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第三十五話 殺戮

 ガチャり、と扉が開かれた。

 ニシキは見慣れた自宅の中に、足を踏み入れる。


 ピチャピチャと、被りすぎた返り血が滴り落ちる。


「きったね、風呂入んねぇと」


 ニシキは居間へと入った。

 奥にあるキッチンには、母親がこっちに背を向けて料理をしている。


「ん? ユウキあんた帰ってきたの?」

「ああ、講習に行ったわけじゃねぇし」


 母親は、何か振り返れないほど集中して作業しているらしい。

 ニシキは、微笑みながら母親へと手を翳した。


「……おぎゃぁぁぁぁ!! おぎゃぁぁぁぁ!!」


 ――その時、まだ赤ん坊の妹が、今の端に置かれたベビーベッドで泣き出した。

 ニシキは顔を顰めながら、そっちへと振り向く。

 母親がため息をついた。


「ユウキ、今手離せないからあやしてやって」

「――ああ、分かった」


 ニシキは、妹の元へ寄った。

 泣き声がいっそう激しくなった。涙を大量に出して、命乞いをする様に悲惨な声で泣いていた。


 ニシキは、そんな妹の喉元へ指を置いて、グッと力を込めた。


「ぐ、ぐ、おぎゃ、ぁ、あ」


 妹は、バタバタと獣を動かした。顔を真っ赤にして、また声を出そうとするが、ニシキが首を絞めているので、声すら出せない。


 ――ニシキの身体に、ゾクゾクと力が宿る。

 力、力、力……。


「ユウキ? 何やってんの?」


 母親が不思議そうに声を掛ける。


「黙らせてるんだよ、言われた通り」


 ギュッと、さらに力を込めると、妹はヨダレを垂らしながら足をビーンと張ってから、電池が切れたようにパタリと寝っ転がった。

 半開きになった目に、もはや生気は無かった。


「――な、何やってんの、お兄ちゃん?」


 ――、その様子を、サクラが今の入口から見ていた。

 ニシキは振り向いて、ため息をついた。


 もう、中三にもなるサクラ。

 兄弟にしては、二人はとても仲が良かった。


 ニシキは、ふらっとサクラへと近づく。


「……ぃ、いや……、お兄ちゃん?」

「ユウキっ!! あんた、どうしたのっ!?」


 母親がやっと料理を終え、振り向き、ニシキの様子に気づいた。

 全身に黒ずんだ液体や、肉片のようなものが付着している。

 そして――後ずさるサクラを、ニシキは優しく抱きしめた。


「ユウキっ!!」

「お、お兄ちゃん……?」


「……サクラ、お前の事は、とても大事に思ってたよ。お兄ちゃん子な所も、中三になっても治らなかったしな」


 ミシ、ミシ、とサクラの華奢な体が軋んだ。

 サクラは痛みに悲痛な声を上げた。


「いだぃぃぃぃいいいい!! お兄ちゃんお兄ちゃんはなし、離して離して離して離して離してっ!!!! 痛い痛い痛い痛い!!!!」

「何やってんの、ほんとにっ!! ちょっと、ユウキ!! サクラを離しなさいっ!!」



 ――パキュン、と、何かが折れるような音と共に、サクラの体がぐしゃりと潰れた。関節はぐちゃぐちゃになり、全身のあらゆる場所が壊れている。


 サクラは目を数秒間ぱちぱちさせた後、がくりと項垂れた。脊髄も折れてきたらしく、首がデロンと垂れた。


「……悪いな、サクラ。お兄ちゃん、どうしても力が要るんだ」

「あ、ぁ、あ……」


 ニシキは、サクラを放り投げ、立っている母親へ振り向いた。


「……母さんも、今までありがとうな」

「――なんで、なんで……」


 ――ドスリ、と、ニシキは母親の腹部へ腕を突き刺した。

 そして、グリグリと中を掻き混ぜる。


「ぁ、ぐぇ、なんで、……なんで……」

「このお腹が俺を産んでくれたのかぁ〜、なんかクるものがあるなぁ」


 そして、腸やら、何かの臓器を引っ張り出す。

 母親は、倒れ込んで、喘ぎ喘ぎ息をした。



「……魔王様、どうですか? お力の程は」

「あぁ、最っ高だよ。今ならアイツ殺すどころか、人類でも滅ぼせそうな気分だよ」


 ――いつの間にか背後に立っていたアルベラに、ニシキは振り向いて笑った。

 そして、辛うじて生きている母親の顔を頭蓋骨ごと踏み潰した。

 脳みその破片が散らばるのも気にせず、ニシキは居間を出る。


「今の貴方様ならば、繋げることができます。……魔王様、やって頂けますか?」

「ああ、別にいいよ? 面白そうだし」


 ニシキは、適当に答えながら、家の出口へ向かった。

 その後ろから、アルベラが着いてくる。


「じゃあ、その後はさっき言った通りにやれよ? やらなきゃお前も殺すからな」

「無論、魔王様の命令は絶対でございます」



 ◇◇



 ――結局、俺達は何もできることも無く、夜になった。


 俺、ナタリー、カオルはいつも通り、巡回の支度をし始める。

 靴をとんとんと履いて、聖剣の柄を握って、肩に担いだ。


 その後ナタリー、最後にカオルが、賢者の石を握りしめながらやってきた。


「準備はいいか?」


 二人は緊張した面持ちで頷いた。

 俺も頷き返し、家から出る。外は既に真っ暗だ。




「……居たのです」


 ――家を出てから数分も経たない内に、ナタリーが言った。

 ナタリーが空中を指さす。そこには――鳥と犬が合体したような奇妙な悪魔が数羽、群れを為して飛んでいた。

 特に気持ちが悪いのが、ぐにゃぐにゃと並に揺られるワカメのように、全身の毛が波打っている点である。


「……妙に多いな、それに悪魔っぽくない」

「あれは……、ブルフェスキナなのです。魔大陸の魔獣なのですが……、こっちの世界に迷い込んだのかもしれないのです」

「うう、何あれ、気持ち悪い」


 俺は嫌そうな顔をするカオルを振り向いた。飛ぶ敵は彼女が一番相性が良い。

 カオルは頷いて、すっと光線を撃ち、怪鳥の群れを打ち落とした。


「ナタリー、あれ、悪魔じゃないの?」

「はいなのです。悪魔は人間を襲う為に生まれた魔王の配下のようなものですが……、魔獣は異世界に元々生息している生物なのです。でも、ほとんどが凶暴で危険なので、やっぱり倒した方がいいのです」


 それに……とナタリーがカオルに近づいた。


「魔獣の中には、この世界で言う『虫』が巨大化したような生物がたっくさんいるのです……、カオル様、虫苦手でしたよね?」

「うっ……巨大ゴキブリ……巨大ムカデ……、無理無理無理!!」


 うらめしやー、と言った感じでそんなことを語るナタリーだったが、「また居ました」と言ってまた指をさした。


「……うーむ、あっちの方向なのです」


 ナタリーが指さした方向を確かめるため、俺は飛び上がって背の高い家の屋根に登った。


 ――その、ずっと向こうに、クルクルと回る円盤のようなものが見えた。

 ソレは、住宅街の上空を回転しながらこっちへ迫ってくる。


「……なんだありゃ?」

「あっ! あ、あれはデミスラクス……、ま、魔大陸の肉食植物なのです!!」

「何あれ……ユーフォー?」


 円盤は、まさに遠目ではユーフォーのようにも見えたが、近づいてくるにつれその姿が非常に気持ちの悪い格好をしているのに気づいた。


 ――まるで肉塊の分厚いピザ。

 ピンク色の表面がぐるぐると回転し、その皮膚の表面には、ギザギザのついた口のようなものが大量についていた。


「……やってくる」

「勇者様、気をつけてください! アレは酸を――」


 ダンッ、と飛び上がった。

 そして聖剣を構え、円盤へ接近する。


 円盤は、一瞬だけ回転を緩め、何かを吐き出そうとしたが――、その前に俺は円盤を両断した。


 真っ二つに割れた円盤は、両方共に別々の方向へ吹っ飛び、住宅街に落下した。


「……あれ、消えねぇ」

「勇者様〜!」


 ナタリーがカオルを両手に抱えて飛んできた。カオルは真っ青な顔をしながら下を見ている。

 ……確かに、あれは怖い。

 少しナタリーが手を滑らせれば地面に真っ逆さまだ。


「ナタリー、あれ、消えないんだけど」

「あ、そうでした! 魔獣って悪魔みたいに、死んだ後消えないのですよ〜」


「……え? それって大丈夫なの?」


 なんとか屋根に着地し、少し足を震わせているカオルが言った。

 確かに、あんなものが残っていたら大騒ぎになるに違いない。


 しかし、どうしようもない。あんな巨大なものを担いでどこか人目のつかないところに置きに行くほど、余裕のある状況ではない。


「諦めてここから離れよう」――俺がそう言うと――、ナタリーが険しい顔をしてまた違う方向へ指をさした。


「また見つけたのです、あっち!!」

「ず、随分多くないっ!?」


「……なんか、嫌な予感がするな」


 俺達は見合わせて頷いた。

 ともかく今できることは、視界に入った敵を手当り次第倒してゆく事だった。

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