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 温室の中は、たくさんの花が咲き乱れ、妖精たちが舞い踊る花園が……あるわけではなく、なんか硬い表情の男子学生が多数と、モナちゃんと、多分初顔合わせの女の子が一人と、私。


 おいおい、まさかの男女比10:1だよ。

 ふーむ、お昼のあの微妙な空気は植物学は女子に不人気ってことだったのか。


 授業内容は取り立てて難しいことはなく、新しい知識が得られる感じではなくて拍子抜けだなーっと思いながら帰宅に向けて廊下を歩いていると、前方から男子学生の塊がやってくる。


 肩を組んだりふざけ合ったりしている集団の中に、見覚えのある黒髪の少年がいる。

 ということはあの塊は同学年の男子集団……か?


「アイリーア嬢!」


 一人が私に気づいて、気安く手を振ってくる。

 あー、名前は確か「クラスの男子1号」君だ。全く見覚えはないけどね。

 軽く会釈をしてやり過ごそうとしたのに、何を思ったのかにこにこしながら近づいてくる。

 メル君に迷惑をかけないと約束した以上、彼の周囲ともなるべく関わりたくないのに。


「もうお帰りですか?」


と見ればわかるだろう事を聞いてくる。


「我々はこれからクラブへ行くのですが、見学に来られませんか?」


もう一人追加で増えてそんな事を言い出す。

 水色頭のキミは「クラスの男子2号」君だったね。知ってる知ってる。


 ……クラブってあれだよね? 授業後の趣味の集まり。っていつぞやメル君に聞いた。

 メル君は選択授業も剣術メインで、クラブも剣術だって言ってたはず。

 彼らは私に一緒に剣術をしようと言うのか? いくらなんでもそりゃ無理だろう。


 一瞬考えて、お断りしようと思ったら2号君の肩をぐいと押して移動させる手があった。


「バカ、止めろ。ほら行くぞ」


メル君が2号君を無理やり移動させていく。


「迎えが来ておりますので、本日は失礼いたします」


 その場にいた1号君にそう言うと軽く膝を曲げて挨拶をする。


「ごきげんよう」

「えー、アイリーア嬢が来てくれたら、俺めちゃくちゃ頑張れるのにー!」


 廊下の先でメル君に連行された2号君が叫んでいるが、無視だ無視。単にからかってるだけだし。

 確かに、剣術とかできたら楽しいかもと思ったこともあるけどなぁ……。

 父が派遣してきた先生に剣術はおろか護身術もなかったってことは、そっちの方向は不可ということだろう。

 一応病弱設定だしね。





 翌日の共通授業もリリアナとミリアムの二人が一緒に座ってくれた。リリアナは何かと面倒見がいいと思う。

 ……こういうのなんて言うんだっけ?

 委員長体質?

 

 休憩時間になると同時に


「アイリーア嬢」


と声をかけられ、水色の髪の毛が視界に割り込んでくる。

 うん、この顔は覚えてる。クラスの男子2号君だ。

 その横に赤とオレンジの中間色の頭が入り込んでくる。

 キミは1号君だったね。


「明日の放課後はお時間ありますか? 昨日お誘いした剣術クラブの活動日なんですが、ぜひ見学に来ていただきたいのです」


 おおう。なんと。諦めてなかったよ。ってか、からかわれただけだと思ってたのに、本気なんか。


「せっかくのお誘いですが、わたくしは剣術は嗜んでおりませんので、ご遠慮させてくださいませ」


 これはきちんとお断りをせねばなるまいと思ってそう言ったら、2号君は困ったように笑って首を横に振った。


「いやいや、アイリーア嬢に剣術をさせたいんじゃなくてさ」


 うん? じゃあなぜ剣術クラブに誘うんだ。勧誘じゃないのか?


「なんていうか、えっと、……そうだ、応援しに来てほしいんだ」


 はい?


「いや、応援とも違うか? んー……見物?」

「……見るだけ、ですか?」

「そうそう。見るだけ」


 うーむ。なんだこれ。メル君の頑張ってる姿を見るのはやぶさかではないのだが……。

 メル君との約束、これは大丈夫かな?


 こっそりメル君の様子を窺うと、別に気にしてない様子で、お隣のリリアナに視線だけで問うと、彼女もまた否定的では無いように思えた。


「わかりました。少しの時間でもよろしければお伺いいたします」


 そう答えると、1号・2号はガッツポーズをし、聞き耳をたてていた周囲からはわっと声があがり、メル君は椅子を蹴って講堂を出ていった。


 えー……一体何だっていうのさー。

 もうちょっとわかるように状況説明してー。

 嫌なら嫌って、そういう態度とってよー。


 昼休憩は今日も中庭でピクニックだ。

 昨日よりも若干人数が増えているような気がするのは、きっと誰かが分身体を出しているせいに違いない。

 みんなが名前で呼び合っているので、私もそうして欲しいとお願いしたら、さっそく輪の中から声が上がる。


「レスティア様は剣術クラブに誘われたんですよね?」


 今日の休憩時間の一件だよね。


「はい」


 事実ゆえ頷けば、黄色い悲鳴が上がる。だからそれは何事だ。


「では、あの……、レスティア様はグラディス様とチェスロー様、どちらを騎士になさるんですか?」


その隣から別の声が上がると、きゃあきゃあとハチの巣をつついた勢いだ。


 えっ、「キシニナサル」ってなんだ? キミは今、私と同じ言語を用いたかね?

 幼いころに突然意味不明な言葉を言ってしまった時の周囲の大人たちのぽかん顔の心の内を理解したよ、今。


 騎士、に、なさる……? なんで私に騎士の叙任権があると思ってるんだ? そもそもクラブの見物と騎士の叙任との因果関係が不明すぎる。

 うーん、こういうときは……。

 助けて、委員長!


 視線で隣のリリアナにヘルプを出すと、リリアナは小さくため息をついてから黄色い声を制する。


「皆様、大きな声で騒ぎ過ぎです」


その一言で周囲はしんとなった。

 やっぱり、そうだよね。いくらなんでも、この騒ぎははしたない。

 この学年の女子で一番身分が高いのはリリアナだ。あと一応私もか。「学生という同じ立場」が重要視される学院内では大っぴらに身分をタテにはしないけれど、やはり、根底にはあるものだ。


「レスティア様、午後の授業の準備に参りましょう」


 手元のランチボックスを片づけ始めるリリアナに私も習う。

 おそらく、この騒ぎを不快だという意思表明と、この人数の前で話すべきではないことがあるのだろう。あのお誘い以降、何か言いたげに機会を窺っている感じだったから。


 リリアナは初等部のころからずっと、この立場だったに違いない。

 周囲の模範であったり、舵取り役であったり。彼女の委員長体質は彼女自身の努力の結果なのだろう。

 えらいなぁ、リリアナは。


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