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ユニコーンのたまご  作者: しいな ここみ
第三部『ユーコとゼンゾー』
27/67

追跡するゼンゾー

「なんで言わなかったんだ、おまえ!」

 おれは後部座席に乗ったユニオに大きな声を出した。

「アーミティアスが女性を殺し、肝臓をおまえに差し出した、おまえはそれにツノを当て、エキスを貰っただけ……。そうだよな!?」


「だって……」

 ユニオはすまなさそうに、言った。

「アーミに『言うな』って、言われてたから……」


「殺人罪と死体損壊罪じゃ大違いだ! それでもまぁ……、おれは、おまえを裁かれる前に島に返すつもりだけどな!」


「僕を……島に返すの?」

 ユニオは悲しそうな口調で、言った。

「やだよ……。僕、ママが好き」


「優子さんはおまえのママじゃない!」

 そこまで言って、あまりコイツを刺激しないよう、話を変える。

「ところでアーミティアスの居場所、感じるか? こっちで合ってるか?」


「もうちょっと行ってくんないとわかんない」


「まぁ……、でも、感じてるんだな? ……あ、ちくしょっ。後ろの車、車間ちけーな。女は空間認識能力が劣るから困る。詰め詰めになってんの、気づいてんのか?」


 振り払おうとスピードを上げたら、覆面パトだった。屋根の上にパトランプが出やがった。運転手が女だから油断した。




 路肩に停めながら、スティーブに頼んで揉み消してもらおうか、でもアイツ今、怒ってるからな……、とか思っていると、知った顔が窓の外から覗き込んで来た。


「え。愛田谷くん?」


「ありゃ……。塩田さん、どうも」


 先輩の塩田法子さんだ。はて……、この人、いつから交通課に替わったんだ? ってか、元々交通課だったっけ? そのへんはよく知らん。

 おれが興味あるのは彼女の肩書きではなく、その中身だけだ。少し前までこの人がおれの運命の女性だった。このひとと結婚する予感をおれは抱いていた。まぁ、外れたっていうか、おれが勝手に優子さんに心変わりしただけだが。


 まぁ、塩田さんならその優しさはよく知っている。見逃してくれと可愛い後輩らしく言えば許してくれるだろう。


「よく飛ばしてたわね。61km/hオーバーよ。一発免停ね。90日」


「いや、塩田さん。今日もお綺麗ですね」


「いいと思ってるの? 現職の刑事があんなに飛ばして」


「捜査中なんです。ああ……犯人を見失ってしまう!」


「ダメよ。パトカーに乗ってない以上、緊急自動車の権限はないわ。はい、免許証。あと車検証、見せて?」


 ヤバい。車検証の名義は車屋のままだ。保険も全部……。名義変更もせずに乗り回してること、バレちまう。

 助手席の警官も女性だった。うるさそうなオバサンだ。

 どうしよう……。


 すると後部座席の窓を開け、ユニオがひょこっと顔を外に出した。


「あら?」

「まぁっ!」

 女性警官2人が顔を輝かせる。


「こんにちは」

 ユニオが挨拶をする。


「こんにちは! 誰? 愛田谷くんの……親戚の子?」

 塩田さんが大はしゃぎでおれに聞く。


「えーと……。おれの……。従兄弟の親戚の友達の子っス」

 適当なことを言うおれをほぼ無視して、塩田さんとオバサンが並んでユニオに紅潮した顔を近づける。


「綺麗ねー、君!」

「名前、聞いていい? ファンになっていい?」


「桐谷ユニオです」

 そう言ってユニオは笑い、

「おねえさん、かわいいね!」

 塩田さんを『魅了』の魔法にかけた。


「……じゃ、おれ、行きますんで」

 ここがチャンスとおれはサイドブレーキを解除し、シフトをドライブに入れた。


「あーん! 待ってよ!」

「もっとお話させて!」


 助かった。ユニオの『魅了』の能力に感謝した。







 ユニオが指示した場所は、廃工場だった。

 赤い満月が不気味に見下ろす山裾に、それは建っている。

 入り口は開け放され、ただ立ち入り禁止を示すロープが張られているだけだ。


 確かに匂いがする。


 アーミティアスの匂いはおれを攪乱する。しかし、ここまで近づけば見失いようがない。


 やつもこちらに気づいているだろう。おれはユニオを背中に守り、慎重に中へ入って行った。


「アーミ!」

 おれは声を出してやった。

「いるんだろう? 出て来やがれ」


「ゼンゾー」

 押し殺したような、やつの声が響く。

「何しに来た」


「決まってんだろうが」

 おれは喋りながら、やつの居所を探す。

「ユニ……ロイに罪をひっかぶせやがって! 情報屋3人を殺したな? で、女性3人もおまえじゃねーか!」


 フ……、と風のような笑い声が聞こえた。


「そこか」

 匂いの元を見つけた。

「そこに隠れてやがんな?」

 木箱の陰だ。


 いきなり前に現れて、ツノで突いて来るかもしれない。慎重に歩を進める。

 逃げ出すかもしれない。いざとなったらユニオを前に出す。純血のユニコーンであるユニオは、中途半端なユニコーンのアーミティアスよりも身体能力が上だ。やつが逃げたら追わせる。


 しかしやつはずっとそこを動かず、おれが来るのを待っていた。


「私を捕まえられるのか?」

 姿を見せず、やつが言った。

「証拠は? 逮捕状は? 私は何もしていないぞ」


「重要参考人として連行することは出来る。おまえを署まで連れて行く」


「拒否したら?」


「ええと……」

 おれは答えに詰まった。不勉強がたたった。

「公務執行妨害で逮捕できる……んだっけ」


「おい!」

 やつのツノが暗闇の中に見えた。

「おまえ、まさか、あのバカ女を一人にして来たのか?」


「バカ女? 誰のことだ?」


「わかるだろう? ロイを自分の産んだ子だと思い込んで、母性のままに育てている、あのバカ女だよ。名前なんか知らん」


「てめぇ……! 優子さんを侮辱すんな!」


「いや、それは危ないよ、ゼンゾー」


「何のことだ!」


「実はアーニマンが2体、島からこっちにやって来てる」


「アーニマンが?」

 おれは意味がわからなかった。

「それがどうした」


「わからないか? ロイを食べにやって来てるんだ。ロイの匂いはやつらには嗅ぎつけられないけど、おまえの匂いは、やつら強烈に嗅ぎつける」


「なんだと?」


「そのバカ女の部屋に、もし、おまえの匂いが残ってるなら……、やつらそこへ来るぞ? しかもバカ女にロイの匂いでもついてたら……」


「優子さんが……」

 やつの言うことなど信じたくはなかったが、嫌な予感がした。

「食われる……と言うのか?」


「何してる! 急げ! やって来てるのは獅子のゴゴと、蛇のネアだ! 特に蛇のネアはしつこいぞ! 急いで戻れ! 彼女を守ってやれ!」

 そう言いながら、闇の中からアーミティアスが少し顔を出した。こちらを見るその顔は、面白そうに、薄笑いを浮かべていた。


「ちっ……ちくしょっ!」


 おれはユニオの手を握り、走って車に戻った。

 ユニオがいればアーミティアスはいつでも捕まえられる。しかし、今、早く、優子さんの所へ戻らなければ……優子さんが……


「どうしたの、ゼンゾー?」


 ユニオにおれは答えなかった。


 優子さんが今、あのアパートの部屋で、蛇に食べられているかもしれないなんて言ったら、コイツはきっとパニックを起こす。






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― 新着の感想 ―
[一言] ああ……あの蛇の女! ちゃんと伏線あると、危機感の感じかたも違ってきますね。
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