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第1話 まえがき

 人生はラブコメで出来ている。

 ……そんなことを言ったのって、何だか久しぶりな感じがするんだよな。

 夏休みはラブコメにおいては重要なイベントであるのだけれど、ラブコメ、何それ美味しいの? 状態になっている僕、十文字隼人からしてみれば、夏休みは暑い夏をクーラーの効いた部屋で何とか過ごそうとする、その一幕に過ぎない。

 というか、ラブコメって具体的に何をすれば良いのだろうな?

 メインイベントの一つに数えられていると言えば、夏休みが挙げられるだろう。

 夏休みはイベントが目白押しだ。プールに海水浴、スイカ割りにキャンプ、流しそうめんに花火大会に夏休み子供科学電話相談……。

 最後は余計だったかもしれないが、しかし、夏休みと言えば、みたいなイベントはこのように目白押しな訳で、普通ならそれを諸手を挙げて喜んでいたのかもしれない。

 ……物理の補習というバッドなイベントさえなければ。


「しっかし、あの先生もテストの難易度下げてくれれば良いのにねえ」


 夏休み、初日。

 正確に言えば、七月二十五日の朝十時。

 朝にしては遅いんじゃないかというツッコミはほどほどにしておいて、僕は自室に居た。朝から勉強をするというつもりはない。そんな行動力があるなら、赤点など取っている訳がないのだ。

 では、何をしているかと言えば。


「でも、赤原先生もきっと皆のことを思ってやっていると思うんですよ、だからお姉ちゃんもしっかり補習を受けてね。科目は数学と物理と、あと何だったっけ?」

「勝手に増やすな。私はその二つしか受ける予定もないし、受けるつもりもない。……ったく、昔はもっと可愛かった気がするのにねえ。『姉より優れた妹は居ない』って、誰の言葉だったかしら」


 嘉神ひかりと嘉神のぞみ。

 姉がひかりで、妹がのぞみだ。父親が鉄道マニアだったために、子供の名前は新幹線の名前となったらしい。……もし男が生まれていたらどうなっていたんだ? やまびこ? はやぶさ?


「とにかく、夏休みも普通に過ごせそうで何よりじゃないか。……ただ、集まっている理由が問題になりそうな感じはしないでもないが」


 何もわざわざこの暑い夏に外に出て遊ぶことなどしない。

 そしていくらクーラーが効いている部屋だと言って、初日から勉強をするという真面目ムーブをする訳でもない。


「ああっ! お姉ちゃん、私を踏み台に……!」

「へっへー! だてにVIPにはなっていないもんね! 勝利率九十パーセント以上のこのキャラクターなら誰にも負けな」

「隙あり」

「いたたたたたっ! 痛い! いくらゲームで勝てないからって現実リアル攻撃アタックするのは卑怯なんじゃないですかーっ!」


 格闘ゲーム。

 それも全世界でめちゃくちゃ売れているけれど、売れているなりに問題点も色々指摘されているゲーム。

 ただまあ、普通に遊んでいるうちはそんな不満なんて気にも留めないんだけれどな。


「いえーい、私の勝ちぃ! じゃあ、二人とも、ジュース奢りね!」

「ええ……」

「負けは負けでしょう。認めなさい」

「お姉ちゃん、こういうときだけ強いんだから……」


 それって何かの皮肉か?

 でもまあ、こんな日常も悪くないよな。

 ついこないだまで神がどうの天使がどうの世界がどうの言っていたのが、何だか嘘みたいだ。

 やっぱり日常に非日常って必要ないよな……なんて思った矢先、机に置いてあった僕のスマートフォンが振動した。

 大方、ポイントカードのアプリの通知か何かだろう、そう思ってスマートフォンを起動して通知を確認しようとしたら――。

 その通知は、出来れば見たくない通知だった。

 その通知はLINEだった。LINE、つまりメッセージか通話か、まあ、色々コミュニケーションが取れるツールだ。それについては別にどうでも良い。

 問題はその相手。英数字で構成されているそのアカウント名は……見覚えのあるアカウントだ。

 ついこないだまで、色々とやりとりをしていた、神ガラムド。

 この世界を管理し、どこか遠い世界から見つめている観測者。

 もう二度と来るはずのなかったその連絡が、どうして今になって。

 何だろう……ひどく嫌な予感がする。

 何となく、ほんとうに何となくだけれど、これからの夏休みをも揺るがす何かが起きそうな、そんな感じがした。



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