゴがいきなり告白を始めた。
「ゼンゾーがいなければ、ゴゴが優子ちゃんと結婚したいくらいだ」
ユーコは表情を変えずにそれを聞く。
「だから優子ちゃんに死んでほしくない。ゴゴの仲間はユニに成人されるととても困る。だからだ! だから、ユニを今すぐに島へ帰すのが一番いいのだ!」
「わかりました」
ユーコの顔から厳しさのようなものがすっと消えた。
「ユニを島に帰すのをわかってくれたか!」
ゴゴが嬉しそうに相好を崩した。
「でも、あたし、ユニくんと、ゼンゾーさんと、家族の思い出が、もっと欲しい」
にっこりと笑うと、ユーコは言った。
「お願い。あと三日、一緒にいさせて? その三日間で美しい思い出をたくさん作りたいの」




