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第四十一話 三人の旅路

 ガチャん、と、ガラスが割れる。


「開いたぞ」


 後ろから、カオルとナタリーが恐る恐るこっちを見た。

 俺は一足先に、そのままコンビニに侵入する。


 勿論店員は居ない。

 ――しかし、それ以外のものが居る可能性はある。

 その瞬間、店の奥でキラリと赤い目が光った。


 俺はすぐさま聖剣を投擲した。

 投げ出された聖剣は、赤い目の生物をそのまま貫く。


 怪物は呻き声を上げて、のたうち回った。

 ――あれ、頭を狙ったのに。

 近づいてみると、どうやら狙いが外れて胴体に刺さってしまったらしい。

 コントロール落ちたな、と思いながら、俺は剣を引き抜いて怪物の首を撥ねた。


「よし、今度こそいいぞ」

「うえっ、魔獣が住んでた所のご飯食べるの?」


 カオルが嫌そうに言った。しかし、しょうがない。

 そう何件も強盗まがいをする訳にもいかないだろ、とカオルに言うと、無理やり納得しようと頷いていた。


「何を持ってくのです?」


 ナタリーがひょい、と俺が見ている棚を覗き込んだ。

 とりあえず、保存のきく物だ。


「エネルギーゼリーとか、カロリーバーとかかな。あんまりかさばるものは持ってけないし」

「これとかどうなのです?」


 ナタリーが、嬉嬉としてスナック菓子を大量に抱えてきた。

 俺は呆れた感じで言った。


「太るぞ?」

「エルフには変装能力があるので!」


 そういう問題なのか? という疑問を押し殺して、仕方が無いから一つだけ許可することにした。


 カオルが、カップ麺やらを持てるだけ持ってきて、リュックに詰めている。

 そして、不安そうに周りを見回した。


「……監視カメラとか、動いてないよね?」

「ここら辺はまだ電気来てないだろうし、大丈夫だろ。それにもしバレても、緊急事態だったって言えばなんとかなるって」


 それもそうね、と納得して、カオルは鼻歌を歌いながら漁り始めた。

 慣れとは怖いものである。


 ――と、その時、外からキュラキュラと何かの音が聞こえてきた。


 しっ、と、三人で顔を見合わせて体勢を低くする。

 俺は静かにコンビニの窓から、外を見た。


 外の道路では丁度、戦車が大きな音を鳴らしながらコンビニを通り過ぎる所だった。

 それからさらに装甲車が何台か着いてゆく。


 兵士の懐中電灯が一瞬コンビニを照らしたが、すぐにどこかへ消えた。


「……まるで戦争だな」


 ――否、実際は軍による虐殺であった。

 いくら図体が大きく、凶悪な姿を持つ怪物といえども、結局は理性の無い生物。

 隊列を組んだ軍隊に、近代兵器を撃ち込まれれば、一瞬にして絶命してしまう。


「……行った?」

「行った。最近多いな、こっちの道へ行くヤツ」


 あの様な歩兵部隊だけではない。

 空には戦闘機や輸送機がウヨウヨし、その殆どが俺たちと同じ方向へ向かうのだった。


「もふぃかひたりゃわたふぃたつの」

「ナタリー、食ってから喋ってくれ」


 パンコーナーの菓子パンをモッキュモッキュと食べながら、ナタリーは真剣な顔をした。

 何言ってるか分からないんだけど。


 ゴックン、とナタリーは急いで飲み込んだ。

 ですから――、と、続け、


「私たちの行く方向に、この世界の軍隊でも手こずる相手がいるのかもしれないのです! 何も無いのに、こんなに戦力を投入するはずありませんし……」


 ナタリーの言い分は最もだ。


「厄介な魔獣でもいるのかなぁ?」

「そうかもしれないのです。……まあ、勇者様とカオル様の力があれば、早々手こずるような敵は居ないと思うのですが……」


 頼りにしてもらって、こちらも嬉しいが――、少し心配事がある。

 俺は、確かめるように手を握ったり、開いたりした。

 ――気のせいかもしれないが、どうにも最近、力が衰えた気がする。


 さっきの投擲だってそうだ。

 勇者に覚醒してから、俺が投げたものが狙い通りに飛ばなかった事は無かった。

 それが今では、細かいコントロールが効かなくなっている。


 ――何が原因なのかは、分からない。

 確かに、現時点ではなんの問題もない。魔獣も簡単に倒せるし、物だってよく狙って投げれば思い通りに飛んでゆく。


 しかし、やはりこのまま能力が落ちていくのは困る。


 俺は適当に棚にあったおにぎりにかぶりついた。

 急がなければならない。これ以上力がなくなる前に、もう一本の聖剣を見つけなければ。



 ◆◆



 迸る閃光。

 斬撃。

 爆音。


 ここは戦場と化した。もう、あの平和な街並みは見る影もない。

 投入される軍隊は、日々増えてゆく。


 ――相手は、魔獣ではない。悪魔でもない。


 ――たった一人の、人間だった。


 むしゃり、とコンビニの残骸から取ってきた、おにぎりにかぶりつく中年男性。

 どこまでも普通。少し幸薄そうなその顔は、遠くを巡回するヘリコプターを煩わしそうに見た。


 ――ダーーーーンッ!!


 と、中年男性に迫り来る金属の弾丸。

 スナイパーライフルだ。

 男性はため息をついて、横にかけてあった黄金の剣を掴み、弾丸を打ち返した。


 跳ね返された弾丸は、そのままヘリのエンジンを貫く。

 そして、フラフラと煙を出しながら、明後日の方向に飛んで行った。


「……おせぇなぁ、シンヤ」


 中年男性は、また大きくため息をついて街の少し外れにある屋敷を眺めた。


 表札には――、クドウ、と書いていた。



 ◇◇



 旅は、一週間ほど続いた。

 そもそもの距離が長いのと、魔獣に邪魔されるわ軍隊から隠れるわで、少し時間が掛かってしまったのだ。


 でも、――それが本当に、楽しかった。

 ナタリーと、カオルと過ごす時間は、今までもそうだったが、この旅の中では、格別に幸せだった。


 魔王討伐という肩の荷が降りたからだろうか。

 それとも、この度の終わりにナタリーとの別れが待っているからだろうか。


 ――誰もいない街から街へ、俺達は歩く。

 どこかノスタルジックで、美化された思い出の中を歩くような、そんな旅だった。


 しかし、旅には到着という終点が必ずある。

 俺達は目的地に近づくにつれ、無口になって行った。


 ――それでも、いかない訳にはいかないのだ。

 ナタリーの目的を果たすため。

 俺は、日々重たくなる身体をなんとか動かして、そして――辿り着いた。


『クドウ』


 ――かつて曾祖父さんが住んでいた家である。

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