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ユニコーンのたまご  作者: しいな ここみ
第一部『ユーコとユニオ』
5/67

銀青

 おおきな音がして、目が覚めた。



 シンバルを鳴らすような音が、じゃん、じゃん、がしゃーんと3回。



 見ると、ちろくんのケージをユニオが手で叩いていた。



「ユニくん!?」


 あたしは慌てて起きあがった。


「やめなさい! その犬、危ないんだから!」



 言ってもわからない。ユニオはとても楽しそうな笑顔で、ケージの網をばんばん叩いている。

 その向こうでちろくんが、怯えきったような目を、あたしのほうに向けていた。



 カーテンを閉めていることもあり、今が何時なのだかさっぱりわからない。



 寝ぼけていたのか、あたしはユニオを抱くと、ようやくそのことに気がついた。

 もちろんベッドであたしと一緒に寝ていたはずだ。まだ歩くことができないのだから。



「ユニくん? もしかして、ハイハイできるようになったの?」


 あたしが聞くと、


「ハイ~」


 まるで「はい」と答えるように、ユニオは満面の笑顔で言った。




 時間は朝方の4時だった。

 



 ベッドに戻り、おっぱいをあげる。


 ツノが長く成長していて、さらにおっぱいがあげにくくなっている。

 乳房の上のほうに刺さってくる。



 あたしの顔を、銀に青の入り交じったあどけない目で見上げながら、乳首を舌でしごくユニオに、約束するように言った。


「明日、あの犬、保健所に連れて行くからね。一緒に車に乗ってお外に出ようね」



 するとユニオが乳首から口をちゅぽんと離し、喋った。


「かわいそうだよ、ママ。わんわんを保健所なんかに連れて行かないで」



「ユニくん!?」


 あたしはびっくりして、まだ生後三ヶ月くらいにしか見えない彼に、聞いた。


「喋れるようになったの!?」



 それには答えず、ユニオは続けた。


「ぼく、だいじょうぶだから。あのわんわんのこと、怖くないから。ね? 保健所に連れて行っちゃ、だめ」



「許してあげるの?」


 あたしは会話していた。


「だってあなたの腕を食いちぎった猛犬よ?」



「だって、ぼく、遊ぶ友達、ほしいもん」



 彼の銀と青の混ざった瞳を見ていたら、ほんとうにちろくんがユニオの腕に噛みついていたのか、わからなくなってきた。あれは眠っている時に見た夢ではなかったのか。事実、今、ユニオの腕は、赤ん坊らしくすべすべで、ひっかき傷ひとつない。



「……わかったよっ」


 あたしは思わず微笑みが顔に浮かび、うなずいていた。


「お友達、ほしいもんね?」



「わあい!」


 ユニオは赤ん坊の顔で嬉しそうに笑うと、あたしのおっぱいにほっぺたをくっつけた。


「じゃ、夜が明けたらいっしょにお外に連れて行ってよ、ママ」



「お外に? もうお外で遊べるの?」



「朝になったら、もっとおおきくなってるから。走りまわって遊びたいな、わんわんと」



「お風呂に入んなきゃ」


 あたしはしみじみと言った。

 体がべとべとする。髪もゴワゴワだ。シーツも換えないと、ペットシーツからはみ出したうんちやしっこや、ユニオの腕からあふれた血やで汚れている。


「明日……、起きたら……、一緒にお風呂、入ろうね」



 ユニオは何も言わず、おっぱいを飲んでいる。



 すぐにあたしは意識が遠くなっていった。




 ちろくんが弱々しく、甲高い怯えるような声で呻いたのが最後に聞こえた。



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― 新着の感想 ―
[一言] いやあ……、ツノが邪魔で授乳出来ませんか? リアルさに感動しました、自分が育児してる気分になります
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