第二十話 カラオケ
カラオケに到着した私たち六人は、予め予約していた部屋へ案内された。
部屋は、六人が入るにはちょっと小さめだった。
――そこから、まあカラオケが始まったのだが……。
「ねぇ、ライン交換しよライン!」
「あっ俺とも交換しよーよぉ、カオルちゃぁーん」
――私は、両隣をうるさい方の二人に抑えられていた。
あんまりにもしつこいので、私はスマホを取り出した。
というか、今チカが歌ってるんだから、そっちを聞いていて欲しい。
これのせいでチカに恨まれたら、本末転倒もいいところだ。
――とか心配したが、チカはその様子をチラリと見て、小さく、くすりと笑った。
……?
笑いの意味はわからなかったが、とりあえず恨まれはしなさそうだ。
「おっ、チカちゃん歌い終わった? さすがに上手いなぁ〜」
「えー? 別にそんな事ないですよぉ〜、それに、カオルと話しててちゃんと聞いてなかったんじゃないですか?」
「いやいや、そんな事ねぇって! マジ聞いてたから!」
聞いて無かったじゃない、とわたしは少しむっとした。
それに、結局流れで連絡先を交換してしまった。だから押しの強いのは嫌なのだ。
そして、うるさい方の一人が立ち上がってマイクを取った。
「よぉーし、次俺の番か!」
こっちをちらっと見てから、声の調整を始める。
もうなんでもいいから、早く終わって欲しかった。
そして、そいつの歌が始まった。
歌は、流行中のラブソングだった。
随分と歌い慣れているようで、リンカさんなんかはうっとりと聞き入っていた。
私は――その、甘〜い恋愛系の歌詞を聞いていると、なんだか胸がムカムカして来るのを感じた。
普通の男女の、一般的でロマンチックな恋愛を語った歌――。
「ごめん、ちょっとトイレ」
私は、横のうるさいやつ二号を押しのけて、部屋の扉を開けて出た。
「……はぁ、もうホント疲れる」
私は、トイレの洗面所に手を着いていた。
昔からそうだった。私は少女漫画とか、恋愛系のドラマとか見ると、何故か妙なムカムカに襲われる。
高校に入ってからは治まっていたのに、最近また発症し始めた。
私は、鏡で自分の姿をチェックして、ほう、と大きく息を吐いた。
肩にかかった髪を弄りながら、私は女子トイレを出た――。
「あ」
――そんな時ちょうど、あの三人組の、唯一まともそうな……、ニシキとか言う人がトイレから出てきた。
ニシキはニコッと私に笑いかけてきた。
私は特に笑い返すことも無く、歩き出した。
「疲れるでしょ、あの二人。ごめんねぇー、アイツら押しまくったらイけるって思ってるような奴らだから、引き際がわかんないんだよ」
その横に、ニシキが並んでくる。
並ばないでよ、と思ったが、流石に感じが悪いので言わない。
「別に大丈夫だけど。カラオケ久しぶりだったからちょっと疲れただけ」
「へぇー、あんま行かないんだ。でも、けっこう誘われるでしょ?」
私がそれに無言で返した。
「あ、てか俺らライン交換してないよね」
ニシキが立ち止まる。……あの二人とも交換してしまったし、こいつとだけ交換しない訳にも行かない。
私はため息を抑えて、スマホを取り出した。
交換中、ニシキは妙に私へ距離を詰めてきた。
「実はさ、オレもそうなんだよね。結構女の子とかに積極的に誘わらんだけど、ぶっちゃけ興味無い子に誘われても疲れるだけっつーか?」
……まあ、そこには同意する。
だが、コイツの口調で、本題がそれじゃないのは直ぐにわかった。
「オレら、似たもの同士じゃね? ……なあ、カオルちゃん、この後……」
「悪いけど、私終わったらすぐ帰るから」
部屋へ戻ろうとすると、手を掴まれた。
私は少しそいつを睨みながら、振り向いた。
「……何?」
「俺ならぜってー後悔させないって! 俺なはカオルちゃんの悩んでる事だって、相談に乗れるし」
「乗れないでしょ」
私は言いきった。
そして、手を振りほどく。
「ニシキ……だっけ? 一応言っとくけど、私からしたらあなたもあの二人と一緒だから」
そして私は、吐き捨てるように言ってから部屋へ戻った。
――ニシキは、しばらくしてから部屋に戻ってきた。
◇◇
それから数時間後に、私達はカラオケを出た。
「いやぁー、マジ楽しかったわ! てかてかてか、この後飯行かね? 俺いい店知ってんだけど!」
「えっマジですか!? ウチらは大歓迎だよねっ、リンカ!」
「は、はいっ!」
「カオルも、もちろん来るよねっ?」
チカが、私の手を握って聞いてきた。
うるさい方の二人は、期待するような目で私を見てくる。
――でも、私はもう十分付き合ったはずだ。
これ以上はもう限界。
「ごめん、私は今日はもう帰るよ。門限ヤバいし」
私は時計をちらっと見た。
まあ門限なんて無いのだが、とにかくそう言ってしまえば引き留められることも無いだろう。
えー、と残念がる三人に軽く別れを言って、私は駅方面に歩き出した。
……やっと解放された。
でも、頑張って付き合ったんだし、これでチカに何か言われることは無いだろう。
私は、大きく深呼吸した。
「……ねぇ、カオルってば!」
――そうしていると、後ろからチカが走ってきた。
ぜえ、ぜえ、と膝に手を置いて息をするチカ。
私はびっくりして、チカに寄った。
「え、どうしたの?」
「……どうしたの、じゃないでしょ? カオルが居ないんだったら、解散になるに決まってるじゃない」
チカが、ぐっと私の手首を掴んだ。
ぎりり、と強く握られる。
痛い――。
でも、それよりも、チカの表情の方が私を驚愕させた。
怒り――恨み――、そんな言葉が似合いそうな目を、チカはしていた。
「まだ、まだ仲良くなってないじゃん。誰がいいの? カオルは誰が好み? あの三人、西高でもトップクラスで人気なんだよ? 呼ぶの、ホント苦労したんだから。カオル、アンタのために呼んだの」
「な、なんでそんなことするのよ」
「カオル――、私はカオルに、幸せになって欲しいの。カオルが奥手だから、私がわざわざ男と仲良くなる機会をあげてるんじゃない」
「はぁ? 私別に男なんか欲しくないって、ずっと言ってたでしょ。なんでそこまでして……」
私がそう言うと、チカは、ぐっと拳を握り締めた。
そして、私を睨みつける。
「カオル……、自分でわかってないんだね。――ほんとバカだなぁ。私があんたのことどう思ってるか、まだ気づいてないんだぁ」
チカは、今までに無いほど鋭い声で言った。
――私とチカの間に、大きなヒビが入った気がした。
「自分の事以外、なーんにも考えてないゴミ女」
私は、もう、何も言えないほど唖然とした。
チカは、私の手を離して、そして私の横を通り過ぎてゆく。
「どうせ、私の事なんか何も考えてなかったんでしょ。……もういいわ。カオル、あんたってホンット最低」
――私は、しばらくそこに立ち尽くしていた。
未だに何故こんなことになったのか、よく分からなかった。
◆◆
「ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう――」
ガリっ、と、爪を噛む音が響いた。
チカは、駅へ向かわず、近所の夜道を徘徊していた。
チカの中では、ドス黒い感情が渦巻いていた。
「あいつさえ、あいつさえ居なければ……、カオルさえ居なければっ!!」
どかっ、と、壁に鞄を投げつける。
そしてそのまま、壁を蹴りつけた。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうっ!!」
『――力が欲しいか? 小娘』
――その光景を、黒いフードを着たナニカが、電柱の上から見下ろしていた。




