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第二十一話 罪

 ……朝だ。

 私は、起きることなく布団をもう一度かぶった。

 休もう。

 チカにあんな事を言われたのが、相当こたえたらしい。

 昨日もほとんど寝られなかった。


 ――『どうせ、私の事なんか何も考えてなかったんでしょ。……もういいわ。カオル、あんたってホンット最低』


 あれがどう言う意味だったのか、いくら考えても分からなかった。

 チカに迷惑なことをした覚えも、全くなかった。

 ――でも、もしかしたら自覚がないだけで、知らないうちに傷つけてしまっていたのかもしれない。


「……はぁ」


 結局、無理にカラオケに行ったのも、無駄になってしまった。

 チカとは、もう友達で居られないかもしれない。

 私は、枕元に置いてあったぬいぐるみを抱きしめた。


「……ちょっとカオル! あんたまた休む気じゃないでしょうね、お母さん許さないわよっ!」


 ガンガンガン、と扉が叩かれる。

 私はため息をついて、ドア越しに言った。


「具合悪いから休むの! ほっといてよ!」

「嘘おっしゃい! どうしてもズル休みするって言うなら、お父さんにこの事を言いますからね!」


 げっ、と私は苦い顔をした。

 父は、母よりも厳しい。父が家にいる日にもし私が遅くなれば、理由を問いただされた挙句、ホントのことを言っても夜遊びしただとか文句つけられて怒られる。


 ――行かなきゃダメか。

 結局、明日か明後日には行かなければならないのだ。

 今日逃げてもそれは変わらない。


 私はもう一度大きくため息をついて、部屋から出た。

 母は満足そうに頷いて、また朝食の準備に取り掛かった。



 ◇◇



 足が重い。

 こんなに学校に行きたくないのは、産まれて初めてだった。

 チカとは、高校に入ってからずっと仲が良かった。


 一年の頃、チカから話しかけてきてくれたのだ。

 チカは私にとって、初めての友達であり、特別な友達だった。



 ――駅から降りて、学校へ向かう。

 人通りは妙に少ない。

 少し早いだろうか、と思い時計を見たが、いつも通りの時間だった。


「……ま、こんな事もあるか」


 それよりも――、チカの前でどんな顔をすればいいのかが不安だった。




 学校へついて、教室へ向かう。

 下駄箱を見ると、チカはもう来ているらしかった。

 ――ああ、気まずいなぁ。


 恐る恐る、教室の扉を開いた。


「……あ、あれ?」



 ――しかし、教室の中には誰もいなかった。

 もしかして、今日休み?

 そんな事を思いながら、私は中へ――、



「カシワギさん」



 驚いて、振り向く。

 そこには、見覚えのある男子生徒が居た。

 最近、私に告白してきたあの人だった。


「……え?」


 腕を掴まれる。

 そいつは、笑顔で私の腕を引いた。


「ちょっと来て」

「え、ちょっと、何っ?」


 ぐい、ぐいと手を引かれ、私は体勢を崩しかけながら引っ張られる。

 困惑が私の頭を支配した。

 何コイツ――、今更なんの用?



 そいつは私を連れ、校舎の最上階に連れていかれ、そのずっと奥の、空き教室の前で止まった。


「入って」

「……なに、なんでこんな所に……っていうか、こんな強引に連れて来られて従うわけないでしょ。用があるならここで言いってよ」

「入れ」


 ――ゾッとする。

 そいつの目に、光は無かった。笑顔なのに、どこかズレている。

 目の焦点も、微妙に合っていない。


 明らかに普通じゃない。


 私は、逃げようと後ずさった。

 ――しかし、突然教室の扉が開き、そこからでてきた腕が、私を掴んだ。


「いやっ――」


 悲鳴をあげようとするも、口を塞がれる。私の身体が、教室へ引きずり込まれる。





 ――そして、私は教室の中心に投げ出され、床に倒れ込んだ。


 私を引っ張ってきた奴も教室に入り、そして扉がガチャンと閉められる。



 ――その教室には、人が沢山いた。

 その殆どが、私のクラスの人だった。男子も、女子もいる。更に、他のクラスの人も多数いた。

 そんな人達が、私を取り囲んで、笑いながらこっちを見てる。



 何これ、どうなってんの? 何かのドッキリ?

 ――私の疑問に答えるように、聞き覚えのある声が響く。


「いらっしゃぁーい、カ・オ・ル?」


 倒れ込んだ私に、一人の女生徒がのしかかってきた。

 その人は、私のよく知っている人で――、


「チカ……、ちょっと、どういうこと?」

「どういうことぉ?」


 チカだった。

 チカは、私の両腕を抑え、私に顔を近づけてきた。

 睨め回すような目で、私を見回す。


「カオル、どうしてこうなったのかは、自分で考えなよ。思いつかないんならぁ、教えてあげてもいいけどぉ?」

「…………」


 言葉に詰まる。私には結局、その答えを出せなかった。


「ふぅーん、じゃあ教えてあげる。カオル、私達はね、アンタの存在が邪魔なの。アンタが居るだけで男達はカオル、カオル、カオルって、アンタのことしか見ない」


 チカの瞳が、私を覗き込んでくる。

 怖いくらいに、いつも通りの目だった。いつもの、人懐っこそうな瞳だった。


「それなのに、アンタがいつまで経っても彼氏作らないから、男共はずっとアンタの方を向いてる。ワンチャンある、だとか言って、アンタばっかりチヤホヤする」

「そんな――」

「……だから、その身体で、今までの罪をちゃんと償ってもらうの。カオル、あなたは今から私たちに贖罪するんだよ」



 ――そんなの、無茶苦茶だ。

 私は悪くない。

 そんなの、周りの問題だ。私が誰と付き合おうと、誰とも付き合わなかろうと、誰かが攻めていい事じゃない。


 贖罪などしなければいけない道理はない。


「チカ……、本当にどうしちゃったの!? そんな事言われたって、好きでもない人と付き合えって言うのっ!?」

「うるさい、うるさい、黙ってろよ」


 バシンっ、と頬を叩かれる。

 ――痛い。チカが、暴力を振るうなんて。


「じゃ、まずは男を誑かした方の贖罪ね。カオル、今からアンタは、ここにいる男たちみーんなに、犯してもらうのよ」


 チカは、笑顔でそんなことを言った。


「ここにいる男たちは、みーんなアンタに振られたか、密かにアンタのことを好きだった奴ら。こんなに大勢を誑かしたんだから、ちゃんと御奉仕しないとねぇ?」

「……は、な、何を言って――」


 チカが、何かを合図した。

 その瞬間、私を取り囲んでいた男達が、こっちへ歩いてくる。

 男達の目は、明らかに私の身体に注がれていた。


 ――こわい、


 怖い怖い怖い怖い怖い――。


「そして、その後は私たち女子による拷問ターイムだよ! カオルぅ、いい声で鳴いてよぉ〜?」


 いやだ、いやだ、いやだ、いやだ――。

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌、


 男達が、私を押さえつける。

 胸をまさぐる。

 スカートに手を入れてくる。


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い――、


 たすけて、たすけて、たすけて!!!!






 どうか、誰でもいいから――助けてッ!!







 ――その時、私は見た。


 窓を割って、教室へ飛び込んでくる――あの人の姿を。


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