ユーコ覚醒
頭に来た。
あいつ、ユニくんのことをあたしとあいつの息子『みたいなもの』だと言いやがった。
お前にとってはそうでも、あたしにとっては違う。お腹を痛めて産んで、糞尿を口にして育てたあたしの息子だ。『みたいなもの』ではない。
でもお風呂をいただいていると、だんだんと腹立ちも収まって来た。
レトロでお洒落な窓から見える月が柔らかい。
ユニくん……。本当にどうしてるかな。
いくら実のパパと一緒にいるから安心とはいえ、やはり側にいないのは寂しい。
あたしはアメリカンな泡だらけのお風呂に優雅に寝そべりながら、ばしゃりと顔を洗った。
そうしたら何かが弾けた。
ユニくんって
実のあたしの
息子なんだっけ?
あたしが産んだたまごから孵った。それは確かだ。
あの静かすぎる、死の世界だったような部屋で、あたしが育てた。それも確かだ。
めちゃめちゃ可愛くて、何でもしてあげたい。それも本心だ。
でも、どうしてあたしは不自然なことだと今まで思わなかったのだろう?
行きずりとはいえ愛したアーミのキスで孕まされた子で、ユニコーンだから人間とは違い、急速に大きくなった。そこに不自然な点はないと思っている。
でも、なぜ、ツノのある人間がいることを、あたしは不自然だと思わなかったのだろう? あまりにも不思議がることなく受け入れたのは、なぜだろう? なぜ、人間とは違うユニコーンの子を、あたしは実の子だと思っているのだろう?
あたしには、なぜ、ユニコーンのツノが見えるのだろう?
あたし、本当に、人間?
窓の月が隠れた。あたしはふと窓を見た。
曇りガラスじゃない、透明の窓から、顔が覗いていた。目のとろんとした、ライオンの顔だ。黒い唇が濡れて、大量のよだれを垂らしている。
しばらく見つめ合った。
「どうしました!? 優子さん! いや、優子!」
あたしの絶叫にゼンゾーさんが飛び込んで来た。
「窓に……! 窓に……!」
「窓?」
ゼンゾーさんが見た時には、そこにはただ穏やかな月があるだけだった。
「窓に……何か?」
ゼンゾーさんがこっちを見た。
必要以上にじろじろ見て来る。泡で隠れていると知りながら思わず手で隠してしまうほどの勢いで。その表情がやたら真剣すぎて怖い。
「昼間見た人だと思います」
足も泡の中に隠しながら、気を逸らすように説明した。
「あのライオンみたいな人。ゴゴさんでしたっけ? そういえばどういう人なのか聞いてませんでしたけど、あの人が覗いてたんです」
「本当ですか? おれを誘い込むために叫んだんじゃなくて?」
「そんなわけないでしょう!」
彼にお湯を飛ばしながら、あたしはまくし立てた。
「あの人なんなんですか!? 絶対まだ近くにいます! 探して捕まえてください刑事でしょう!? 覗きは何罪になりますか!?」
「窃視及び住居侵入罪ですね」
目を血走らせながら言った。
「じゃ、それで捕まえてください。早く!」
あたしはざっばーんとお湯を飛ばした。




