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ユニコーンのたまご  作者: しいな ここみ
最終章『アーミティアスは笑う』
42/67

ユニオ19歳

「はあっ!?」

 ユーコが怒声を上げた。

「なんでユニくんを孤島に戻すんですか!?」


 ゼンゾーは言い淀んだ。彼女がショックを受けるようなことは言いにくいのだろう。


「ユニくんはあたしの息子なんですから!」

 ユーコがさらに言葉を荒くする。

「せっかく幸せにこの町で暮らせるようになったんですから! 何もない島に返すだなんて……!」


「優子……」

 ゼンゾーがようやく言った。

「ユニオは死体損壊罪を犯してるんだ。刑事のおれがかばうわけに行かない。だが、そっと島へ返せば……」


「黙っとけばいいじゃないですか!」

 ユーコが声を張り上げた。

「殺したわけじゃないんだから! 死んだ女の人の肝臓にちょんってツノを触れただけなんだから! あなたさえ黙ってさえいれば何も問題はないでしょ!」


 ゼンゾーは困ったように黙り込んでしまった。肝心なことは言えなかったようだ。


「何事ですか? 騒がしい」


 そう言いながら奥から現れたチリチリ長髪の西洋人を見て、ユニオがにっこり笑顔を浮かべた。初対面の相手にはこうやって『魅了』をかけるのだ。


「スティーブ」

 ゼンゾーが救いの神が現れたように西洋人を見た。

「コイツがおれの言ってた銀色の髪の少年だ。ユニオだ」


「この人が?」

 スティーブが怪訝そうに、しかし既に大好きだというように顔を赤らめてユニオを見る。

「少年じゃないでしょ? この人、どう見ても青年ですよ?」


「詳しい話を奥でしたい。付き合ってくれ」

 ゼンゾーはそう言いながらスティーブの背中を押し、振り返るとゴゴに言った。

「争いは起こすなよ、ゴゴ。わかってると思うが、19歳のユニオにお前は絶対に敵わん」


 ゴゴは悔しそうな表情をすると、ユニオの顔を見てしまった。

 ユニオがにっこり微笑む。

 ゴゴも一目惚れしたように顔を赤らめると、ぎこちなく微笑み返した。


「ユニくん、お腹減ってない?」

 ユーコが聞いた。


「うん。僕、実はお腹ペコペコで、さ。なんかあるかな、ママ?」


「あるよ〜。ちょうど今日、一流の中華飯店で出前とったの。冷蔵庫に残ったのあるから……おいで」


「わっ。なんだろう。わくわくする」


 ユニオを付き従えて歩き、ユーコは食堂に隣接したキッチンへ行くと、冷蔵庫を開けた。一皿取り出し、ユニオに見せる。


「じゃーん! レバニラ炒めだよ!」


「わあ……」

 ユニオの笑顔がだんだんと期待外れの表情に変わる。

「……レバー、また殺しちゃったの……」


「あっ。生のレバーがいいんだよね? ママちゃんとわかってる」

 ユーコは慌てて言った。

「明日、いよいよ生のレバー食べさせてあげられるから。今夜はこれで我慢して」






「スティーブ」


 ゼンゾーの部屋で2人は会話していた。


「話って何? アイタガヤ」


「ヘリを出してほしいんだ」

 ゼンゾーは深刻な顔をして、言った。

「ユニオを島へ送り返したい」


「なんで?」

 スティーブは抵抗するような顔をして聞いた。


「なんでもいいだろ。あいつは島でしか生きられないユニコーンなんだよ」


「また、それ?」

 スティーブがうんざりした声を出す。

「いい加減にしてよ。アイタガヤのファンタジーなストーリーに付き合わされるほどボク、暇じゃないよ」 


「ファンタジーじゃねえんだ。マジでヤバいんだ、あいつは」


「あんな可愛い青年がヤバいわけないでしょう」

 スティーブはとっくに『魅了』にかかっていた。

「ボク、彼と暮らしたいな。彼と暮らせるならギターの音量も素直に小さくして……いやこれからはヘッドホンで練習するよ。あの子、気に入っちゃったんだ。仲良くなりたいな」


「スティーブ!」

 ゼンゾーは彼の胸倉を掴み、引き寄せた。

「あいつはな、20歳になったら、母親を食う動物なんだよ!」


 スティーブが大嫌いなものを見る表情でゼンゾーの顔を見た。


 構わずゼンゾーが続ける。

「あいつの銀色の髪を金色が覆うようになる時、あいつは成人の儀式として、優子を食べることになるんだ! そうなる前に島へ送り返さなきゃならん! 協力してくれ!」


 スティーブはゼンゾーの手を振り払った。

 そして軽蔑の眼差しで見下し、言った。


「そこまでクズなやつだとは思わなかった。クズだクズだとは思ってたけど」


「ああ!?」


「ユニオくんに嫉妬してますよね? 優子さんが本当に好きなのはユニオくんなんでしょ? 取られたくないんでしょ?」


「そういうことじゃねえ! 優子はユニオのことは、息子みたいなもんだと思ってるんだ!」


「ユーコさん24歳でしょ」

 スティーブの目が白い。

「19歳の息子がいるって変じゃないですか」


「ほんのちょっと前までは赤ん坊だったんだよ!」


「意味がわからない」

 スティーブが出口に向かって歩き出した。

「とりあえずヘリは出しません。ユニオくんはボクがここで面倒見ますから」


「ここ、おれの家だろうが!」


「ボクが買って奪ってもいいんですよ」

 スティーブの目がギラリと光った。

「そのぐらい簡単だ。今までしなかったのはアイタガヤのことを思ってだった」


「う……」


「だからあんまり変なことは言わないように」


 パタンと静かに音を立て、スティーブが部屋を出て行くと、ゼンゾーは激しくベッドを叩きはじめた。


 スティーブの目は本気だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] おおお!!! 美しくも妖しい物語も佳境ですね ワクワク(#^.^#)
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