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第三話 エルフの話

 妹が帰っているかもしれないと心配したが、まだ塾に行っているらしい。

 もう十時になるのに、我が妹ながら随分真面目なヤツだ。


「ここが勇者様の拠点なのですね!!」


 わーい、と騒ぎながら玄関を上がるナタリー。

 俺はやれやれ、と思いながらそれの続いた。人気の無い道を探しながら家まで帰るのは一苦労だった。

 ……いや、そこまで心配しなくとも、今のご時世コスプレって言っておけば大丈夫か?


「ワンワンッ!!」


 ――と、家の中からジャッキーが飛び出してきて、ナタリーへと飛び込んだ。


「わっ! 初めて見る動物なのです〜!」


 ナタリーはジャッキーを抱き抱えて、すりすりと頬ずりした。

 ……あれ、ジャッキーは知らない人には結構吠えるはずなのに、ナタリーには数秒で懐いてしまった。


 もしやエルフは動物と仲良くなる技能でも持っているのか?


 そんなことを考えながら、俺達はリビングに入った。

 リビングは、まだ母さんが居た。


「あっ、こ、こんにちはなのです!! 勇者様のお母様!! 今回私、勇者様の補佐をさせていただきますエルフの……」

「ああ、大丈夫大丈夫。それはほっといて」


 ナタリーは困惑したように眉をひそめた。


「えっ、それはどういう……」

「何も聞こえてないから、意味無いよ。時間の無駄だ」


 俺は適当に飲み物を冷蔵庫から出して、リビングを出た。それに、ナタリーも続く。

 さっきの様な楽しそうな勢いは、消えてしまっていた。

 気を使わせてしまったらしい。


 しかし俺の部屋へ入ると、ナタリーはまた元気を復活させた。

 パタパタと飛び回って、俺の部屋を観察し始める。


「ここが勇者様のお部屋なのですか〜!!」

「別に、面白いものなんて何も無いけど……」



 ◇◇



 暫く見回って満足したナタリーは、俺に事情を話し始めた。

 俺は腰を据えて、ナタリーの話を聞いた。



 ――かつて、ナタリーの住んでいた異世界に、魔王と呼ばれる最悪の存在が現れた。

 魔王は人々を虐殺し、大地を枯らし、大量の悪魔を従えて異世界を支配した。


 それを救ったのが、俺のひいじいちゃんであるマサトシ。

 マサトシは勇者として聖剣を操り、魔王を討伐し、伝説となって元の世界へ帰って行った……。


 しかし、最近になって、強力な魔王の反応が、俺が今いるこっちの世界に現れた。

 それを感知した生き残りの元魔王配下の悪魔が、大量にこっちの世界へやって来ているらしい。


 異世界側の人々は、そんなこっちの世界を救うべく、勇者の子孫へ聖剣を託す事にした――。



 ざっと要約すれば、そんな話だった。

 実際エルフ……人外のナタリーが目の前にいるのだし、ほぼ疑いようの無い話なのだが、やっぱり少し現実感に欠ける。


 俺は、部屋の隅に立てかけた、布に包まれた聖剣を眺めた。


「でも、俺に出来ると思うか? 身体だって弱いし、殴られるのは慣れてるけど」

「大丈夫なのです! 勇者様はもう覚醒されたので、もう聖剣なしでもとてもお強くなってるはずなのです」

「……マジ?」


 俺は、なにか手頃なものがないか探した。

 すると、蛍光灯の近くに、ハエが飛んでいるのが見えた。


「……よっと」


 ――バシッ。


 なんとなしに手を伸ばすと、俺はなんとハエの羽を器用に掴んでいた。


「うわっ、すごっ」

「ね? 今のだって、私ですら目で追えない動きだったのです。勇者様、もっと自信を持ってください!」


「あー、うん、分かった。でもどうやって魔王なんか見つけるんだ?」


 俺はハエを外へ逃がしながら聞いた。


「それは私に任せて欲しいのです! 私なら、近くに悪魔がいた場合すぐに分かるのです!」

「へぇー、成程。でも、俺学校もあるし、昼間は無理かな」

「それも大丈夫なのです! 悪魔が主に活動するのは、夜だけなのです!」


 俺学校もあるし――って、俺まだ学校に行こうと思っているのか。

 また虐められて、嫌な思いをするだけなのに。



 ……いや、違う。

 俺は拳を握り締めた。

 今まで抑えてきた怒りだとか、憎しみだとかが、ふつふつと湧き上がってくる。


 これからは違う。

 あのくそ野郎どもになんか、引けを取らない。


 空気が震撼し、ガラスががたがたと震える。


「勇者様……?」

「大丈夫だ、大丈夫」


 心を落ち着かせる。

 いま怒ったって、仕方がない。

 落ち着け、落ち着け俺――。




「ただいまぁーっ!!」


 そんな聞き慣れた声と、家に誰かが入ってくることで、俺の心は完全に落ち着いた。


「妹だ。ナタリー、部屋を出ないでくれよ」

「はっ! 了解なのです!」


 俺は部屋を出て、リビングへ降りた。そこでは妹が、カバンを放り投げているところだった。


「あ、お兄ちゃん」

「サツキ、おかえり。今飯作るからな」


 妹の名は、サツキ。

 俺と同じ高校に通う一年生で、陰気な俺とは違って、明るく、可愛らしく社交的な少女だ。


「あ、いいよいいよ。私外で食べて来たから」


 サツキはツインテールを解きながらいった。

 ……ここの所は、毎日外食だ。

 正直程々にして欲しいのだが、塾の友達と仲が良いらしいし、仕方がない。


「こんな時間まで塾か。偉いな」

「……あー、まぁね」


 サツキは振り向かずに、スマホをずっと弄っている。

 最近、何処かサツキのと距離が遠い気がした。

 高校なのだしこれが普通なのだろうが、中学までのお兄ちゃん子だったサツキを思い出すと、少し寂しくなる。


 俺は自分とナタリーと母の分の、冷凍食品をチンした。


 母の前にコトリと皿を置く。母は相変わらず天井をぼーっと見ていた。

 皿さえ置いておけば、いずれ無くなっている。

 だから、こうしておけば大丈夫だった。


 俺は飯を持って部屋に戻った。

 部屋では、ナタリーが本棚をゴソゴソ漁っていた。


「なにやってんだ」

「うえっ!? いや、そのですねこれは違くてですね……」

「いや、まあ別にいいから。そういえば、一応食べるもの持ってきたけど、食べる?」

「食べるのです〜! もうお腹ペコペコで、こっちに来てから何も食べてなかったのです〜」


 何だか、不思議な感じがした。

 一階には、いつも通りの世界があるのに、自分の部屋に戻った瞬間、俺は『勇者』としての世界に戻った気がした。


 二つある世界の境界で、行ったり来たりしている気がする……。


 そんなことを考えて、ちょっと笑った。

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