一度目の転移
2年前ーーー
私、秋元凜は普通の高校生だった。
16歳と周りが多感な時期でもあり、人間関係に悩む事もしばしばあった。
父と母は、私が5歳の時に交通事故で亡くなった。
引き取ってくれた叔父夫婦には、あまり気に入られていなかった。
同い年の娘が私の事を嫌っていたからだと思う。
娘が遊びに行く中、小学校の頃から家事はほとんどやらされた。家族でどこかに出かけるのも置いていかれた。
かといって怒鳴られた事も、殴られた事も無いし、食事も与えてもらって、娘のお下がりの服も貰っていた。
恨みなんてものはなくて、あるのは感謝だ。
どちらかというと学校の方が辛かった。
サラッとした黒髪に大きな瞳。一見クールそうに見えるのに、笑うと可愛い笑顔。
人よりかなり容姿がいい事に全く自覚のないリンだったが、実は影で男の子にとても人気があった。
それが、気に食わない子も居たのだろう。
「親が居ないくせに、生意気」
「親いないから生きるのに必死なんでしょ、だから男子に媚びてるんだよ」
「いずれは玉の輿でも夢見てるのかもね」
聞こえるようにイヤミを言われたことは何度もある。
小学校から、男子と話すとろくなことがなかった。
○○ちゃんの好きな男子を誘惑した、男好き、男の先生に贔屓されてる、などと噂され、自然と男性と話すのが苦手になった。
仲良しと思っていた女の子も、次の日には悪口をいう。
中学生になった頃には、もううんざりしていたので、仲良くなる女の子も上辺だけで当たり障りない会話しかしないようにした。
常に明るく笑顔でいると疎まれはしない。
そして、男子は徹底的に避けた。
私は、一生恋愛なんてもの、しないだろうな…
16歳にして、凛は見事に枯れていた。
そんなある日、突然運命がガラリと変わる事が起きた。
それはいつもの帰り道、空き地にふと1本の大木が目に入る。
こんなところにこんな大きな木、生えてたっけーー
何気なく近付いて行くと木が突然カッと光り、思わず眩しさに目を閉じた。
そして、目を開けてみるとそこは真っ白な空間だった。
そこに居たのが、地球の神と異世界の神だったのだ。
「突然呼んでごめんなさいね。私は地球の神、アースデイ。よろしくね。」
美人なお姉さんからの突然の言葉に何の目を瞬かせる。
夢?夢なの?
自分のほっぺをつねってみる。
うん、痛い。
キョロキョロ周りを見回しても、テーブルと椅子以外には真っ白な空間が続いているだけだ。
「ホッホッホ、夢じゃないわい。突然呼んで悪かったの…。ワシはドゥーチェ。お主の世界で言う、異世界の神じゃ。」
「異世界の…神…」
リンは呆然と2人を見つめる。
「なかなか信じられないかもしれんがの。すぐに信じる事なるであろう。地球の神に協力してもらったのは、ワシの世界の事じゃ。お主に助けて欲しいことがある。」
長い髭を撫でながら神様は目を細めた。
「な、なんでしょう…?」
まだ夢だろうと疑っているものの、とりあえず用件は聞く。
そもそも私に出来ることなんて限られてると思うんだけど…。