コズミック塾
レース観戦の翌日。午前9時。
ベムーナは、キダンドゥが開いている、
“コズミック塾”
へと訪問をするため、レース観戦が終わった直後に調べ、直接来ていた。
しかし、塾の開講は、12時から。
「ネットだと開講時間が“ランダム”って書いてあったから、早めに来てみたら…12時かぁ…」
あと3時間もある。長いこと待たないといけない。
そう考えていた時、ベムーナの所に誰かが寄ってきて、声を掛ける。
「もしかして、昨日ヴァナボッドが言ってた“新たなレーサー希望の女の子”って、キミかい?」
金髪の天然パーマ、顔は少し焼けていて赤茶色、サングラスを掛けていて、ワイルドに口髭がある。胸元に“Kedamdwo”と刺繍された青いアロハTシャツ、明るい青のジーパン、黒い革靴。チャラい気がする格好の、背が高い男が現れる。
「は、はい! …って、その胸元の刺繍…キダンドゥさんですか!?」
それに気づいて目を輝かせる。
「いかにも。私が“キダンドゥ・アヴォダンピー”…この“コズミック塾”の講師だよ」
優しく返す。
「はわぁ…」
憧れのプロに会えて惚ける。が、すぐに自我を取り戻し、質問する。
「っと、そうだ。私、レースに出たいんです…お願いします! 私を塾生にして下さい!」
しっかりと深くお辞儀をする。
「ふむ。…」
少し考えてから、キダンドゥは、こう返す。
「なら、まずは運転技術から見せてもらおう。もちろん、レース初心者ならではの、簡単な操作を」
と、運転を見せるよう催促。
「わかりました! とはいえ、真似事とかした事ないので、見様見真似ですけど…」
と、おそるおそる受け入れる。
ーーー塾内のサーキット、ピットにて。
時刻は、まだ9時半。
「でも、いいんですか? 塾は12時からでは…」
と質問をする。
「いいんだよ。それに、大体は調整済みだし、テストも兼ねて、キミに頼んだ」
と、気軽に行くよう促す。
「まずは起動。運転免許あるって言っていたし、分かるね?」
「はい、えっと…これですね」
《キュイィィィン…》
エンジンが起動し、マシンが少し浮遊する。
「次に、一般車と違うから、これを把握して欲しい。アクセル踏まずにハンドルを切ってみてごらん?」
静止状態でハンドルを切らせる。
すると、
「うわっ!? 一般車と全然違って、傾く…!」
そう。ハンドルを切るだけで、曲がるだけでなく、機体が傾くのだ。
「これを利用したテクニックが多いのが“コズミックチャレンジ”なんだ。それらは追々教えるとして、まずは、仮設サーキットを軽く流してみてくれ」
テスト走行を促す。
「分かりました、行ってきます!」
コースは至って簡単。しかし、テクニックを習得するには持って来いのレイアウトだ。
スタート、少しするとジャンプし、シケイン。そのあと長いストレートからのヘアピン。少し曲がったストレート後に、またヘアピン。ちょっと行くとダッシュボードがあり、2個目のダッシュボード後に高いジャンプ台。そして下り坂があり、ひねられた緩いコーナーが来る。最後はダッシュボードからのジャンプ台、そしてゴール。
「チュートリアルコースだから、安心してくれ。コースアウトしても、復帰できるから」
そう言うと、コースにマシンを出し、乗るように言う。
「…行ってきますね!」
ベムーナは、アクセルを踏み、スタート。
すると、一般車と違う曲がり方に戸惑っていた。が、すぐに馴染み、最初のシケインを…
「ほっ! よいっと!」
と、難なく、しかも理想のラインで抜けた。
「…いきなりで、あのライン…。センスある子が来たかもしれないな」
すぐにウデを見抜き、キダンドゥは感心する。
そして、ヘアピン2つ、ダッシュボード、ジャンプ台もクリア。
しかし、この時だった。
「…あれ? あの子…“重力操作”を教えてないのに、綺麗に着地したな…? 初めてなら、アクセル踏みっぱなしで縦に転がるんだが…」
そう、テスト用の機体“Moon”は、それを考慮してボディ剛性がレース機体よりも高い。にも関わらず、事故る事なくクリアしてしまったために、
「センスの塊…かもしれない」
と、キダンドゥがかなり驚いてしまった。
そして、ゴール。
「ふぅ。なんとか無事故で完走しました…!」
かなり疲れた様子だった。
しかし、キダンドゥは、
「いや、初めてで無事故っていうのは素晴らしいよ。操作した事あるのかな?」
と、少し疑惑の目線を向けてくる。
「いえ、見様見真似ですし、単に熱狂的ファンだから、マシンの構造とかを調べた事あるだけです。それで覚えてました」
完全な見様見真似だと明かす。
「そういうことか。…ふむ、なら次のステップだ。またこのチュートリアルで」
すぐさま次のことを教える。
「はい…お願いします!」
やる気満々のベムーナに、キダンドゥは押され気味だ。
「そしたら次は、“360(さんろくまる)ブースト” について教えよう」
「360ブースト…?」
「略して“360”って言おうか。360は、ハンドルにある“VC” を使った技だ。ジャンプ台で…」
そこまで説明した時、思い出したかのようにベムーナが語り始める。
「浮いてる間に横回転して、360度回して着地すると超加速するブースト、ですよね?」
と、本当に博識なベムーナ。
さすがのキダンドゥも恐れ入っている。
「…素晴らしいな。これまた1発でクリアしそうだ。やってみてくれ」
ベムーナに期待の眼差しを向ける。
「はい!」
気合を入れ、チュートリアルコースを再走。
ジャンプ台まで来ると、ベムーナはVCを押す。そして、右に傾けて右回転。
「なるほど、あの子は右回転か」
と、回転方向に驚く。
そして、1発で綺麗に着地し、ブーストを掛ける。
しかし、スピードが乗りすぎて…
「やば、ぶつかる!」
と、次のねじれコーナーを曲がりきれなくなりそうになる。
が、
「あっ…。初心者あるある…のミスだな」
と見ていたキダンドゥの予想を裏切った。
咄嗟の判断で、VCを使い、ねじれの傾き方に合わせて回転し、着地。
それにより、コースアウトせずに曲がったのだ。
「…えっ…。…」
これを見た時、キダンドゥは確信した。
「…この子、センスありすぎる。滅多に居ない天才ドライバーになるかもしれない…! もしかしたら、ピュピアスにすぐ追いつくぞ…!」
とても期待した眼差しで、ベムーナを迎え、
「素晴らしいね。まさかここまでとは…!」
と、賛辞を惜しまなかった。
「いえいえ、たまたまです! 色々と調べておいて良かったと思ってますよ!」
と、この時、キダンドゥは思い出す。
「あ、ごめん。キミの名前は?」
と、今さら名前を聞く。
「あっ! すみません、自己紹介まだでしたね。私は“ベムーナ・ファルメス”です! よろしくお願いします!」
と、礼儀正しく、お辞儀もして自己紹介する。
……そして、塾の開講時間。
「それでは、今日は新入生を紹介しよう」
その言葉の直後、生徒の子達10人が、合わせて拍手をする。
「ベムーナ・ファルメス さんだ。熱狂的ファンだったが、ヴァナボッドがバイト中に声をかけ、この塾に駆けつけてきたそうだ。みんな、仲良くしてやってくれ」
「うん、よろしくな! ベムーナさん!」
「よろしく、ベムーナ」
「ベムーナさんね、よろしく」
「珍しく女の子かぁ、よろしくな?」
と、すぐに馴染みそうな感じだ。
「よろしくね、みんな!」
「さて、今日は…っと、その前に」
コホンと咳き込み、キダンドゥは、ベムーナについて話す。
「実は、みんなが来る前にベムーナさんが9時頃に来たんだが、テスト走行をさせたら、初めてなのにノーミス、コースアウト無し。そして、360も一発クリア…。だから、キミ達と同じレベルから、この子にも教えていくぞ。いいね?」
それを聞いた時、生徒の1人が、
「へぇ? …なんか気に食わねえな」
と、反発を見せた。
「おいおい、メシュティ。そう言わないで、仲良くしてやってくれ」
少し怒り気味で、キダンドゥが注意する。
「先生、アタシとベムーナで勝負していいか? コテンパンにしてやりてぇ! 調子に乗った新人が一番ムカつくんだよ!」
怒りまかせに、先生の言う事なんて聞かない。そんなスタイルのメシュティ。
「やめなさい! そんな事は…」
『させない』とキダンドゥが言おうとした時、思いもよらない事に、ベムーナが、
「いいよ、やるよ」
と、拳を握りながら、バトルを受け入れた。
まさかの応答に、キダンドゥは、
「…ったく。2人とも世話が焼けそうだ…」
と呆れてから、
「分かった。それなら、“Crazy Jump”で勝負しなさい。コースの下見は6周、本番は3周勝負。速いタイムを出した方が勝ち、のタイムアタック。それでいいかな?」
「いいぜ。そこなら得意だ!」
とメシュティ。
「分かりました、やって見せます!」
とベムーナ。
コズミック塾に入った初日に、バトルに巻き込まれたベムーナ。結果は、どうなるのか……ーーー