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第四十二話 対峙

「……着いたね」


 カオルが、ポツリと言った。

 俺は頷いて返した。


 夕日が街と森を照らしている。俺たちの目の前にたっている大きな屋敷も、オレンジ色の光を受けて輝いていた。


「行こう」


 俺は迷わずに敷地に入り、ドアノブを回した。鍵は掛かっていないらしい。

 そのまま開いて、中を見た。


 ――中には、まるでさっきまで誰かが居たような、妙な生活感のある玄関が広がっていた。


「空き家……だったんだよね?」

「ああ、でも、もしかしたら親戚の誰かが住んでたかもしれないな」


 そんな親戚居るかどうかも知らないが、ともかくそう感じるほどに家の中の空気に人の残り香が混じっていた。


 俺達は手分けして中へと入り、聖剣を探すことにした。




 中を捜索し始めて、俺達の疑問が段々と深くなって行った。

 ――誰かが、ここで生活している。それは間違いない。


「勇者様〜、こんなのあったのです!」


 ナタリーが持ってきたのは、タバコのたくさん乗った灰皿だった。

 こんなにタバコを吸うのなら、男性だろうか? もしくは夫婦住みなんて事もありうる。


 さすがに避難してこの家にはもう住んでいないだろう……と思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。

 台所には今日用の夕食らしいものがラップされて置いてあった。


「……しかし、肝心の聖剣は見当たらないっと――」


 俺はため息をついて、伸びをした。

 俺が居た居間に、ナタリーとカオルが入ってきた。

 二人もちょうど捜査を粗方終えた所らしい。


 二人を見ると、ふるふると首を振った。

 ――もしここに無いのならお手上げなのだ、うーむ、困った。


「とりあえず、ここに住んでる人に聞くしかないな」

「そうだね。でも、なんか気味悪い。避難所にも行かないで、こんな所で暮らしてるなんて」

「もしかしたら、ただの頑固なおじいちゃんかもしれないだろ?」


 ナタリーがなにか言おうとしたその時――、ガチャり、と扉な開けられる音がした。


 全員が静まりかえる。

 誰かが玄関を上がり、トントンと廊下を渡ってきた。

 俺は二人を部屋に入れ、聖剣を構える。


 ――恐らく、真っ先にこの部屋。――居間に向かってきている。


 体が、どんどんと重くなってゆく。聖剣も重くなる。

 こんな時に――。


 おびただしい気配。

 何かが、来る。俺にとって、何か――良くないものが。


 ガチャり、と居間の扉が開けられた。



 ――そこに立っていたのは、中年の、ごくごく普通の男性だった。


「へっ?」


 カオルが、思わず驚きの声を漏らした。もっとおどろおどろしいのが来るのを想像していたのかもしれない。


 ――しかし、俺はその男に、おどろおどろしさよりももっと、嫌な、自分でも気味の悪くなる感情を抱いた。

 それに、コイツ、どこかで――。


「ゆ、……勇者、様?」

「どうし――」


 ――とまで言って、気づいた。

 ナタリーは、俺の事を読んだ訳では無い。

 気づいたのだ。この、中年男性から溢れる、俺と同じ力に。

 そして、この男が右腕に持った、黄金の剣に。


 男は、ニッコリと笑って俺を見た。


「……大きくなったな、シンヤ」


 ――その、声を聞いて、



 俺は、



 思い出した。




「……とう、……さ、ん?」



 ◇◇



「覚えててくれたのか? いやぁ、父さん嬉しいぞ?」


 中年男性は、ソファーに腰かける。

 その様子を、カオルとナタリーが呆然とみまもっていたが、カオルが口を開いた。


「……え、父さんって、シンヤの? あの、出ていった――」


 そこまで言って、カオルは失言したと口を覆ったが、中年男性は優しげな笑で返した。


「そうですよ、魔法使いさん。オレはシンヤや、サツキや、母さんから逃げた最低な父親だ。シンヤ、お前もそう思っているだろう?」


 答えない。

 確信はなかった。俺は全く父のことを覚えていなかったからだ。

 物心着いた頃には居なかったのだから、当たり前だ。


 だが、――俺の中には、確信に似た、なにか歪な感情が渦巻いていた。


 ……しかし、それよりも今は、コイツがカオルの事を『魔法使い』と読んだことや、勇者の聖剣らしきものを持っている事が重要だ。


「その剣は聖剣だな?」


 ――数秒の思考の結果、俺はこの男のことを詮索するよりも、聖剣の回収が優先だと判断した。

 しかし、男性は小さく笑って、右腕に掴んだ聖剣を撫でた。


「ああ、そうだ。ここの家の地下倉庫でみつけたんだよ」

「単刀直入に言おう。そいつを渡して欲しい」


 頭痛がする。

 頭をハンマーでガンガン叩かれているような、そんな痛み。

 この男が話す度、息をする度、俺の中の決定的なナニカが吸い取られている気がする。


 ソイツは、ニヤニヤと笑った。

 酷くムカついた。今すぐ殺してやりたくなった。


「……別に渡してもいいんだけど、こっちの条件も飲んでくれるんだね?」

「条件による。早く答えろ」

「ちょ、ちょっとシンヤ……」


 イライラした口調で言った。

 ――こいつは、コイツが本当に父親なら、


 俺たち家族を、捨てた。


 母をあんな状態にした。


 俺やサツキに何もしてくれなかった。


 気づけばいなかった。


「なに、簡単な条件だ。シンヤ、オレと戦いなさい」


 ―その提案は、あまりにも予想外のものだった。



 ◇◇



 俺達は、夕日に染まる庭へと出て、向き合った。


「どういうつもりだ」

「ん? どういうつもりって?」


 男は、うんと背伸びをして、準備運動を呑気にし始めた。

 ――コイツ、俺が勇者だと知っている素振りだ。

 でなければ、戦おうなんて言ってくるはずがない。

 いや、知っていたとしても戦おうと言ってくるのはおかしい。勇者がどういうものか知っているのなら、戦いを挑むのが自殺行為だと分かるはずだろう。


「よしっ、いいぞシンヤ。どこからでもかかってこい」


 カオルとナタリーが、心配そうに俺を見た。

 俺は手を振って、『手を出すな』と合図した。

 コイツは一応俺の父――、の筈なのだから、俺がなんとかする責任がある。


「後悔んすんなよ」


 ――と、俺は軽く飛んだ。

 低空飛行で男に接近し、聖剣を引き、突きの構えをする。

 男は、退屈そうに俺の様子を見ていた。


 ガキィン!!――と、剣が衝突する。

 聖剣と聖剣が、稲妻を放ちながら爆発のような光を放った。


「きゃぁっ!!」


 衝撃波が、周囲の家の窓を割った。

 ナタリーとカオルは大丈夫だろうか――、と、俺は少し視線を二人へ――


「おい、お前死んだぞ?」








 ―――――――――――――――痛。




 視界が回る。


 世界が回る。


 俺は、さっきまで、クドウ本家の庭に居たはずなのに……、いつの間にか街の上空を飛んでいた。



 ――その街は、随分おかしな様子だった。

 下からじゃ見えなかった……、と言うより、クドウ本家が街の端っこにあったので、街の様子が見える所まで行かなかったから、気づかなかったのだ。


 街は、崩壊していた。

 ビルは倒れ、道路は抉れ、住宅街の家々は吹き飛んで転がっている。

 破壊された戦車や、墜落したヘリコプター、戦闘機、そして、大量の人間の死体が転がっていた。


「…………ぁ?」



 ――そんな、冷静に街の様子を見てる場合じゃない。

 動かなければ。

 ――空中じゃ身動きが取れない。

 なら身体を捻って回避。

 ――身体が動かない。

 ――脳の信号に身体が反応しない。


「どうだ、シンヤ。力を失う感覚は」



 ――バンッと、音がしたと思うと、俺はまた、地面に寝そべっていた。


 感覚が無くなっている。

 痛みも、何も感じない。

 身体が全く反応しない。


 でも、ちゃんと目は見えていた。

 首が動かないので、地面に顔を突っ込んだまま動かせない。


 死ぬぞ?

 ――動かなければ。


 ――動かない。どうやら、全身の骨が折れてしまっているらしい。


 考えてみれば、当たり前だ。

 あんな街の上空から蹴り落とされて、無事でいられるはずがない。

 今までが異常だったのだ。


 心臓の音が、妙に大きく聞こえた。

 そして、段々と弱まってゆく。


「瞬殺されるってのも初めてだろ?」


 ――その時、俺は誰かに持ち上げられた。

 確認するまでもなく、あの男だった。


 男は、俺の頭を掴む。

 その、掴まれた部分から、ナニカが吸われる。

 ――ナニカが、ナニカが無くなる。

 俺をつなぎとめていた何かが。


 お前は知らないだろうが、と男は言った。


「勇者の力ってのはな、どうやら血の濃い方に移動するらしいんだよ。つまり――、お前から俺に力が移動しちまうのは、当たり前ってワケ」


 ――勇者の力。

 ナタリーとあったあの日、俺に宿った力。

 何も無かった俺の、唯一の価値。


 それを――、それを、こんな奴に?


「何が……、は、ぁ、なに、が、目的、……だ?」


 血を吐きそうになるのを抑えて、やっと声を出した。

 腹の中を、極限まで熱した鉄の棒でかき混ぜられているみたいな痛みが渦巻いている。

 死ぬ。もう少しで、俺は死ぬ。

 こんな奴に殺される。


「目的、か」


 男は、俺を下ろした。

 血を吐く。

 全身がだるい。

 ――いや、今までが軽すぎたのか。

 聖剣が重すぎて持てない。

 俺は手放した。そして、地面に手をついた。


 男はそんな俺を見ながら、しゃべり続ける。


「別に、オレはお前を虐めにきたわけじゃないんだよ。虐められるのはもう飽きたろ?」


 男は笑う。

 無性に腹が立った。

 どうしてこいつは、訳知り顔で俺の事を見てくるのか。


「……お前に、なにが、分かる……、何もかも捨てて、どこかへ、消えたくせに……」

「分かるさ」


 男は、笑いを止めた。


「――オレもずっとそうだった。産まれてから、こんなくたびれた中年になるまで、ずっとな」


 ――一体こいつ、何を言って、


「産まれてから、小学、中学、高校、そして社会に出てもずっとだった。お前もそうだろ。

 なんでか、どこに行ってもお前は迫害された。理由なく攻撃された。違うか?」


 俺の中を、見透かしたような目。

 やめろ――、そんな目をする権利、お前には無い。

 確かに、それは事実だ。

 キジマが特別と言うわけではなかった。


 俺はずっと、一人で、ずっと、嫌われ、虐げられ、ついには生きる意味を失った。

 だが――、それがなんだと言うのだ。

 それがなんで、俺を攻撃する理由になる?


「シンヤ、俺はお前を待ってたんだ。――こっち側へ勧誘するために、な」



 ――そいつはそう言って、話を続けた。

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