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ユニコーンのたまご  作者: しいな ここみ
第三部『ユーコとゼンゾー』
22/67

ユーコの気持ち

 ゼンゾーさんが帰って行くと、ユニオはそれを黙って見送ってから、不思議そうにあたしに聞いた。




「ママ……。どうしてゼンゾー、帰っちゃうの? 一緒に寝ようと思ったのに」




「明日、また会えるわよ」


 あたしはにっこり笑顔を見せてあげながら、言った。


「だから今日はいい子にしてね」




「ええ〜……。やだな」


 ユニオは13歳の顔で、子供みたいにイヤイヤをする。


「ぼく、パパとママと一緒に暮らせると思ったのに」




「ユニくん……」


 しゃがむまでもなく、そのまま目を見つめて、あたしは言った。


「パパ……欲しい?」




「うん!」


 強い言い方とはべつに、その顔は寂しそうだった。


「ぼく……、パパとママと暮らしたい」




「……そう」


 あたしはうなずいた。


「……わかったわ」




 明日、あの人と……ゼンゾーさんとデートをすることになった。

 あの人は利用できる。あたしとユニくんを守ってくれる。




「あの人のせいで遅くなってしまったね」


 ユニくんはもう眠そうだ。


「お風呂はもう入ったし……寝よっか?」




「うん。ぼく、眠い……」


 ユニくんがあたしに抱きつき、甘えて来る。


「ママ……。ちろくんも、一緒に寝よ」




 ちろくんはユニオの言葉がわかるように、ハキハキとした動きで先にベッドへ走って行った。まるでユニくんの家来だ。先にベッドに入って、あたためてくれるらしい。





 ベッドに入り、灯りを消した。


 ちろくんを挟んで向かい合う。




「ゼンゾーが帰っちゃったから、ぼく、寂しい。おてて握ってよ」




 思わずくすっと笑い、もう大きな少年のその手を優しく握ってあげた。


 あたしの前で目を閉じると、ユニくんはすぐに眠りの中へと入って行った。


 優しい世界。


 これがこのままずっと続いてくれるのだろうか。


 あの人のキスで、もうユニくんは人間を食べなくてもよくなってくれたのだろうか。


 食べられた3人の女性には申し訳なく思う。


 でも、あたしはこの幸せを壊されたくはない。


 ユニくんは何も悪いことなどしていないのだ。

 ユニコーンは人間の、未産婦の肝臓が大好き。ただ食事をしただけなのだ。


 人間社会の倫理なんかで裁かれてたまるか。




 眠りにつく前、ゼンゾーさんの顔が浮かんだ。


 あたしは唐突にプロポーズされた。


 受けてもいい。

 それがユニくんのためになるのなら。


 あの人は刑事だ。

 少し頼りなさそうだけど、あたし達が幸せに暮らすために、もってこいの守護者だと思う。


 ただ、ユニくんのパパではない。


 ユニくんのパパで、あたしの想い人は、あの人しかいない。


 ユニくんと同じ銀色の髪に、銀青の瞳、そして立派な長いツノを額に持つ、あの人……。


 名前……アーミティアスって言うんだ……。


 いい名前……。似合ってる。


 たった一度、あの雨の日に、タバコ屋のひさしの下で一緒に雨宿りをしただけの人が、どうしてこんなにも忘れられないんだろう。


 ユニくんの本当の父親だから?


 それだけじゃない。


 なぜだろう。あたしがこんなにあの人のことを想ってしまうのは。


 会いたい。会って、その頬を叩きたい。


 憎い。あたしとユニくんをほったらかしにして、どこで何をしているの?


 頬を叩いて、その胸に飛び込みたい。


 ユニくんのパパ。

 あたしの愛しい人……。



 どこにいるの?



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白すぎて一気読みしてしまいました( *´艸`) したのは昨日か一昨日ですが(記憶力……!) ダークな世界観がたまらなく好きです。 ユニくんとゼンゾーの関係がちょっとBLっぽいなと感じたり…
2022/02/11 10:44 退会済み
管理
[一言] キャー!!! 何とも切なくて どこか甘美な もう♡♡♡♡です!!!
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