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ユニコーンのたまご  作者: しいな ここみ
第三部『ユーコとゼンゾー』
31/67

ゼンゾーの安心

 おかしい……。


 ネアの匂いの道を辿って来たが、どうもおかしい。


 先へ進むにつれ、匂いが薄くなっている。


 優子さんの部屋には蛇の匂いがぷんぷんしていたが……。


 これはネアの『やって来た跡』を、おれは逆戻りしているのではないか……。


 ネアはあの部屋に、まだいたのではないか……。


 おれは急いで振り返り、やって来た道を走って戻った。





 優子さんのアパートの前が赤々と騒がしかった。パトカーが3台到着している。先輩もやって来ているようだ。

 おれが階段を駆け上がると、優子さんの部屋の前が立入禁止になっている。警察手帳を見せて中に入り、おれは愕然と立ち尽くした。

 入ってすぐのキッチンの床に、塩田さんが幸せそうに笑顔を浮かべて死んでいた。胸に穴を開けた凶器をまるで大切に包むように、そこに手を添えたまま。


「また呼んでもねぇのに来やがった」

 先輩がおれを見つけて、言った。

「犬野郎が」


「先輩……」

 おれは悲しみで吐きそうになりながら、なんとか言った。

「塩田さんが……。塩田さんが……」


「ああ。まさかウチの署のモンが犠牲者になるとはな……。この部屋で銃声がしたと連絡して来たんで、近づかずに離れたところから様子を見ろと、上は指示してたらしいんだが……」


 おれはハッとして、先輩に聞いた。

「この部屋の住人は?」


「桐谷優子24歳。発見当時、彼女も床に倒れてたが、意識はあった。首の後ろを刺されていたようだったが、傷は小さく、命に別状はないそうだ」


「その女性は? 今、どこに?」


「救急車で病院に運ばれた。重要参考人だ。事件を目撃していた可能性が高い。体調がよくなってくれたら署で詳しく話を聞くことになってる」


 おれは喜んだ。彼女がアーミティアスがしでかしたことを見ていてくれたことを願った。見ていたのなら、証言してくれるだろう。おれが言ったところで署のやつらは信じてくれないだろうが、優子さんの証言なら、アーミティアスの逮捕状がとれるかもしれない。塩田さんの無念を晴らすのだ。


 おれはもう一つ、気になることを先輩に聞いた。

「ところで……その女性、一人でしたか?」


「なんだと?」


「銀色の髪の少年とか、一緒じゃなかったですかね」


「……なぜおまえが、それを知っている?」


「え?」


「お隣の部屋の奥さんから証言があった。前におまえ、言ってたよな? 『最近になって急に子供が出来た女性を捜せ』って……。この部屋の女性がそうだった。銀色の髪の子供が最近、急に出来たそうだ」


「そ、そうですか……。で、その子はどこに?」


「不明だ。発見当時、部屋には桐谷さんが一人だった」


「……そうですか。ありがとうございます」


 やはりアーミティアスが来たのだ。やつがユニオを連れて行きやがった。


「……てめぇ、実は凄いやつなのか?」

 先輩がおれをじろじろ見て来る。

「まさかそんなことはねぇと思うが……普段はアホのふりしてるだけなのか?」


「え……?」


「なぜなんでもかんでも知ってやがる?」


「えっと……」

 おれは正直に本当のことを言った。

「実はこの部屋の住人……桐谷優子さんは、おれの婚約者なんです」


「まじで!?」


「ええ。ですからこの部屋から、おれの指紋がたくさん検出されることになると思いますけど、そういう理由なんで、鑑識とかからもし聞かれたら、そう答えておいてもらえませんか」


 おれは部屋の匂いを窺った。やはり、まだ蛇の匂いがぷんぷんしてやがる。ネアはどこかに隠れている。天井裏あたり、怪しいな……。


「何ソワソワしてやがる?」

 先輩がなんだか怖い目つきでおれを見ている。


「え? な、何も……」


「銀色の髪の子供のこと、なんで黙ってやがった? てめぇ、一人で最近勝手に動き回ってるよな? なんか……隠してねーか?」

 急に驚いたような顔になり、

「おまえっ……! まさか……?」

 おれを指さして来た。


「え……。まさか……何?」


「犯人は現場に戻って来るって……言うよな?」


「は……はい?」


「おい。ちょっとおまえの拳銃、見せてみろ」


 断る理由がないので仕方なく貸すと、先輩はガクガクブルブル震えながら、言った。

「一発……撃ってるな? 発砲許可は取ったのか?」


「その……緊急事態でしたので……」


「おまえ……。塩田くんをおびき寄せるために発砲したな?」


「はい?」


「おびき寄せて……部屋に連れ込んで……何かいやらしいことでもしてから……殺したのか?」


「なっ……!」

 おれは涙を飛ばしながら抗議した。

「なんでおれが塩田さんを殺すんスか!!」


「おまえ、塩田くんにつき纏ってたろ。フラレた腹いせに……殺した?」


「バカなっ!」


「連続殺人事件……全部おまえか!」


 先輩は手錠を取り出すと、おれにかけた。


 おれは叫んだ。

「ムチャクチャだ!」


「とりあえずおまえは監禁しておく。そうしておけと俺の刑事としてのカンが言っている。まあ、すべては桐谷優子が喋れる状態になってからだ。彼女がすべて目撃しているはずだからな」


 そうだ。すべては優子さんが証言してくれる。


 まあ、それまでの辛抱か。考えたらおれも勝手に行動しすぎていた。先輩がおれを疑うのも……仕方がないとは言いたくねえが、まあ、大人しく監禁されてやるか。



 しかし……。アーミティアスめ、ユニオを連れてどこへ行った?


 見てろ。必ず貴様を逮捕して、人間社会の法で裁いてやる。


 よくも塩田さんを……。

 元々兄貴だなんて思っちゃいねえが、てめえは絶対に許さねえ!!!



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― 新着の感想 ―
[良い点] >正直に本当のこと もうっwww ゼンゾーさんのこういうとこ、大好きです♡
[一言] う~ん!! ゼンゾーさん 出られるのでしょうか…??
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