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第三十九話 もう一つの使命

 ――子供たちが走り回る音で、目が覚めた。


 まず目に飛び込んできたのは、ナタリーの長い髪だった。

 まだ眠っているらしく、その瞳は閉じられている。


 何だかダルい身体を起こして、周りを見た。

 もう、ボチボチ起き上がっている人達がいる。子供は元気が有り余っているらしく、小学生くらいの子達が鬼ごっこをやっていた。


 体育館の入口の方を見ると、もう既に朝食が入っているらしいダンボールが運び込まれていた。


「う……ん、勇者……様?」

「あ、悪い。起こしちゃったか」


 ナタリーは目をぱちぱちさせながら起き上がって、キョロキョロと周りを見回し、ため息をついた。

「どうした?」――と聞くと、ナタリーはふるふると首を振る。


「……寝心地悪いよな、毛布だけだし、寒いし」


 一応、ストーブは点いているが、それでも寒い事に変わりはない。


「……勇者様、ひとつ、聞きたいことがあるのです」


 ナタリーは俯きながら、


「……勇者様は、このまま勇者で居たいですか?」


 ――それがどういう意味かは、よく分からなかった。

 しかし、……魔王を倒した今、確かにもう勇者の存在は必要ない。

 そういう意味ならば、


「俺はナタリーの指示に従う。やれって言うならやるし、やめろって言うならやめるよ」

「……そんな事っ」


 ナタリーは何かを言おうとして、ぱったり口を閉ざしてしまった。

 俺はそんなナタリーを不思議に思いながら、朝食の配給を取りに行く事にした。



 ◇◇



 ――指示に従う。

 そう、勇者の少年は言った。


 やっぱり、逃げられない、とナタリーは思った。

 自分は勇者に、『勇者の力を捨てろ』と言わなければならない。

 そして、『もう二度と会えない』とも――。


 嫌だった。

 ナタリーは、勇者の少年と、魔法使いの少女と、もっと一緒にいたかった。

 この二人の未来を見てみたかった。


 この、『もう一つの使命』さえなければ――っ!!


 しかし、捨てることは出来ない。

 この使命は、異世界にとっても、この世界にとっても最重要の物なのだ。


 だから、伝えなければならない。


 ナタリーは心を決めた。

 そして、シンヤとカオルを呼び立てた――。



 ◇◇



 夜――、小学校の最上階の廊下に、俺達三人はやって来ていた。

 人は誰もいない。

 ナタリーは、教室のひとつの中に俺とカオルを誘導した。


「どうしたの? こんな所に呼び出して」


 カオルが首を傾げた。

 ――しかし、俺はあまり不思議に思わなかった。

 ナタリーがなにか思い詰めていたのは気づいている。

 それが、俺たちに関する事だということも。

 ナタリーは、苦しそうに俯いた。口を開いたり、閉じたりする。


「言ってくれ、ナタリー」


 ナタリーはその言葉に、ようやく覚悟を決めたようだった。


「……勇者様、カオル様、私は――、あなた達に残酷な事をお願いしなければいけません」


 ナタリーの尋常ではない様子に、カオルも異様な空気を感じとったらしい。息を呑んで、次の言葉を待っている。


 ナタリーは、一度口をかんで、そして言った。


「勇者様、カオル様――。勇者の力と魔法使いの力を、捨ててください――っ」



 ――それは俺にとって、延長された第二のストーリーの集結を意味することだった。



 ◇◇



 ――少し昔、異世界に勇者が召喚された。

 勇者の名はクドウ マサトシ。

 勇者は、同じく召喚された魔法使い、カシワギ トモコと共に、異世界を支配していた魔王を討伐し、人間達に平穏をもたらした――。


 そこまでは知っている。問題は、ここからだった。


 魔王討伐後、勇者は元の世界へ返される事になっていた。

 勇者といえども、やはり別世界の者。あまりに長く異世界に居られてしまうと、本来相容れない二つの世界が、混ざってしまう危険性があった。


 混ざるとどうなるのか――、誰にも予測はつかなかった。


 勇者は当時、帰りたがらなかったらしい。

 しかし、そういう訳にも行かない異世界人達は、なんとか勇者の説得に成功した。


 ――しかし、勇者は一つ条件を出した。

 それが、『聖剣を持ち帰る』と言う物だった。


 勇者の力は、聖剣の存在によって保証される。

 たとえ異世界にいても、それは変わらないのだと聞いて、勇者はその条件を出したのだろう。

 要は――、勇者は現実に戻っても、その強大な力を持っていたかったのだ。


 異世界人達は渋ったが、結局は許可をしてしまった。

 聖剣自体は、本来神が一人の勇者に授けられる物であるから、その聖剣が無いせいで困ることは無かった。


 勇者と魔法使いは、そうして自分の世界に帰った。

 そして、全て解決――、にはならなかった。




 勇者の持ち帰った聖剣。

 ソレは、莫大な『異世界に存在する力』を秘めている。

 勇者がそれを、元の世界に持ち込んだせいで、世界と世界を隔てる強力な壁に、穴が開いてしまったのだ。


 直ぐに影響はなかったし、誰も気づかなかった。

 しかし、異世界人は後に気づいてしまった。――二つの世界が、混ざり始めていることに。


 例えば、こちらの世界の飛行機が、異世界に行ってしまうことがあった。


 例えば、あちらの世界の怪物が、こっちの世界に来てしまうことがあった。


 例えば、こちらの世界の物理現象があちらの世界にも適応されてしまうことがあった。


 例えば、あちらの世界の特殊現象が、こちらの世界で起こってしまう事があった。



 ――以前は莫大な準備と時間をかけて行った異世界移動が、恐ろしく簡単なものになってしまった。



 それもこれも、原因は全て『勇者が持ち込んだ聖剣』だ。

 だから、それさえ異世界に持って帰れば、世界の穴は塞がれる。



 ――要は、ナタリーの任務は初めからそれだった。



『聖剣を回収し、異世界へ帰投せよ』



 元々の任務はそれだった。

 しかし、ある日突然、異世界の神殿に新たな聖剣が出現する。

 ――それは、魔王出現を告げる合図だった。

 異世界人は急いで魔王探知と、勇者捜索を行ったが、一向に見つからなかった。


 そこで調査を行った結果、――今まで起こっていた『勇者と魔王』の出現が、どうやらこっちの世界で起こってしまっているらしいという事が判明した。


 ナタリーの任務は急遽追加された。


『聖剣を異世界の勇者に渡し、魔王を討伐せよ』




 ナタリーは、一つ目の任務を果たした。

 残っているのは、もうひとつの聖剣と、今代の勇者の聖剣、そして賢者の石。――世界の壁に影響を及ぼしうる物を全て持って、異世界に帰投し、二つの世界の融合を防ぐことである。

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