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第五話 夜行

 夜――。

 シンと静まり返った住宅街に、俺とナタリーは出た。


「……人と出くわさないように、注意しないとな」

「何でなのです?」

「ナタリーが目立つからだよ。その耳とか、羽とか」


 ナタリーはキョトンとしたあと、ぽん、と腕を鳴らした。


「それなら問題ないのです」


 そう言うと、ナタリーは何かを唱えた――ように見えた。

 その途端、ナタリーの体は光に包まれ、収まる頃には――。

 耳が普通の人間の様になり、羽も見えなくなっていた。

 服装も、今時の可愛らしい女の子の服になっている。


 どこからどう見ても、人間の美少女だった。

 オシャレな服は、どうにもあのファッションコーナーに乗ってたモノのような気がする。


「エルフは人間に擬態する術を、五歳で教えられるのです!」


 えっへん、とナタリーは慎ましい胸を張った。

 か、かわいい……。

 ナタリーは元から、この世界には無い異様な美しさを持っている。

 それに対し、全く真逆のこの世界の女の子した服を着た姿は、どこか危険な、危うい美しさを放っていた。


 ……エルフには見えないけど、なんだかさらに目立っている気がする……。

 俺はちょっとドギマギしながら、呆れたような顔をした。


「できるんなら最初から言ってくれよ……。無駄に気を張っちゃったじゃないか」


 しかし、これならまあ、二人で並んで歩いていてもカップルかなにかにしか見えないはずだ。

 ……いや、完全に俺が釣り合ってないから、カップルにも見えないかもしれない。

 なんだか虚しくなってきた。


「……で、とりあえず歩き回って、ナタリーが悪魔の反応を感じたらそこへ行くって感じでいいんだな?」

「それが一番、魔王への手掛かりになる筈なのです!」

「地道だな……まあしょうがないか」


 俺達は調査を始めた。

 夜風がすこし、寒い夜だった。



 ◇◇



 夜はどんどんふけてゆく。

 俺達は近所の地域を散々散歩したあと、隣町まで足を伸ばしていた。


 人は全く居ない。車も走っていない。

 この時間帯の住宅街は、不気味な程に静かだった。

 俺とナタリーは、そんな夜道を並んで歩いていた。


「……中々居ないな」

「うーん、うーん、すぐ見つかると思ったのに……おかしいのです」


 ナタリーは、銀の髪を弄びながら、きょろきょろと周りを見回していた。

 ……目視で探してるわけじゃないよな?


 この子、本当に悪魔を探知出来るのだろうか。


 少し心配になってきた、その時――。


 ナタリーが立ち止まった。


「居たのです」


 緊張した顔で、俺を見つめてきた。


「様子的に、獲物を追ってる最中みたいなのです。誰か襲われているかも……」


 ナタリーは俺の様子をじっと伺う。

 行くか、行かないかの最後の決断を迫っているらしい。

 ――何を今更。


「行こう。案内してくれ」

「……は、はいなのですっ! 勇者様っ!」


 ナタリーは、気を引き締めたような顔で頷いた。



 ◇◇



「はぁ、はぁ、はぁ――――」



 一人の少女が、人気の無い街を走っていた。

 街灯から街灯へ――まるで、何かから必死に逃げているようだ。


 制服姿の少女は、度々後ろを振り返った。


 そこにあるのは、月を背景に羽を広げて飛んでくる、巨体のバケモノ。

 鱗のようなものがついた真っ黒い体に、真っ白い剥き出しになった牙。

 身体よりも大きな腕に、凶悪な鉤爪。


 大きなコウモリのような翼は、月を覆い隠してしまいそうだった。


(なによ……何よアレっ!!!!)


 泣きそうになりながら、少女は走る。


 捕まったら殺される――。

 それは明らかだった。


 ガッ――と、少女の踵が地面に引っかかった。

 少女は前倒しに転んで、コンクリートの上を転がる。

 全身にかすり傷ができるのすら気にせず、少女は振り向いた。


 そこには、怪物が居て――その鉤爪を、少女に振り下ろそうとする瞬間だった。



 ――終わった。



 少女はギュッと目を瞑る。

 まだ結婚もしていないのに、こんな怪物に殺される自分の運命を恨んで……。



 ――しかし、少女はまだ、生きていた。



(……?)



 薄らと目を開く。

 そこには、怪物と――


 長い綺麗な剣を持った、少年が居た。



 しゃららん、と綺麗な音が鳴る。

 少年の剣が、怪物の爪を跳ね返したのだ。怪物は吠えながら、少年へ襲いかかる。



 ――そのあとは、もう少女には認識できなかった。



 まるで、手練の職人が魚を捌く様に、怪物は解体されて行った。

 少年の剣筋は、まるで見えなかった。


 怪物は、霧になって消えてゆく。

 少女は、呆然として少年を見上げた。


 少年は、少女をちらりと見るだけで、すぐに高く高く飛んでどこかへ行ってしまった。



「……なに、今の?」


 少女は、呆然と暫くその場に座り込んでいた。


 その日、この世界からまた一体、悪魔が消えた。



 ◇◇



「ふぅっ……」

「素晴らしいです勇者様!」


 俺は、民家の屋根に登って、滲み出る汗を拭った。


 そして、先程戦った地点を見下ろした。

 そこにはまだ、顔は見えないが少女が座り込んでおり、混乱したように辺りをキョロキョロ見回していた。


 ふう、と息を吐く。

 出会った時は流れで倒してしまったので、ちゃんと戦ったという意味ではこれが初戦だった。


 しかし、苦戦すること無く倒すことが出来た。

 緊張はしたが、戦いになると、どうすればいいのか体が知っているみたいだった。


「大丈夫かな……顔見られてないよな」


 それよりも、心配なのは襲われていた少女だ。

 とにかく間に合ってよかったが、顔を見られたかもしれない。

 ――一瞬しか見えなかったが、彼女の服装は近所の……俺の所とは別の高校のものだった気がする。

 だから多分大丈夫なのだが、やはり少し不安だった。


「え? 見られたらなにか不味いのですか?」

「そりゃ、不味いよ。……なるべく人には見られたくないだろ。にしても、本当に悪魔を探知できるんだな、ナタリー」

「えへへ、凄いですか? でも勇者様の方がもっとすごいのです!」


 ナタリーは照れて頬を赤く染めていた。

 俺はふっと頬を緩めた。やっぱり、ちょっと怖かったみたいで、ナタリーのおかげで緊張が解れた。


「……もう帰ろうか。とりあえず一匹倒せたんだし」

「そうですね。私もお腹が空いたのです」

「そうだね、サツキも帰ってくるだろうし、飯作らないと。じゃあ行こうか」


 聖剣を布でくるんでから、俺達は屋根から降りて、夜の道を家へと歩き出した。





「――あ、アレっ、妹さんが居るのです!」


 道の途中、少し人手の多いところに出た時、ナタリーが人混みを指さした。

 塾の帰りだろう、と思いながら、俺はその先を視線で追う。



 ――そこには、妹のサツキと、



 ――キジマと、その取り巻き達。

 俺を虐めている不良達が、一緒に歩いていた。



「…………はっ?」


 サツキは、馬鹿みたいに笑いながら男達と歩いている。

 その中にいたキジマが、サツキに近づいて、腰に手を回した。



 グループは、夜の人混みの中に消えていった。

 俺はそれを、呆然と見送った。


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