一度目の転移2
「地球にはな、魔力というものが無いであろう。ワシの世界には、魔力がある。魔力の量の質は魂の輝きで決まるのじゃ。魔力の量が多ければ、当然大きな魔法が使えるし、質が良ければ、精霊に好かれる。ワシは両方を兼ね備えている魂を探しているのじゃ。」
「爺さんの世界が危機だからね、時系列が同じ神々に訴えかけてきたのよ。輝く魂の持つものは居ないかって…地球も、爺さんの世界と同じ時系列なの。」
あまりに壮大な話にポカンとする。
魔力?魂?
なんてファンタジーな世界なんだろう…
「爺さんと呼ぶでない。お主も若作りしてるがババァだろうが。」
ムッと睨む異世界の神、ドゥーチェに地球の神アースデイも睨み返す。
「あら?あなた、今私にそんな事言えるのかしらぁ…?」
脅すような口調で微笑む女神に、ドゥーチェはうぐっと言葉を詰まらせた。
「す、すまん…それで、じゃ。ワシの世界の危機での…。ワシの世界に居る者達では救えんのじゃ。輝く魂の者がおらぬ。」
しょぼんと肩を落とすお爺さんは、本当に落ち込んでいるのが伝わってきて、少しだけ同情心が湧く。
「このお爺さんの世界のね、危機なのよ。このままだとお爺さんの世界は、大氷河期に入って生物が全て死滅してしまうの…。
大精樹という爺さんの世界の要となる大木が数年以内に凍るわ。もし凍ったら、世界は氷漬け。まぁ地球には関係ないんだけど、さすがに可哀想でね。」
大精樹…凍る…世界が氷漬け…
話について行くのがいっぱいいっぱいになりながらも思考を巡らせる。
この展開はアレですよね?
まさか私が輝く魂を持っているとかそんな話なんじゃ…
「なんと、地球に1名だけ輝く魂を持つものがおった。それがリン、お主じゃ」
やっぱりー!!!!!
「リンちゃん、ごめんね。神は地上に降りれないし、魔法も使えないの。創造することや魂の輪廻なんかはできるけど、世界の理まではいじれないのよ…出来るのは軽い手助けぐらいよ。だから、このままだと爺さんの世界の生命が、全て消えるの」
女神様は申し訳なさそうな顔で、私を見てくる。
そんな壮大な話を突然されてもどうしたらいいのか分からず目を泳がせてしまう。
正直半端じゃなく重い。
「リン、ワシの世界でな、今聖女の召喚の儀が行われようとしているんじゃ。さすがに世界の危機は察しているようでの。その召喚の儀で貴族令嬢が依代となり、お主の魂を呼ぼうとしてるんじゃ…。」
ドゥーチェの言葉にさらに驚く。
待って待って、誰かの体に私の魂を入れるってこと?
「待ってください、私の体はどうなるんですか…?」
「お主の体はこの空間に置き、ワシが成長と安全を保証する。魂のみなので、肉体が滅びてもリンが死ぬことは無い。」
「依代の、その子は…どうなるんですか?」
「リンの魂が入ってる間は、依代のおなごの意識がなくなる。大精樹の氷を止め、リンの魂が無事にこちらに戻れば依代のおなごもまた元通り目が覚めるはずじゃ。」
ようするに、私がその子の体を借りている間だけ、その体が私になる訳だ。
ふと疑問がわき、口にする。
「このままの体では、無理ですか?」
「無理じゃ、その体は魔力に対応してない。馴染ませることも可能じゃが、時間がかかる…。それに、その場合あちらで死んだ場合、地球に帰れることもない。」
それは、正直恐ろしい。どんな世界かもまだ分かっていない。治安も物凄く悪い可能性だってある。
そもそも分からないことが多すぎる。
リンにとってその世界に行くこと自体がリスクしかないのだ。メリットがひとつもない。
そもそも地球では行方不明扱いだろう。
残念ながら、悲しんでくれるような人も思い浮かばないが…。
断ろうと口を開いたその時、地球の女神アースデイがパチンっと大きく手を叩いた。
「説明はそこまで!爺さん、時間よ!召喚の儀が始まったわ!!」
「え?いやいやいや!!!ちょっと待ってください!!」
いつの間にかもう行くような空気になっている。
慌てて制止するも2人の神はニッコリ微笑んできた。
「ワシはいつでも見守っている。迷惑をかけるが頼むぞ。世界の説明は召喚した奴らがしてくれるであろう」
そう言ってグッと親指を立ててくるドゥーチェ。
私の体は突然ボウッと光りだした。
「まって、私まだ行くって言ってな…ぁぁぁぁああ」
叫びながら私は強制的に意識を手放すことになった。
これが、私が1度目無理矢理に転移させられた経緯である。
2年後、無事に聖女として大精樹の氷を溶かし、約束通り無事に体に帰った。
そして今、2度目の転移を自らしようとしているのだ。