第六話 復讐
なんで、どうして――。
家に戻った俺は、食事も食べずに呆然とベッドに横になっていた。
なんで、アイツらとサツキが一緒に居るんだ?
サツキは塾へ行ってたんじゃ無かったのか?
――有り得ない。見間違えかもしれない。
だって、サツキみたいな優しい子が、あんなヤツらとつるむだろうか?
いや、ない。
やはり見間違えか、もしくは――
――なにか、脅されているのかもしれない。
「……キジマ」
ギリッと奥歯を噛んだ。
俺だけでは飽き足らず、サツキにまで何かしようとしているのか?
そんなの、許せるはずがない。
プルルルルル、と家電が鳴ってるのが聞こえた。
俺は一階へ降り、それをとる。
『あー、お兄ちゃん?』
その向こうの声は、サツキだった。
俺は息を飲んだ。
さっきの声の奥からは、何やら騒がしい声が聞こえていた。
『今日、塾の友達ん家に泊まるから』
「……サツキ、本当に塾の友達なんだろうな?」
『は? なに、それどういう意味?』
「そのまんまの意味だ。本当に、塾の友達なんだな? ……お前、本当に塾に通って――」
『なにそれ、ウザイんだけど。いちいちどうでもいいこと追求しないでよ』
「俺はお前の為を思って――」
ブツリ、と電話が切れた。
嫌な予感が、募りに募った。
◇◇
「ふぅーっ、お風呂最高なのですっ!!」
――と、俺の部屋にナタリーが入ってきた。
もう人間化は解いてあり、いつものエルフの格好だった。
風呂上がりで少し濡れた身体で、ナタリーは床に敷いた布団に滑り込んだ。
ナタリーが風呂を体験してみたいと言ったので、沸かして入れてやったのだ。
俺はナタリーの無垢な様子を見て、少し気分が落ち着いた。
「おい、ちゃんと体拭けよ」
「大丈夫なのです! この程度なら……」
ナタリーが何かを唱えた瞬間、彼女の体の水滴が一気に乾いて行った。
ふふん、と自慢げにこっちを見てくるナタリー。
あんまりその顔が可愛かったので、俺はちょっと顔を赤くして目を逸らした。
ナタリーは気にせず、ふんふんとまた本棚から本を取り出す。
「ナタリー、もう遅いし、それは明日にしてくれ」
俺はグルグルと頭を回っている思考を塞き止めるために、電気を消した。
ナタリーの残念そうなえー、と言う声が聞こえたと思ったら、すぐしばらくもたたないうちに寝息が聞こえてきた。
俺は――、目を閉じて、悶々と今日見たものについて考えていた。
……いや、考えても仕方が無いだろ。
明日、キジマ達に直接確認するしかない。
◇◇
「妹の事で話がある」
翌日の放課後すぐ、俺は呼び出される前に、キジマの前に立ってそう言った。
キジマは眉をひそめた。
「はぁ? んだお前、誰が俺に話しかけていいっつった?」
「話があると言っているだろ。黙って校舎裏に来いよ」
「てめぇっ、キジマさんにッ!!」
取り巻きの一人が、俺の首を掴んできた。
その手首を掴んで、拗じる。
取り巻きは体制を崩し、腕を抑えながら膝を着いた。
「……やめろ、てめっ、おい、 痛てぇ、痛てぇっ!! やめろ、クソっ」
「おいおい、そんなモヤシ相手に何やってんだよ」
キジマが、取り巻きを呆れた目で見た。
「でもまァー、そこまで言うなら話してやらねぇとなぁ。サツキの事について、な」
コイツ、名前を――。
キジマはニヤリ、と下卑た笑みを浮かべ、校舎裏へ向かった。
キジマの取り巻きが俺を取り囲み、俺の肩を押して、歩けと命じた。
俺はギリ、と歯を噛んでその後を着いて行った。
◇◇
不良共は、いつもの所に集まっていた。
俺はいつもの位置に立たされる。
いつも、『もう飽きた』とでも言わんばかりに俺が殴られるのを見向きもしなかった奴らが、ニヤニヤしながら俺に注目している。
キジマがタバコを深く吸って、顔に不快を感じさせる笑みを浮かべた。
「それでェ、サツキの事だっけか〜」
「そうだ。お前 、サツキとどんな関係なんだ?」
そう俺が言うと、不良共は皆、笑いを押し殺すように震えた。
――何がそんなにおかしい?
質問を受けたキジマも、ニヤニヤと笑いを抑えきれないらしかった。
「どういうって、そりゃぁー。サツキ!! 出てこいっ!」
キジマがそう叫ぶと、不良達の中から、――サツキが歩いてきた。
「さ、サツキ……っ?」
「――気安く話しかけないでよ、ゴミ」
不良達が大爆笑する。
サツキはキジマの元に駆け寄っていった。
「つまりは、こーいう関係だよ」
――そして、キジマは、サツキを抱き寄せてその口を重ねた。
サツキはとろんとした顔をして、そのキスを受け入れている。
――――頭が真っ白になった。
思考が追いつかず、混乱が頭を支配していた。
「……は、な、なんで」
俺の表情を見て、キジマは満足気に笑う。
「サツキもひでーやつだよなぁ。お兄ちゃんが殴られてるのを、ずっと影から笑ってたんだから」
キジマはサツキをグリグリと撫で回した。サツキは冷たい目を、俺に向けた。
「いや、あんなの殴られるくらいしか存在価値無いから、むしろ殴ってくれて感謝みたいな?」
「ハハハハッ、マジでそれだな! あんなの兄に持ってお前も可哀想だなぁ」
キジマは大笑いをし、サツキを抱き寄せる。
やめろ――。
「なんで、なんでだよ。どうして……サツキ、どうしてなんだ……」
「は? 別に理由なんて無いけど? ケンジがアンタのこと気に食わないって言うからぁ〜」
「ギャハハハハハ!! 良く言うぜサツキもよぉ〜。コイツ、実はずーっとソコに居たんだぜ? それで、お前がボコられるのを見て、俺たちと一緒に笑ってたって事だ」
キジマがサツキの頬を撫でながら言った。
「あー、クドウ……シンヤ、だっけェ?
要は、サツキの兄がお前みたいなネクラだってのが、気に入らねぇんだよ。俺の女が、てめぇと一緒に住んでるってだけで吐き気がすんだ」
――そんな、理由でか。
思い出が、蘇ってくる。
お兄ちゃん子だったサツキ。
いつも、俺の後ろに回って隠れていたサツキ。
「あー、やべー、今すげースッキリしたわぁ〜。おいサツキ、ここで脱げよ」
「え〜マジ? アイツの前でヤんの?」
「滅多にないぜこんなシチュ。いいから脱げって言ってんだろォ〜?」
サツキは、躊躇わずにスカートを脱ぎ始める。
――やめろよ、やめてくれ。もう。
ずっと、たった一人の家族だと思っていた。
母も、父も、どちらもどうしようも無い奴らだった。
だから俺は、同じ境遇だからこそ、サツキはたった一人分かり合える相手だと――そう思っていたのに。
「さぁーて、お前は俺たちと楽しもうぜ」
ほかの不良が、俺を取り囲んだ。
またリンチが始まるらしい。
俺が抵抗すれば、力加減を間違えて殺してしまうかもしれない。
――知ったことか。
こんなヤツら、生きてる価値なんて無い。
――ベキン
「ギャァァァァァァァァッ!!!!」
不良の一人が、倒れた。腕を抑えて、唸っている。
ちょっと腕を逆に曲げてやっただけだ。まだまだ、こんなのじゃ借りは返しきれない。
「てめぇっ!!」
さらに殴りかかってきた男の顔に、拳を叩き込む。
男は吹っ飛んで、壁に衝突して跳ね返って転がった。
ピクリとも動かない。どうでもいい。
唖然としていた男の腕を掴み、バキバキと骨ごと握りつぶす。
手が男の血で濡れてしまった。
「な、なんでこいつッ!! やべぇッ!」
逃げようとした男を、背中から蹴り飛ばす。
男は空中に吹っ飛んで、地面に顔から落ちた。
「待てお前らっ!! 俺がやるッ!!」
不良の一人が、ナイフを取り出して襲いかかってきた。
――ガキンッ。
ナイフの刃を掴んで、へし折った。
そして男を俺は、上からたたきつぶした。
男は地面に衝突して、そこまま動かなくなった。
「俺が、お前らに何したってんだよ」
足元の男を、キジマの方へ蹴っ飛ばした。キジマは、ズボンをずり下ろしたまま、呆然としていた。
サツキも、口をぽかんと開けて俺を見ている。
「――サツキ。俺はお前を、たった一人まともな家族だと、そう思っていた」
「何やってんだお前らッ!! そいつをぶっ殺せッ!!」
不良達がナイフやらを取り出して、襲いかかってくる。
俺は、サツキから目を逸らさずに言った。
「でも違った。お前も、あの両親と同じだ」
◇◇
「ひっ……ひっ……」
路地裏には、もう立っているものは俺以外にいなかった。
キジマとサツキは腰を抜かして座り込んでいるし、その他の奴らは全員立てるような状態じゃなかった。
俺は、キジマに歩み寄る。
「ひっ……わ、悪かった! ほんの、ほんの出来心だったんだ! タダの遊び――」
ドゴッ――と、鈍い音が響いた。
俺の蹴りが、キジマの股間にくい込んでいた。
「〜〜〜〜ッッッ」
キジマが股間を抑えて倒れ込む。
多分、もう二度とキジマの生殖器は役に立たない筈だ。
俺は悶えているキジマの腹を蹴った。
吹っ飛んで壁に衝突するキジマ。
俺はキジマを壁に押さえつけて、
殴った。
殴った。
今までの分全てやり返した。
「や、辞めてっ!! やめて、お、お兄ちゃんっ!!」
サツキが叫ぶが、もう俺の耳には入らなかった。
キジマはその内、
涙を流し始めた。
糞尿を垂れ流し始めた。
それを見て、馬鹿にする気にもならなかった。
俺はキジマを放り投げ、地面に投げてあったカバンを拾って、路地裏を出た。
「お兄ちゃんっっっ!!!」
「――うるせぇよ」
そう一言言うと、静まり返った。
それでいい。
もう何も言わないでくれ。
……結局、俺には最初から味方なんていなかった。
さあ、早く帰らないと、ナタリーが心配する。
今日も悪魔退治に出かけるのだから、しっかりと準備をしなければ。




