第二十四話 winter vacation
『えー……であるからして……』
自信なさげな声が、体育館に響いていた。
しかし誰一人として聞くものはいない。
かく言う俺もまともに聞く気はなく、欠伸をしながらこの退屈な終業式が終わるのを待った。
そう、今日は終業式。
明日からは冬休みである。
「ただいまー」
うーさむさむ、と思いながら、俺はやっと家にたどり着いた。
今学期最後の帰宅もこれで終わりだ。
帰りまでを遠足とするなら、帰宅を終えたこの瞬間から冬休み開始である。
俺は靴を脱ぎ捨てて、自分の部屋に登った。
……そこには、二人肩を並べてゲームをする少女達が……。
一方は白銀の美少女、ナタリー。
もう一方はクラスのアイドル美少女、カシワギさんである。
ちなみにクラスのアイドル美少女と言うのは俺の勝手なイメージ。
「あっ、ああ! カ、カオル様っ、そこはダメなのです〜〜!!」
「えっへへ、油断する方がいけないんだから!! ほらほら、そこが弱点でしょ?」
会話だけ聞けばいかがわしく聞こえなくもない……が、やっているのは対戦系のゲームだ。
俺が帰ってきたことにも気づかないほど熱中してしまっている。
――カシワギさんが魔法使いだと発覚してから、もう一週間だ。
カシワギさんはそれから毎日俺の家に通うようになり、夜の巡回に参加するようになった。
そして、晩御飯やらを一緒する内に、いつの間にかナタリーはカシワギさんと滅茶苦茶打ち解けていた。
そう言えばジャッキーとも仲良くなるのが早かったな……、コミュ力高いなぁ。
「勇者様っ! おかえりなのですっ!」
「ああ、ただいま」
「あ、クドウくん。おかえり〜」
「お、おお、どうも……」
……かく言う俺は、まだカシワギさんに慣れていないのである。
ナタリーの時は大丈夫だったんだけどな……。
多分ナタリーは非現実的な存在すぎて、異性だとかそんな事を気にするレベルをで会った瞬間オーバーしていたから、俺は普通に話せているのだ。
しかし、カシワギさんはこの世界の人間であり、しかも同い年の女子だ。
同い年の女子なんて話した事も無い。
よって、緊張するのは仕方がないことだ、うん。
と、言うことで俺は何となく入れたお茶を飲みながら、二人が仲睦まじく遊んでいるのを眺める事にした。
うーむ、ちょっと前の俺がこの光景を見たら、腰を抜かすかもしれない。
あ、それと母の事は、カシワギさんにちゃんと説明してある。
「ぐ、ぐぅ……負けたのです……」
「あんまりジャンプしない方がいいよ、ナタリーちゃん。無闇にジャンプしてたら、着地を狙われるに決まってるでしょ?」
「さ、さすが魔法使い様なのです……」
……カシワギさん、そのゲームは昨日が初めてでしたよね?
どんな上達スピードだ。高学歴はゲームの上達も早いのか。
ちなみに、カシワギさんは一日早く冬休みに入っているので、今日はずっとナタリーと遊んでくれていた様だ。
「勇者様〜、仇を打って欲しいのです〜……」
「えぇー、俺、ナタリーよりも弱いんだけど」
「大丈夫、手加減してあげるから」
グッとドヤ顔するカシワギさん。
ドヤ顔も可愛いですねカシワギさん。でもそのせいで俺が吃りそうになるので辞めて欲しい。
「……じゃあ、一回だけ」
俺は渋々コントローラーを握った。
くそ、元々俺はゲームが得意じゃない。
そもそも対戦ゲームなど産まれてこの方ほとんどやった事がなかったのだ。
……うん、やる相手がいなかったんだ。
であるからして、俺が勝利できる唯一の道は――、
……カシワギさんをチラ見すると、画面をじっと見ていた。
わき腹ががら空きだぜ、カシワギちゃん。
そう、試合開始の瞬間に、そのわき腹に攻撃を――、
――って、出来るわけないだろアホか。
「あ、勝った」
K.Oとどかっと画面に文字が広がった。
しまった、良く見てなかった。
「流石に弱すぎなのです勇者様……」
ナタリーの呆れたような声が響いた。
いや、仕方ないじゃん……、わき腹のせいだよわき腹の。
しかし、流石に悔しい。
「待って、今のナシ。もう一回だ」
今のナシ!!――実は人生で初めて言った。
なんて悲しい人生を送ってきたのだろう。
……まあ、俺の人生を一言で表すなら『悲惨』が一番的確だろうなぁ。
――そしてその後、俺が十連敗するとは、誰も予想していなかった。
まさに悲惨である。
◇◇
「よし、行くぞ」
時刻は十時を回った。
夜の巡回に出るにはちょうどいい時間だ。
ナタリーとカシワギさんが遅れて玄関に来て、靴を履いた。
外に出ると、相変わらず寒かった。
「うっ、寒い……」
「じゃあナタリーが温めてあげるのです〜!」
「きゃっ、ちょっとナタリーちゃん!」
ナタリーが、カシワギさんに抱きついてじゃれ合い始める。
美しい光景だが、俺は蚊帳の外である。
もちろん「俺も温めて〜」と言って二人の中に飛び込む勇気は無い。
俺に出来ることといえば、出来る限り邪気を排除した生暖かい視線で二人を見守る事である。
「さー、行くぞ。さっさとしないと日が暮れる」
「え? もう暮れてますよ、勇者様?」
「……確かに」
じゃあなんて言えばいいんだ?
日が開ける?
――って、それより早く行かなければ。
と、言うことでしばらく両手に花状態で歩き回り、見つけ次第悪魔を殺して行った。
前から思っていたが、悪魔弱すぎでは?
普通の悪魔ならもう何体も倒したが、苦戦した覚えがない。
それに四天王のイグ……イグなんとかも瞬殺だったし……。
……しかし、まだ四天王は三体も残っているし、肝心の魔王もまだだし、油断は禁物だ。
「め、滅茶苦茶強いね、クドウくん。なんか、レベル百って感じ」
「レベル百、か……。あんまり最初から強くなった感じはしないんだけどな」
「じゃあ、最初っからそんなに強いの?」
「はいっ! 勇者様は超強力な悪魔を、ろくな実践経験も積まれていないのに、倒してしまいました! これはもう、天性の才能と言うべきなのです!」
興奮しながら言うナタリーに、俺は少し自虐的に言った。
「別に、俺だけが強いわけじゃないだろ? 勇者の力ってのは、だいたいこんな感じなんじゃないのか」
「……それは違うのです、勇者様」
ナタリーが、少し真面目な顔をして言った。
「クドウ マサトシ様が勇者なった時も、その前の代も、最初は初級悪魔を倒すのにも苦労したと記録にはあったのです」
「へぇ〜、じゃあやっぱり、クドウくんは特別なんだ?」
カシワギさんが、何処か嬉しそうに言った。
どうだか、と俺は思いながら、上空にまた悪魔を発見した。
「また居た。最近多いな」
「えっ、勇者様! 私が見つける前に見つけないで欲しいのです!」
「あ、悪い」
ついついナタリーの仕事を奪ってしまった。
にしても、上空何メートルを飛んでいるかは分からないが、とても遠い。ジャンプして届く距離ではない。
どうしようか、と少し考えて、俺はカシワギさんへ振り返った。
「ちょうどいいし、アレで魔法を練習してみたら?」
「へっ? いや、えーっと、大丈夫かな……」
目が合ったのを気にしたのか、カシワギさんはちょっと顔を赤らめて目を逸らした。
……案外恥ずかしがり屋なのだろうか。
まあ俺には及ばないがな。
「大丈夫なのです! カオル様、自分を信じて欲しいのです!」
「うー、わ、分かった。やってみる」
カシワギさんは、チラッとこっちを見てから、深呼吸をして首のペンダントを左手で握りしめた。
そして、右腕を上空の悪魔へ翳す。
「カオル様、呪文は覚えていらっしゃいますか?」
「うん、大丈夫」
そう言えばナタリーがカシワギさんになにか教えていたなぁ……とか思っていると、ググっ、と、周りの空気が緊張した。
カシワギさんのマフラーとコートがはためき始め、青白い光がカシワギさんの手に集まり始めた。
かっこいい。ただ剣を振り回す俺よりかは相当映える。
「――、――」
呪文が、カシワギさんの口から綴られる。言葉にはなっていない。
ナタリーもそうだったが、魔法を使う時の呪文は、言葉と言うより、どちらかと言うと歌に近い。
カシワギさんの手の平に、野球ボール程の光の玉が出来上がった。
そして、それを悪魔へ翳し――、
「――――ッ!!
――呪文を最後に、巨大な爆発音が響いた。
光。音。そして風。
まるで正面に雷の落ちたような、そんな音だ。
目を細めて見ると、カシワギさんが作り出した光の玉から、一本の白い光線が上空に伸びていた。
――あの光線に、どれほどのエネルギーが込められているのか、想像すら出来ない。
「……や、やっと止まった」
しばらく続いた閃光の末、やっと周囲に静寂が戻った。
ナタリーと俺は、塞いでいた耳を離した。
「……これは、無闇に使えないな」
「まさか、ここまでとは思わなかったのです……」
パチ、パチと周囲の家の電気がどんどん点いて行った。
当たり前だ。こんな音周囲でしたら、核爆弾でも落ちたかと勘違いしてしまうだろう。
「やべっ、逃げるぞ」
俺達は、急いでその場から離れた。
――カシワギさんの魔法に関しては、制御方法を身につけてもらわないと使い勝手が悪そうだ。




