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ユニコーンのたまご  作者: しいな ここみ
第二部『ゼンゾーとロイ』
17/67

スティーブ

 おれがスティーブに激安家賃一万円で居候をさせているのには理由がある。


 まず、こいつがいると、家がどんどん便利になるのだ。

 元々はボットン便所だったのをアメリカ人が大好きなケツ洗い機能付きの水洗洋式便器にリフォームし、薪でわかしていた風呂も、アメリカ映画で美女がフンフンフ~ンとか歌いながら浸かっているような、いかにもこの洋館に似合うようなものにすげ替えた。明治時代の趣を残す外観のまま、中身はオール電化の洋館だ。光熱費も実は全部スティーブが払ってくれている。


 二階部分はすべて市に差し押さえられているが、一階部分はスティーブが必要としているので半分以上が無事で、おれも自由に生活できる。立ち退きを言い渡されないのもこいつのお陰だ。


 スティーブは2部屋をおれから借りていて、ひとつは寝室、もうひとつは音楽スタジオとして使っている。スタジオはもちろん防音材の壁に改装されているが、なぜかおれの部屋を向いている壁だけは明治時代のままだ。嫌がらせのようにおれに向かってだけは爆音がそのまま部屋を突き抜けて来る。それでもおれはこいつに出て行けなんて言えない。


 庭が荒れ放題になってヘビとかも棲みつかないのもスティーブが業者を雇って定期的に整備してくれているお陰だ。



 つまりこの屋敷は実質スティーブに乗っ取られている。しかしこいつにそんなつもりはないようで、権利書をおれからカネの力で奪おうなんてことは言い出しもしない。自分の持ち物だということを忘れないためにおれが要求した一万円の家賃もちゃんと毎月払ってくれている。ま、ムカつくところもあるが、基本的には家主思いのいいやつだ。


 何よりおれの仕事に協力的だ。カネの力でバックアップしてくれる。自家用のヘリコプターを所有しているので、離島に逃げた犯人を楽々捕まえることが出来たこともある。裏社会にも通じているので、情報の入手も早い。その代わり、大きな声では言えないが、おれは麻薬の裏取引とかは邪魔しないようにしてあげている。ま、すごいバックアップがあるのにおれが30過ぎても昇進できない理由はこれだな(笑)


 有り余るカネを使って色々便利にしてくれるが、唯一、おれにカネを貸すことだけは絶対にしない。戻って来る見込みのないカネは貸せないのだそうだ。さすがはアメリカの大企業の社長の息子だ、人を見る目がある。



「アイタガヤ、今夜は何が食べたい?」

 スティーブがエレキギターをしまいながら、おれに聞いた。


 家で食事をする時、おれのメシはすべてこいつが奢ってくれているのだ。


「焼き肉食いてぇな……」


「よし。炭火焼き肉の高級店から出前で一式持って来させるよ」


「あ。そっちの部屋入るな。そこは市の所有だ」


「大丈夫。ここが通れないと不便だからボクが買い戻しておきましたよ」



 煙を排出するための大型フードもスティーブが食堂につけてくれたので、おれ達はだだっ広いテーブルに並んで座り、焼き肉屋そのもののセットを前に、メシを食った。


「でも、びっくりですね」

 スティーブがステーキみてぇに大きな焼き肉を口に入れながら、言う。

「アイタガヤに子供がいたなんて。聞いてませんでしたよ」


「実の息子じゃねぇ」

 おれはロイの顔を思い浮かべながら、答えた。

「ロイは幼い時両親をなくして、おれが7歳の時に引き取り、育てたんだ」


「7歳のお父さんですか」

 スティーブが冗談を聞いているように笑う。


「まぁ、正確には父さんとじーちゃんが引き取ったんだけどな。でもあいつといつも一緒にいて、あいつを育てたのは、おれだ」


「なぜ『お兄ちゃん』じゃなくて『お父さん』です?」


「よくペットの飼い主が自分のことそう言うだろ? そんな感じだ」


「ヨクワカラナイ」

 スティーブが理解できずに失笑する。


「スティーブ……」

 なぜだろう。おれは他人にこの話を初めて打ち明けようと思った。

「ユニコーンが実在すると言ったら、信じるか?」




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― 新着の感想 ―
[一言] 欲しい!! 一家に一台“スティーブ”を あ、と、用事済ませてまた来ま~す!!(^O^)/
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