表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

牛乳ちゃん

第2回「小説家になろうラジオ」応募作品

「牛乳ちゃん、また止まっちゃってるよ?」

「だってぇ」


 その白い飲み物を前にすると私はいつも固まってしまう。


「もうすぐ給食時間終わるよ? がんばってみようよ」


 隣の子がそう励ましてくれた。

 でも、手に持つ牛乳瓶は空にならない。


 思い切って口に近づけるけど――


「はぁ、やっぱりだめだ」


 私は牛乳が苦手。

 牛乳が嫌いすぎて、周りから牛乳ちゃんと揶揄われるほど。


「牛乳ちゃん、ちゃんと飲まないとチビのままだよ?」

「いいよぉ、べつに大きくならなくても」


 栄養があるとか言われても、ムリなものはムリ。

 匂いがおかしい、後味がへん、その白い色がなんだか許せない。


「しょうがないなぁ。意気地がないよ、牛乳ちゃんは! それ、貸してみ」

「う、うん。でもぉ」

「いいから、先生がよそを向いているいまのうち!」


 私の牛乳瓶が空になったものと取り替えられる。

 そして、隣りの子は一気飲み。


「ぷはっ! ほら、どうってことないでしょ?」

「ご、ごめん、ありがとう」

「いいよ、べつに。牛乳大好きだし」


 それからというもの、隣りの子は、私が困っていると黙って牛乳瓶をすり替えてくれるようになった。でも、そんなズルいことがいつもうまくいくとは限らない。ときどき先生にばれては叱られていたっけ。

 


 しばらくぶりに牛乳瓶を手にしたら、そんな昔を思い出し、私はひとり「ふふっ」と笑ってしまった。


 と、玄関のドアがガチャリと開く。


「ただいまぁ」

「おかえりなさい。きょうはわりと早かったのね」

「まあね、それよりどうしたの? めずらしいね……牛乳瓶なんか握りしめて?」

「う、うん、なんだか、いまなら飲めるような気がして……さっき買ってきたの」

「へぇ、そうなんだ」


 からかい交じりの視線を浴びて、なんだか少し居心地が悪い。


「でも全然飲む気配ないよね? また止まっちゃてるよ? 牛乳ちゃん」

「もう、やめてよぉ! そのへんな呼び方」

「ごめん、ごめん。だけど、そんなに無理することないよ。カルシウムならほかの食べ物から取ればいいし……へんにストレス貯める方がお腹の子に悪いから」

「それはそうだけど……」

「貸してごらん」

「う、うん」


 牛乳瓶が一気に空になる。


「ほら、美味しいじゃないか?」


 と得意顔のだんな様。


 でもね、私は知っているんだ。

 あなたが牛乳を飲むとき、ほんの少しだけ顔を引きつらせるのを。

 たぶんあなたも牛乳が嫌い。


 ごめんね、優しいだんな様。

 そんなあなたが大好きよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ