銀色 ★(イラストあり)
※イメージイラストは愛猫家奴隷乙様より頂きました
雨が灰色だった。
朝出る時、天気予報をしっかり見とけばよかった。
あたしはタバコ屋さんの小さなひさしで雨宿りをしながら、ざーざー降るにっくき雨をぼんやりと眺めた。
町も色をなくして煙っている。
この灰色を抜けて、早くあったかい部屋に帰りたい。
ちろくんもお腹を空かせて待っているだろう。
息を切らしてそのひとは駆けて来た。
初めはなんか美しい銀色の馬でも駆けて来たのかと思った。
グレーのスーツにノーネクタイのそのひとは、すらりと背が高く、虹がかかりそうなほどな銀色の長い髪をしていて、額から長いツノが一本、生えていた。
しばらくその狭い空間であたし達二人は並んで雨宿りをしていた。
仕事帰りのOLと、ツノの生えた銀色の男のひとが、ひとつひさしの下。
居心地が悪くなって、まだ本降りの続く雨の中へ仕方なくあたしが走り出ようとした時、そのひとが話しかけて来た。
「よく降りますね」
上のほうからこちらを見て、やわらかく笑った。
「傘を持って来ればよかった」
銀色の髪からしたたる雨粒が、現実じゃないもののようにキラキラしていた。
……人間?
……じゃ、ないよね……。
顔は西洋人っぽくて、見たことがないほどに美しい顔立ちをしている。
どこか人間離れしていた。
何より額からツノが生えている。
「あの……」
あたしは『どこの国の方ですか』と聞くつもりで、
「どこの星の方ですか」
そう聞いてしまった。
「……もしかして……」
そのひとは真剣な表情に変わり、自分の額を指さした。
「これ……、見えてます?」
あたしがこくこくとうなずくと、とても嬉しそうに、笑った。
「あなたのような女性を探していました」
そのひとはそう言うなり、
あたしを抱きしめ、キスをした。
魔法にかかったように時間が夢を見るように過ぎ、
あたしがふっと目を開けると、
そのひとはいなくなっていた。
「……夢?」
雨が小降りになっていた。
◆ ◆ ◆ ◆
アパートの部屋に帰ると、マルチーズ犬のちろくんが扉を開けるなり飛びついて来た。
「ごめんねぇ、ちろくん。遅くなっちゃった。お腹空いたね。ごはん、あげよう」
ストッキングが破れるほどの勢いで足に抱きついて来るちろくんを撫でながら、ドッグフードを用意していると、急に視界がぐらついた。
立っていられない。
なんとか銀皿にカリカリを入れると、あたしはベッドまで這って行った。
お腹のあたりがやけに張る。
触ってみると、まるで妊娠したように固く膨れている。
意識が朦朧とする。
なんとかベッドに辿り着くと、電気も消さずに潜り込んだ。
ちろくんがあたしの上に乗り、心配そうに顔を覗いて来る。
あたしの本能が命令していた。
寝なければ。
…寝なければ。
……産まなければ。
◆ ◆ ◆ ◆
何かがあたしのお腹の中でどんどん大きくなっている。
何か、固くてとてもやわらかいものが。
それはぐるりと回転すると、あたしの子宮口を上から圧迫しはじめた。
強い力で、押し破って出て来ようとする。
「ヒイィッ……!」
自然に声を上げた。
「や……、やめてぇぇっ……!」
とても大きなものが、あたしの子宮口を中から突き破り、膣内を逆行して来る。
あたしは枕を抱き、枕カバーが破れそうになるほどに抱き、目を固く瞑り、歯を食いしばったり、大きく口を開けて叫んだり、身をよじらせたりしながら、涙を振り絞って、いきんだ。
手が勝手に動き、下着を脱いでいた。
「いきゃああああっ!!」
トイレの詰まりが抜けたような、ぽん!という音が、あたしの足の間からした。
「うわんっ!」
ちろくんがそれを見るなり、吠えた。
「ヴヴヴー、わんわんっ!」
バスケットボールぐらいの大きさの、虹色がかった白いたまごを、あたしは産んでいた。
※イメージイラストは愛猫家奴隷乙様より頂きました!
※表紙風イラストは空原海様より頂きました!