第十七話 勇者を探して
「ねぇカオルぅ〜! 最近付き合い悪くない?」
ドカッと、後ろから誰かが抱き着いてきた。
振り向くまでもなく、チカだ。
私は面倒くさそうに振り向いた。
実際めんどくさい。
チカは最近、私を誰かとくっつけようと奮闘している。
親切心からか、どうなのかは知らないけど、私からしたら迷惑極まりなかった。
「だからぁ、行かないって。何度も言ったでしょ?」
「そんな釣れないこと言わないでさぁ! 全員超イケメンだし、慶応だし、いいじゃん、ね? ねぇお願い! 合コン行こ?」
「大学生は大学生同士でやればいいじゃない。なんでわざわざ高校生の私が……」
「向こうは高校生大好きだし、カオルなら男取り放題だよ? だから、ねっ!」
いや、取り放題ってなに?
そんなに要らないんだけど。って言うか、一人もいらない。
最近大学生には、嫌な目に遭わされたばかりだ。
慶応とかどうでもいいし、到底行く気にはなれなかった。
それに、私には重要な予定がある。
私はチカを振りほどいた。
「私用事あるから、また今度ね」
私は振り向かずに手を振って、校舎を降りる階段へと向かった。
「……チッ、クソ女が」
そんな呟きは、聞こえなかったことにした。
◇◇
学校終わってからすぐ、私の用事は始まる。
と、言っても誰かと約束があるわけでも、どこかへ行かなければ行けない訳でもない。
ただただ、歩き回る。
それが、私が唯一出来る行動だった。
『勇者様を……探して……』
――あの夜の出来事は、鮮明に思い返せる。
グロテスクな怪物と、青い髪の少女。そして、あの子が私に渡した、赤い宝石のペンダント……。
学校を出て、電車に乗った私は、カバンの中に入れてあるペンダントを覗き見た。
金の枠組みの中に、燃えるような宝石が宿っている。
これがちゃんと私の手にあるということは、あの出来事は現実だという証拠だ。
あの子は、私を庇ってくれた。
光になって消えてしまったので、どうなったのかは分からないが、死んでしまったのかも知れない。
ならば、彼女の頼みを聞かない訳には行かなかった。
……それに、私には少し、勇者に関して心当たりがあった。
――そう、いつかの夜、私を助けてくれたあの人だ。
弱者を助け、怪物を倒す。あの人は、勇者のイメージにピッタリあっていた。
そして、その人に関しても、少し手掛かりのようなものを感じていた。
ある祝日の日、私が川城行きの電車に乗った時に、途中から乗車してきた、あの二人――。
一人は、真っ白な髪の、綺麗な女の子だった。
外国人かどうかは分からなかったけど、とにかく綺麗で、どこかこの世界から浮いているような、そんな少女だった。
――そしてもう一人は、女の子とは対象的に見えるほど、普通の男の子だった。
髪も染めてないし、なにか特別オシャレな訳でもない。
特別顔がいい訳でもない。
……でも、私はその男の子に、何かを感じた。
『憧れ』、『期待』――、そんな感情が、一番似ているのかも知れない。
私は何故か、彼と話したいと思っていた。
話しかけて欲しい、と思っていた。
こんな事は初めてだった。
彼は、じっと電車から窓の外を見ていた。
私は、その後ろ姿を、じっと見続けた。
なんだか、見たことがあるような背中――どこか、安心感のある――。
それから、私は人混みに押され、電車を降りたあとは二人を見失ってしまっていた。
その日いっぱい、私は私らしくなかったと思う。
ドキドキしながら大通り付近を歩き回り、ずっと彼らを探してしまっていた。
そんな気持ちでいるうちに、私には妙な確信が湧いていた。
あの人が、――勇者かもしれない。
私は決意した。
何とかしてあの人に会おう。
そして、勇者なのかどうか確かめよう。
手がかりは、彼らの最寄り駅だけだ。
彼らが乗車してきた、あの駅付近を探せば、偶然で会えるかもしれない。
――そうしている内に、私は目的の駅に着いた。
降りて、改札をくぐる。
そして、ドキドキとなる心臓を抑えようと、胸に手をやった。
……慣れない、もう何回かここには来ているのに、緊張は解けなかった。
――さあ、行こう。
そして、私は今日も、勇者を探す。
◇◇
「……ま、そう簡単に見つかるわけ無いよね」
空はもう、薄暗くなっていた。
私はぐったりと、歩道橋の上から道路を見下ろしていた。
もうかなり歩いたつもりだが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
まあもう何日もそんな感じだから、さすがに慣れてきたが。
にしても、そろそろ暗くなってきてしまった。
帰った方がいいだろうか?
またあの怪物に襲われでもしたら、本当にシャレにならない。
――いや、でも私にはもう、このペンダントがある。ちょっとくらい襲われたって……、
――そこで、私はかつての事を思い出して、苦笑した。
実はペンダントを受け取った後一度だけ、公園で夜中に魔法の練習をしてみようとした事があったのだが……、
結果は、失敗が成功かはともかく大惨事だった。
何かを撃つようなイメージを込めて、ペンダントをかざした結果、公園にクレーターができると言う事態になってしまったのだ。
もし、怪物に襲われたとして、私がペンダントで抵抗すれば、周辺の建物や人を巻き込んでしまう危険がある。
……それはダメだ。
さすがに命に危険が及べば、なりふり構っていられないが、使わないにこしたことは無い。
帰ろう。また明日、探してみよう。
私はため息をついて、歩道橋を降りた。
下の道路から、駅へと歩く。
――と、そこで、横の道に小さな商店街が伸びているのに気づいた。
殆どシャッターが閉まっていて、空いているのは床屋やコロッケ屋くらいだ。
コロッケ屋……、そういう所で買ったこと、そう言えばないなぁ。
何か味が違うんだろうか?
ちょっと興味が沸いた。
私は腕時計を確認する。――まあ、コロッケを食べるくらいの時間はある。
私は商店街に入り込み、コロッケ屋の前に立った。
「あら、いらっしゃい。コロッケ買っていくかい?」
気の良さそうなおばあちゃんが、私を見てそう言った。
私は薄く微笑んで返した。
「はい、一つお願いします」
「あらあら、随分美人なお嬢ちゃんやねぇ……。あの白い子といい勝負だわ」
……………。
――えっ?
「あ、あのすいません、今なんて?」
「え? ああ、ウチのお得意様でねぇ、凄く綺麗な子がいるのよ。髪なんか真っ白で! それでウチのコロッケをあんまり美味しそうに食べるもんだから、もう可愛くって可愛くって……」
――、し、白い子っ!?
それって、彼と一緒にいたあの子の事……?
あんな綺麗な真っ白な髪の子なんて、何人もいるはずない。
まさか、こんな所で手がかりを得られるなんて……。
「はい、コロッケお待ちどうさま」
……、貰ったコロッケを頬張る。
美味しい。
とても美味しいけど、それより――。
「あ、あの! その女の子について、何か教えてくれませんかっ? あ、あとその子と一緒に、男の子がいませんでしたっ!?」
「え? うーん、白い子の事はあんまり分からないわねぇ〜。あんまり詮索するのも野暮でしょ? あ、でもそばに居た男の子なら……えーっと、確か桜田高の制服を着ていたような……」
――やっと、やっと明確な手がかりだ。
私は、ちょっと涙目になりながら、残りのコロッケを頬張った。
……美味しい。
「あらあら、そんなに勢いよく食べるとと喉に詰まるわよ?」
「い、いえ、とても美味しかったので……。あの、本当にありがとうございました。ま、また買いに来ますねっ!」
「あら楽しみ。私可愛らしい女の子を見るとが、日々と楽しみなのよ〜」
ふりふりと手を振るコロッケのおばあちゃんを後に、私は駅へと歩き出した。
ひとまず、今日は退散しよう。
そして、明日だ。
明日、桜田高に……、
……、えーっと、どうしよう……。
乗り込む、訳にも行かないよね?




