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第三十八話 崩壊後

 ――勇者様にこの聖剣を託しなさい。


 そんな事を言われたのは、突然の事でした。

 エルフ村の長から、ある日突然呼ばれて言われたのです。

 そこにあったのは、失われたはずの聖剣でした。


 ――聖剣が、見つかったのですか!?


 ーーいや、違う。新たな勇者の聖剣が、先日教会にて出現した。例の方はやはり向こうにあるので間違いないだろう。


 向こうって言うのは、別の世界のこと。

 そっちの世界は、私たちの世界とはぜんぜん違っていて――、勇者様は、そこからやってきたのです。


 そして新たな聖剣が現れたと言うことは、新たな魔王と勇者が誕生したと言うこと。



 ――では、新たに魔王が現れたのですか? でも、そんな感じは全然しないのです……。


 ――お前も、ソレが原因でこっちと向こうが繋がったままなのはよく知っているだろう。

 そのせいかどうかは知らんが、魔王が何故か向こうで復活してしまったのだ。


 ――そ、そんなことってあるのです!?


 ――さぁな。しかし実際に起きている。魔王は何れ覚醒するだろう。



 それだけではない――、その続きは、ナタリーにも理解出来た。

 もっと根本的な問題。



 ――ナタリー、勇者に聖剣を託し、魔王を倒せ。その後、――、


 私は、その為に来たのです。

 この世界と、あっちの世界の、『異常』を修正するために――。






「……ぅぅう?」


 ――そんな、思い出したくなかった記憶を掘り起こすような夢を見て、私は目を覚ましました。



 ◇◇




「……ナタリー、おはよう」


 そんなナタリーを、俺は覗き込んだ。

 ナタリーは状況が理解できないと言ったふうに、ぱちぱちと瞬きした。


「お、おはようございます、なのです?」


 ナタリーはキョロキョロと周りを見回す。

 周囲には、ナタリーと同じように毛布だけでくるまって寝ている人が山ほど居た。


「あっ、ナタリー起きたのっ!?」


 給付を受け取りに行っていたカオルが、水の入ったペットボトルなどを持って走ってきた。


 そしてそのまま、ナタリーへと抱きつく。


「ぐへえっ!? か、カオル様っ!? うっ、なんで今ご褒美を……」

「良かった……、本当に良かった……」


「ああ、本当に――、良かった」


 俺も同調して、言った。すると、ナタリーとカオルが呆然とした感じでこっちを見ている。


「……な、なんだよ?」

「ゆ、勇者様……、泣いて……」


 ナタリーが、俺の頬を指さした。俺はそれを、無造作に拭う。


 ――濡れていた。

 泣いていたのか、俺。

 泣くなんていつぶりだろう。


 俺がそれを眺めていると、カオルがニヤニヤと笑いながら、片手にナタリーを抱いたまま抱きついてきた。


「うおっ!?」

「さっ、みーんな無事で、魔王も倒せたんだから、パーティーしないと! クリスマスはお流れになっちゃったけど」


 そして、カオルは持ってきた食料品を並べ立てた。

 中には、外国製のお菓子や、カロリーメイトのようなものや、パンが沢山ある。


「ありすぎて余ってるらしいよ。だからちょっと余分にもらっちゃった! 英語通じるか心配だったけど、ちゃんと通じて良かったぁー」


 ナタリーが指さした先には、軍服を着た外国人や、白衣を着た研究者らしき人々、医者らしき人まで居る。

 その近くには、米国の国旗や、赤十字の旗が立てられていた。


「あの……ここはどこなのですか?」

「ああ、近くの小学校だ。ここが避難所指定になってるんだよ」




 ――現在、日本は国家存亡の危機に立っている。

 死者は観測不能なまでに膨れ上がり、魔獣達は本州中に散布した。


 主要な街は数日で崩壊し、最早日本の自衛隊なども機能していなかった。


 それから直ぐに、米、露、中が『日本救出』の名目で本州に上陸し、現在救助活動と魔獣掃討を行っているらしい。



 ――バラバラバラ、とまたヘリコプターの音が聞こえた。

 近くで、老人が聞いていたラジオからニュースが流れてくる。


『えー、たった今ニュースが入りました。現在日本で活動している巨大生物ですが、現代兵器が十分通用することが判明しました。現在、三国軍は順調に巨大生物を撃破しているとのことです』


 ゴウンゴウンゴウン、とまた飛行機の音。

 体育館の窓から微かに空を飛ぶ輸送機が見えた。

 下にワイヤーで、何か巨大な生物の死体を吊っている。



 ――ニシキは、この世界はもう終わりだと言っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。



「それで……シンヤ、家は大丈夫だったの?」


 カオルが心配そうに聞いてきた。

 ――家、そこには、俺の母親がいた。


「……ああ、大丈夫だったよ」


 家のあった場所は、クレーターになっていた。

 母親も、おそらく死んでしまっただろう。

 だが、どうでもよかった。――あの母親には、なんの思い入れもない。


 何かをしてもらった覚えも無いし、ただずっと、置物のようだった人に愛着を沸けなんてのも無理な話だ。


 しかし、それを言えば二人は気にするだろう。

 せっかく魔王を倒したのに、そんなことで暗くなるのも嫌だった。


「カオルの家族は大丈夫だったのか?」

「うん、さっき連絡取れた。今他の避難所で保護されてるみたい」


 ――良かった。

 俺は心から言った。


 ――そう言えば、サツキが入院している病院は大丈夫だろうか、とフッと思い出す。


 しかし、直ぐにどうでも良くなって考えないことにした。



 ◇◇



 ――就寝時間。

 現在、日本本州では数える程しか発電所が動いていない。

 と、言うわけでこの避難所には電気が通っていなかった。


 一応米軍が持ってきた電源で電気自体は付くのだが、節約の為に体育館内の電気は全部消灯される。


 避難者達は、みな一様に眠りについていた。

 何かに怯えるような、異様な雰囲気。

 それも当然だろう。

 コレは、嵐や地震のような災害ではない。


 もっと未知の、まるで予測のつかない事態なのだ。


 時々、外から車の音やヘリの音、偵察用に合わされているスポットライトが体育館の窓を通り過ぎる。



 ――ナタリーは、そんな様子を寝ながらぼーっと見つめていた。

 横には、カオルとシンヤが寝ている。


 しかし、ナタリーはどうにも寝付けなかった。


「……私の、使命」


 バラバラバラ、とまたヘリの音。

 ゴウゴウと、今度はジェット機の音が響く。

 きっとナタリー以外にも寝付けない人は何人でも居るだろう。


 ナタリーはため息をついて、シンヤをチラリと見た。

 ぐっすりと眠っている。

 どこを見ても、普通の少年だった。

 ――しかし、その精神は、まるで鍛えられた歴戦の戦士にも似た、非情さがあった。


 悪魔を殺すならまだしも、この少年は、人間を意図も簡単に殺してみせた。


 ナタリーは、ずっと疑問に思っていた。

 この世界のことを勉強する度に、その疑問は深まるばかりだ。


 何故――、このような世界で育って、こんな戦士のような人格を得られたのか――?


 この世界の倫理観。

 この世界の教育。

 この世界の常識。


 シンヤは、それらにまるで縛られていない。

 戦いに葛藤もなく――、なんの疑問も抱かない。



 ――いや、そんな事、どうでもいい。



 ナタリーは、首を振った。

 この少年は、自分の命を助けてくれた。そして、自分の願いを聞いて、魔王を倒してくれた。

 それだけ分かれば十分だ。



 ――そう、だからこそ、この使命を全うするのは、とても辛い。



 自分が、では無い。

 シンヤの事を思うと、ナタリーは悩まずにはいられなかった。


 ――しかし、どんなに悩んだって、問題を先延ばしにすることは出来ない。

 だって、――こうしている間にも、また新たな危機がこっちの世界になだれ込んでしまうかもしれないのだから。

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