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おまけ①【徒(あだ)花(ばな)】


 おまけ①【徒花】



















 雨の日には 雨の中を

 風の日には 風の中を

         相田みつを













 叉門はその日、ネズミ小僧として、黒い噂のあった金貸し屋から金を盗みだしていた。

 盗みは上手くいって、叉門はそれをバラまきながら家路をたどっていた、その矢先のことだった。

 「お前を斬る」

 「え?なんで?」

 突如として現れた辻番に、叉門は首を傾げる。

 「お前は盗人だからだ」

 「盗人だけど、良い盗人だよ。見てわかるでしょ!ネズミ小僧だよ!小僧っていうほど若いわけじゃないけど・・・。悪い奴らの金を貧しい人達に分けてるだけだから!!」

 「盗人は盗人だ。良い盗人でも悪い盗人でも俺は斬るぞ」

 「酷いよ!俺なんかよりももっと酷いことしてる人達は沢山いるのに、なんでよりによって俺なわけ!?もっと分かるように説明してくれない!?」

 「だから、盗人自体が良くないことで」

 「良くないかもしれないけどさあ!!でもさあ!!今日生き抜けるかも分からない人達が沢山いるのに、あいつら全然金分けないんだよ!?おかしいと思わない!?自分達だけ金儲けしてさあ!酒だか賭博だか知らないけど、そういうものにばっかり金使ってさあ!理不尽だよ!」

 「・・・言いたい事はそれだけか」

 そう言って男が刀を抜こうとしたため、叉門は両手をブンブンと大きく左右に振って、待って待ってと叫ぶ。

 すると、叉門はお面に手をやり、そのお面を取ってしまったのだ。

 この行動には、男も驚いたようだ。

 「おい!お前名前はなんだ!斬るなら斬るで名乗れ!それが侍だろ!」

 「・・・・・・」

 「黙らないで!!!なんか怖いから黙らないで!不安になるから!わかった。俺当てるよ。お前の名前当てるから。当たったら俺を見逃すこと」

 「なんだそれ」

 「そうだなー」

 「名前を聞く前に話を聞け」

 叉門は、自分が思い付く限りの名前をずらずら並べてみる。

 太郎、次郎、三郎・・・とまあこういう簡単な名前から、ぽち、くろ、たま、などの犬や猫につけるのでは、と思われる様な名前まで。

 それでも男は一向に首を縦に振らないため、叉門は焦りながらなんとか名前を捻りだす。

 「みたらし!あんこ!ごま!サケ!米!えーっと、えーっと、足軽!下駄!」

 ついには人間離れした名前を言いだしたものだから、男はため息を吐いてから言う。

 「柯暮乃一文字だ」

 「かくれんぼ?」

 「柯暮乃だ。柯暮乃、一文字」

 「かくれんぼ、いちじるしい」

 「柯暮乃一文字」

 「さくらんぼ高級品」

 「柯暮・・・わざとだろ。斬る」

 「ぎゃあああああああ!!!ゴメンナサイゴメンナサイ!!柯暮乃!一文字!・・・一文字か・・・かっこいい!なんかかっこいい!!一文字って呼んでいいか!?」

 「慣れ慣れしい」

 「いいじゃん。友達だろ!」

 「辻番と罪人だ」

 「辻番ってなに?さっきから思ってたんだけど、それなに?何の番なの?何番目?」

 「・・・・・・」

 「え?無視?」

 説明するのが面倒だと思った男、柯暮乃は、もうこの男には関わるまいと、刀に伸ばしていた手を袖の中に戻した。

 そのままくるりと踵を返して何処かへ歩いて行こうとしたとき、後ろから名前を呼ばれた。

 「一文字―――!!!俺は南丹樫叉門!よろしくーーー!!!」

 「・・・罪人の癖に名乗る奴があるか」

 それからも、ネズミ小僧があちこちで現れたという瓦版が幾度も出たのだが、柯暮乃はもう2度と相手にはしまいと誓った。




 一方、一文字という辻番と友達になったと茂吉に報告をした叉門だったが、ネズミの格好のときに名乗るな、と叱られてしまったそうだ。

 奇怪な友達との再会は、またしばらく後の話である。


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