ユーコの気持ち
ゼンゾーさんが帰って行くと、ユニオはそれを黙って見送ってから、不思議そうにあたしに聞いた。
「ママ……。どうしてゼンゾー、帰っちゃうの? 一緒に寝ようと思ったのに」
「明日、また会えるわよ」
あたしはにっこり笑顔を見せてあげながら、言った。
「だから今日はいい子にしてね」
「ええ〜……。やだな」
ユニオは13歳の顔で、子供みたいにイヤイヤをする。
「ぼく、パパとママと一緒に暮らせると思ったのに」
「ユニくん……」
しゃがむまでもなく、そのまま目を見つめて、あたしは言った。
「パパ……欲しい?」
「うん!」
強い言い方とはべつに、その顔は寂しそうだった。
「ぼく……、パパとママと暮らしたい」
「……そう」
あたしはうなずいた。
「……わかったわ」
明日、あの人と……ゼンゾーさんとデートをすることになった。
あの人は利用できる。あたしとユニくんを守ってくれる。
「あの人のせいで遅くなってしまったね」
ユニくんはもう眠そうだ。
「お風呂はもう入ったし……寝よっか?」
「うん。ぼく、眠い……」
ユニくんがあたしに抱きつき、甘えて来る。
「ママ……。ちろくんも、一緒に寝よ」
ちろくんはユニオの言葉がわかるように、ハキハキとした動きで先にベッドへ走って行った。まるでユニくんの家来だ。先にベッドに入って、あたためてくれるらしい。
ベッドに入り、灯りを消した。
ちろくんを挟んで向かい合う。
「ゼンゾーが帰っちゃったから、ぼく、寂しい。おてて握ってよ」
思わずくすっと笑い、もう大きな少年のその手を優しく握ってあげた。
あたしの前で目を閉じると、ユニくんはすぐに眠りの中へと入って行った。
優しい世界。
これがこのままずっと続いてくれるのだろうか。
あの人のキスで、もうユニくんは人間を食べなくてもよくなってくれたのだろうか。
食べられた3人の女性には申し訳なく思う。
でも、あたしはこの幸せを壊されたくはない。
ユニくんは何も悪いことなどしていないのだ。
ユニコーンは人間の、未産婦の肝臓が大好き。ただ食事をしただけなのだ。
人間社会の倫理なんかで裁かれてたまるか。
眠りにつく前、ゼンゾーさんの顔が浮かんだ。
あたしは唐突にプロポーズされた。
受けてもいい。
それがユニくんのためになるのなら。
あの人は刑事だ。
少し頼りなさそうだけど、あたし達が幸せに暮らすために、もってこいの守護者だと思う。
ただ、ユニくんのパパではない。
ユニくんのパパで、あたしの想い人は、あの人しかいない。
ユニくんと同じ銀色の髪に、銀青の瞳、そして立派な長いツノを額に持つ、あの人……。
名前……アーミティアスって言うんだ……。
いい名前……。似合ってる。
たった一度、あの雨の日に、タバコ屋のひさしの下で一緒に雨宿りをしただけの人が、どうしてこんなにも忘れられないんだろう。
ユニくんの本当の父親だから?
それだけじゃない。
なぜだろう。あたしがこんなにあの人のことを想ってしまうのは。
会いたい。会って、その頬を叩きたい。
憎い。あたしとユニくんをほったらかしにして、どこで何をしているの?
頬を叩いて、その胸に飛び込みたい。
ユニくんのパパ。
あたしの愛しい人……。
どこにいるの?




