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ユニコーンのたまご  作者: しいな ここみ
最終章『アーミティアスは笑う』
54/67

家族

「スティーブ!」


 ゼンゾーは自宅の玄関の大きな扉を蹴り開くなり、叫んだ。


「無事か!? スティーブ! いるか!?」


 その鼻が犬のように動いている。屋敷中の匂いを探っている。


 ずんずんと足音を鳴らして廊下を歩き出すと、後ろをユニオと、彼を守るように寄り添いながらユーコがついて来た。



 食堂に入ると、エプロン姿のスティーブが鼻唄を歌いながら、アップルパイを切り分けているところだった。その傍らのソファーにはゴゴが寝そべっている。


「なんだそりゃ!?」

 ゼンゾーがゴゴに向かって声を上げた。

「あんなことしといて、なんでここで寛いでんだ、お前!」


「腹が減った。だからだ」


「アイタガヤ」

 スティーブが安心しきった顔で言った。

「ユニくんをすぐに島へ帰さないと、僕、ゴゴっちに殺されるんだって、脅迫されてるんだ。助けて?」


「殺される雰囲気じゃねーだろ、これ!」


「アーミティアスはゴゴがなんとかする」

 ゴゴがゼンゾーに言う。

「だから、ユニを島に帰してくれ。ゴゴも、お前も、ユニも、優子ちゃんも……みんなが安心するのはそれだ」


「わかってんよ」

 ゼンゾーは手に持っていた銃をホルスターにしまう。

「俺もアーミさえ捕まえたら、すぐに帰すつもりだ」


「ちょっと待った!」

 ユーコが手を挙げた。

「まだそんなこと言ってたの!? 母親のあたしが聞いてないところで!?」


「しまった……!」

 ゼンゾーが声に出して、言った。

「優子には黙ってそっと実行するつもりだったのに……」


「はあっ!?」

 ユーコの頭にツノが二本、めきめきと音を立てて生える。

「家族になるんじゃなかったんですか!? あたしがママで、あなたがパパでしょう!?」


「えっ!?」

 ゼンゾーの顔が笑いを抑えきれない。


「妻に内緒で子供を僻地に送るパパがどこにいるんですか? 信じらんないっ!」


「いや……。だって、これは……その……。アレだから……。そしてコレなんだから……、わかってくれよ!」


 ゼンゾーはどうしても言い出しにくいようだ。『このままでは君が愛する息子に食い殺されるからだ』などとは。


「アイタガヤ」

 寝そべっていたゴゴがゆっくり身を起こしながら、言った。

「オレが向こうの部屋に行って、二人きりで優子ちゃんに説明する。いいか?」


「人食いライオンが人間の女性に何を説明する気だよ?」

 ゼンゾーが再び銃を抜きかける。

「てめーも優子の『むっちゅぐちゅ』、感じ取ってんだろ? 二人っきりにさせられっか! 食欲とはべつの意味で襲いかかるに決まってる!」


「じゃ、僕も一緒に行くよ」

 ユニオがユーコの手を後ろから握った。


「ユニは当事者だ。話は聞かせられん」

 ゴゴが拒否する。

「心配ならアイタガヤ、一緒に来い」


「あ……、アレを話すのかよ」


「いつかは話さねばならんこと。だからだ」


「言えねーよ……。誰かが話してるのも聞いてらんねーよ……」

 ゼンゾーは頭を抱え込んでしまった。

「優子が悲しむのなんて見たくねーよ……」


「ゴゴさん」

 きょろきょろとみんなの顔を見回していたユーコが、ゴゴの顔をまっすぐ見つめた。

「何かわからない。わからなすぎて悔しい。お願い、聞かせて」


「いい子だ」

 ゴゴが優しく微笑む。

「アイタガヤ。心配ならオレの匂いをずっと探っておけ。食欲や別の匂いを嗅ぎ取ったら、すぐに殺しに来い。その時は構わない、殺されてやる」


 そう言い残すと、ゴゴはユーコを連れて、ユーコの部屋に消えた。


 ゼンゾーは悔しそうに見送りながら、悲しそうに泣いている。


「ねぇ、ゼンゾー」

 ユニオが不思議そうな顔で、きょとんとしながら聞いた。

「ゴゴはママに何を話すつもりなの?」



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