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 翌日の学院はおかしな雰囲気だった。

 やたらとチラチラ見られたり、あからさまにヒソヒソと内緒話されたり。

 なんだろ? なんか変? スカートが汚れてるかな?

 いつもの講堂に入るまでに3回は人にぶつかるし。ついてない。


 講堂に入るなり、リリアナに手を掴まれて、隅に連れて行かれた。その周囲をバリケードのように女子学生が埋め尽くしている。

 え、何? 積極的。


「レスティア様、あなた昨日、昨日……」

「リリアナ様、落ち着いて」


 いろいろ切羽詰まって言葉が出ないリリアナをミリアムがなだめてる。

 ただくっついてるだけなのかと思ってたけど、この二人は二人で暴走役となだめ役、ボケとツッコミのようないい塩梅なのかもしれないと思った。

 リリちゃんは大きく深呼吸をしてから姿勢を正した。


「順序立ててお伺いいたしましょう」


 うん、いつものリリアナっぽくなった。


「昨日の放課後はチェスロー様と、……レイと一緒に剣術クラブに行きましたか?」

「はい。お伺いしました」

「知ってます。見てましたもの」


 知ってるんかい。ってか見てたって何?


「そこで多数の方から名を捧げられましたよね?」


 じ、尋問??


「23名です」


 ミリアムの合いの手が入る。


「名を捧げられる、というのがよくわかりませんが……」


 真剣な様子に、曖昧なまま答えるのも悪い気がして質問してみる。

 リリアナは驚いた顔をして、ミリアムとこそこそと打ち合わせる。


「名を捧げられる、というのは……騎士が礼をして、名乗った名前を受け取るということです」


 うん? やたらとボウをしながら自己紹介してったのはそれか。

 でも受け取るっていうのは?

 あ、いや、うん。姫演技で頷いて返礼した。

 そういや昨日、王子も名前をもらったとかなんとか言ってたな。


「そう、ですね。何名かの方のお名前を伺いましたが、その23という数字は誇張が過ぎると思いますが」


 と言ったら、近くにいた女の子から声が上がる。


「間違えありません。わたくし、その場で数えておりました!」


 え、ホントに? 暇な人がいるもんだな……。じゃなくて、部長さんから……王子の間に21人?

 てことは正確に記すなら、部長さん…………………王子ってことか。


「そう、なんですか」


 じゃあ、はい。間違いありません。私がやりました。


「その中に、ノルベルト殿下もいらっしゃいましたね?」

「はい、ノルベルト様もいらっしゃいました」


 そこで周囲からハートのついた悲鳴が上がる。

 王子は人気者だな。


「リリアナ様、その、名前を受け取ると、何が問題なのでしょう」


 ただ、礼をされたから礼を返しただけなのに。


「名を捧げられたということは、その、『騎士』として名乗りを上げた、ということです」


 リリアナの頬が赤くなって、声が少し小さくなる。それで騎士の意味を理解した。

 なんですと?


「23名の騎士」


 そう言って夢見る乙女のポーズでミリアムが頬を赤らめている。


「23名ではありません」


 ミリアムの言葉をリリちゃんが否定する。


「チェスロー様とレイを入れて25名です」


 そこで予鈴のチャイムがなり、尋問は一時中断となった。

 だけど、まさかこのエピソードが後に「25人切り」などという道場破りのような物騒な名前で語り継がれる不名誉になるとは思わなかった。


 あいかわらず、午前の授業は右から左へ受け流すだけの作業なわけだけど、今日の私は考えることがいっぱいだ。

 騎士として名乗りをあげるってことは、恋仲になりたいってこと?

 リリアナの説明ではそういう感じだったよね?

 いや、でも待って。半数以上が初対面だよね? よくこんな中身の得体も知れない女と付き合いたいよな。

 ああ、違う違う。

 ルーテースとレイモシーはどう考えても「政略」だろう。

 少なからずそんな感情があれば、王子の横やりに文句の一つも言うよねぇ? 無言でしれっと引いたしな。(メリット)王子(デメリット)を比べて、デメリットの方が大きいと踏んだに違いない。

 じゃあ、後は? 

 普通に考えて、ほぼ大多数が「ノリ」だろうな。なんかのイベントに、とりあえずエントリーしとけって感じで。

 王子はアレだよなー。私の中身がニセモノだって、ただの擬態令嬢だってわかってるだろうし。

 あの笑い袋王子の燃料としてからかわれてるとしか思えないな。

 

 思考が一周回って考えたところで私にはどうしようもないと結論が出たので、ほっとくことにしよう。リリアナも選ぶ気がないならほっとけばいいって言ってたしね!

 と思ったところで終業のチャイムが、第2ラウンドのゴングのように鳴った。

 すぐさま講堂の隅に連行される。

 えー、まだやるの?


「先ほどは、25名の方に名を捧げられ、そのお一人にノルベルト殿下がいらっしゃることが事実であることを確認いたしました」


 リリアナが周囲のご令嬢に状況説明するように話し始める。

 公開裁判だった!


「お帰りの時は、殿下にお送りいただいた、というのは?」

「事実です」


 ルーテースがあっさり引いちゃうんだもん。

 周囲が息を飲んでいるのが分かる。


「殿下のエスコートを受けられたんですか?」

「受けました」


 声にならないような悲鳴が聞こえてくる。


「その、途中で、殿下にハンカチをお渡しに?」

「いいえ、渡してはおりません」


 あちこちから息を吐く音が聞こえてくる。

 そこでリリアナが頷いて、周囲をみる。


「皆様、お聞きになりましたね。ハンカチの件は事実ではございません。今後はこの憶測を口に出されませんように」


 まるで、お互いの無事を確認するように顔見あわせ、頷き合っている。

 ホント、なんなのキミたち。

 ざわざわとした波が収まるのをまってから、リリちゃんが宣言する。


「本日はこのような状況ですので、中庭でのランチは行いません。青薔薇会の皆様はお姉様方に必ずこのことをお伝えくださいませ」


 ……またおかしな言葉が……。

 意味不明なまま解散になり、けれど朝から思い詰めた顔をしていた子たちに笑顔が戻ってきている。

 何か納得してくれたのなら、もうそれでいいや。

 3時間目は生きるための気力を養うために全力で授業を聞き流した。

 昼休憩は講堂でリリアナ、ミリアムと静かにランチ。

 こういう平和な時間が続きますように。

 ……青薔薇会って何? なんて絶対に聞かないよ。世の中には知らない方がいいこともある。

 午後の生物学を終えて、まっすぐ帰宅。

 チラチラ、ヒソヒソなんて気にしない。そもそも、初日から珍獣扱いだったしね。


 帰宅すると、エリーが封書を持ってきた。

 私に手紙なんて珍しい、と思ったらメル君からだった。

 弟君の手当のお礼とお詫びにあいさつに来たいって内容だった。

 まぁ、手紙を書いたのはメル君じゃないし、いつものおつかいだよね。

 エリーに了承のお手紙を出してもらおう。本当は自分で書きたいけど。

 王子ノートの書き写しを終えて、本日は終了。

 静かな日、バンザイ!


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