ネア
「見失ったか……!」
広い丘の上中をゼンゾーは見渡し、歯軋りした。木々もない原っぱの上で、隠れているものを見つけられない。
「アーミ!?」
ユーコが呼んだ。捕まえてほしいのか、ほしくないのか。
「顔が見たいの。どこ?」
「くそっ……! 近くにいることは間違いない」
ゼンゾーがそう言って鼻を動かし、愕然とした。
「ネア……」
「え?」
ユーコはその言葉の意味がわからず、ただ彼を見る。
「ネアの匂いだ! ちくしょう、むっちゅぐちゅした匂いとアーミに気を取られてて気づかなかった!」
そう言うなりゼンゾーは地面を蹴って駆け出した。
「待って! 置いて行かないで!」
叫ぶユーコを置き去りにするように、ゼンゾーは全速力で駆けた。
◇ ◇ ◇ ◇
ユニオはぐったりしていた。樹の上から降りて来たネアに、そっと首の後ろに噛みつかれ、神経毒を注入されたのだろう。ぼとりと音を立てて背後に落ちるとネアは背を伸ばし、無表情に金色の目をぎょろつかせる。ユニオのつむじを見下ろしながら、裂けるほどに大きく口を開けた。
「ママ……」
ユニオの口が夢遊病のように動く。
「ゼンゾー……」
何も言わずにネアは顎を外すと、そのままユニオを飲み込みにかかる。
遠くから絶叫が近づいて来る。
それはあっという間に近づいて来た。
「ネアアアァァアア!!!」
びくりと金色の目を白目に裏返し、ネアが反応した。首まで呑み込んでいたユニオを悔しそうに口から急いで吐き出すかと思いきや、そのまま肩を両側から掴み、ユニオの骨を快い音を立てて、呑み込みやすくするために折った。
「させるかぁぁあ!!!」
ゼンゾーが懐から拳銃を抜き、まるでチーターのような速さで前へ飛ぶ。
その横からライオンが飛んで来た。
「ご、ゴゴ!」
ゼンゾーが気づき、振り返る。
無慈悲な咆哮を上げてゴゴはゼンゾーに襲いかかった。尖ったハンマーのような爪が鋭く振られる。かわしたが、掠った。足の肉が抉られてゼンゾーは倒れた。
「すまん。ゼンゾー」
ネアの前に立ち塞がり、ゴゴが見下ろす。
「お前を殺す気はない。ユニは殺さなければならない。だからだ」
「邪魔すんな……!」
ゼンゾーは睨みつけ、傷ついた足ですぐに跳んだ。
ゴゴの横を大きく迂回して拳銃を構える。しかしゴゴが行かせるわけがない。
ゴゴが余裕の動作で左腕を横に振った。ゼンゾーの肩から鮮血が迸った。




