ベムーナとメシュティ
ーーー…コズミック塾が終わり、2人は居残りで個人練習に来ていた。
「しっかし、いいセンスしてんね、ベム。あんたならデビューしてから上手くトップランカーになれそうな気がする」
メシュティは、そこまで悔しがっていない様子。むしろ清々しい気分のようだ。
「いやいや、まだまだだよメシュ…。あれは偶然だし、狙って出来なきゃ “滋曲 舞薫” には辿り着けない…」
まだまだ精進が足りない!と、自分で自分にムチを叩きつけるベムーナ。
「でも、この塾生用の “Moon” でアレをしたのは正直かなりの神業だし…あとは故意に出来るようになれば、滋曲のレベルかもな…」
と言ってから、メシュティは、少し語り始める。
「…ただ最近、滋曲やピュピアスらへんの名前…聞かなくなったんだよな…。今わりと耳にする有力な選手は…確か、
ズィーグ・ザスィアレス
ジョクシム・ビリンヴァー
サングラー・アンジェリッジ
夏槻 瑛洲斗
レジーナ・ピララリュート
ラディオン・ファグラディア
…ただ、その6人ですら、ピュピアスや滋曲のレベルには辿り着いてないって話だ…」
「…そっか…。はぁ…バトルできると思ってたのに…残念だなぁ…」
滋曲やピュピアスが居ないことで、ベムーナは落ち込んでしまう。
「…なんて言ってられないね。ここを卒業して、ドライバーとしてエントリーするんだ!」
「まぁ、そうだね。どっちが早く卒業するか勝負しようじゃねーか!」
「おっ、それいいね? 負けないよ!」
お互いが、お互いに闘志を燃やす。
…そして、2人とも Moon に乗り、Crazy Jump を走り込む。
それと同時に、純粋技量を高め合っていく。
「ベムの弱点は、純粋技量…! ショートカットのテクニックがあっても、普通のコーナーを詰めたり攻めたりする技術も必要…!」
「ありがとう! …メシュは、その点…純粋技量あれどショートカットが苦手だね?」
「そうなんだよな…上手くいかねぇし、滋曲の伝説のショートカットは出来る気がしねぇよ…」
2人は正反対の様子。
【ジャンプ台】
「ジャンプ台のとこでの 360 が苦手かな? メシュは」
「今でも苦手だよ…」
【ダッシュボード】
「ベム…あんた、ダッシュボード乗ってる間ずっとアクセル踏んでるクセを直さないと、いずれコースアウトするレイアウトで対応できねぇぞ? 全てがこのコースのようなレイアウトじゃねぇんだしさ」
「意識してなかったけど、それもそっか…! コースごとに適応しないとね…」
【ベクトル変換ショートカット】
①
「ぐっ…落ちるタイミング早すぎた…」
「手前すぎたな、ベム」
②
「半落ち出来なかった…」
「さすがに右に切るのが遅すぎだな」
③
「横変換してないんだ!? 今ので…」
「微妙に落ちただけで、横回転して強引に横向きにしたら、それは上に行かねぇだろ」
④
「いっ…あ、スピード乗りすぎて飛びすぎた!」
「惜しい!!」
⑤
「浮遊のタイミング早すぎた…」
「そりゃあコース裏にぶつかっちまうわ…」
⑥
「いったん落ち着こう…」
「普通に走った…。まぁ脳内シミュレートしてんだろうな…」
⑦
「…半落ちが難しすぎる…」
「滋曲も、きっと成功するまでに同じ苦労してんだろ…。諦めんな!」
「う、うん…まだ、やってやるっ!」
⑧
「うへぇ…」
「うん…」
⑨
「…ダメだぁぁあぁあぁぁ!!」
「…このくらいにしとこうか」
何度やっても成功せずベムーナは落ち込み、そんな彼女をメシュティが励ます。
「んなすぐに出来たら苦労しねぇよ。…滋曲がセンスの塊で天才だった…それだけの話」
「なんか悔しいな…滋曲も憧れてる一人だから、追いつきたいのに…」
少し涙目になってきたベムーナに、メシュティは、
「まだ塾生なりたてだし、卒業した訳じゃねぇだろ? 卒業までに…それかデビューしてからでも遅くねえよ…。頑張って習得しようぜ? どうあがいても、時間は掛かるもんだろ…初めて挑戦したんだから」
温かい言葉で慰めた。
「…それも、そうだね…! うん…いつかは習得して、ピュピアスに挑戦してやる…!」
すると、元気を取り戻した。
しかし、時間が来てしまい…
「やっべ! ベム、もう 21時45分 だ…! 急いでガレージ戻らねぇと!!」
「へ!? あ、やばっ! キダンドゥ先生を待たせてるし、急がなきゃ!!」
2人は、かなり飛ばしてガレージへと戻る。
………
……
………ガレージ。
「はぁ、はぁ…着いた…!」
「間に合った…けど超ギリギリだな、ベム…」
なんと、21時59分に到着した!
「だいぶ走り込んでいたようだな?」
そう2人を待っていたキダンドゥは、
「このあと時間を少しだけくれ。キミたち2人に話しておきたい…」
と、何やら話を持ち込む。
「へ? 分かりました」
「分かった」
と承諾し、ベムーナとメシュティは、ガレージに船舶 Moon をしまい、片付けも済ませた。
………そして場所は、ファミレス。
「お代は出すから、好きなものを食べていい」
「あっ、ありがとうございます!」
「マジか!? 太っ腹先生だな」
「誰がデブか、メシュティ!」
「いやそういう意味じゃねーし!? そもそも太ってねぇだろうが!」
早々に盛り上がる。
「…っと、とりあえず食べながらでいいから聞いてほしい…」
と真剣な話に持ち込もうとするが、
頼んだメニュー
ベムーナは、ロースカツ天ぷら定食ライス大盛り、コーンスープにドリンクバー付き。
メシュティは、7種フライ定食ライス並盛。
キダンドゥは、コーヒーとシュガートースト。
…それにより、
「…ベム、めっちゃ食べんのな?」
「よく言われる。痩せてんのに大食いでビックリするよ…って」
「あはは…その点キダンドゥ先生…そんだけ?」
「もう晩ご飯は済ませたからな…」
「あ、そういうことか」
またも盛り上がるが、
「…っと。食べながらでいいから聞いて欲しい」
と、ようやく真剣に話し始めた。
「実は…私のかつてのライバルに “フェルニーナ・グランボーヴ” という天才がいたんだが、私とフェルは、お互いに先生やっていてな…。一足先に、フェルは塾生を卒業させ、もうデビューさせている…。確か名前は、“レジーナ・ピララリュート” …キミたちと同じで、女の子だ」
「レジーナ…って、その名前…アタシの幼馴染みじゃねーか!!」
「メシュティの幼馴染みなのか…。…まぁそれは…いったん置いておいてくれ」
と、ひと息置いて、
「私が話したいのは、フェルに負けない塾生を卒業させたいんだ…。だが、その夢も、メシュティとベムーナ…キミたち2人のおかげで達成しそうだ」
なんと!
この時から、ベムーナとメシュティは、キダンドゥのお墨付きとなった。
「つまりは、アタシとベムが…」
「フェルニーナさんの塾の卒業生 “レジーナ” さんを越せる人材…って事ですか?」
2人して顔つきが変わった。
勝ちに対して執着するような、燃えたぎる闘志が眼から感じられる。
「いい眼だ…! そうだ! 私は、キミたちを特別講習で鍛え上げ…フェルにひと泡ふかせてやりたいんだ。協力してくれるか?」
と要請。すると、
「いいでしょう。やりますよ!」
「ライバル増えたな…! ベムもレジィも超えてやるから覚悟しろ!」
「ふふっ、望むところだよ!」
あっさりと承諾…どころか、レジーナの話を聞いてから決意してたように返事した。
「…ふっ。仲良くなって何よりだな。ベムーナ、メシュティ…キミたちに託す!」
そうして、ベムーナとメシュティは、他の生徒たちとは別に、個別講習を受けることに……ーーーー