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第十六話 Holy day

「……さま、……勇者様っ!!」


 ――うっすらと目を開く。

 そこには、白銀の髪の美少女が……。


「……ナタリー?」

「勇者様、大遅刻なのですっ!! なんで今日は目覚まし時計掛けてらっしゃらないのですかっ!」


 俺を時計を見た。

 ……八時半。

 まあ、もし学校があったなら完全に遅刻だ。

 今日祝日だから休みなの、すっかり言い忘れてた。


「ナタリー、今日は休みなんだ。祝日って言って、まあたまにあるんだよ。平日でも休みな日が」

「あっ、そ、そうだったのですね……、申し訳ないのです。起こしてしまって……」

「いや、ありがとう。別に早く起きるに越したことはないし、気にするな」


 申し訳なさそうにするナタリーを慰めて、俺は大きくあくびをした。

 ああ、祝日か……。

 と、言っても俺は特別やることも無かった。

 せいぜい家でゲームか、本でも読むかだ。


 たまには祝日らしい事もやってみたいが、まあ俺にそんなこと出来るわけない。

 そもそも祝日らしいことって何?


 ……そんな事考えていると、ナタリーが何やらモジモジしているのに気づいた。

 ……トイレかな?

 ってそう言えば、ナタリーがトイレに行くとこ見なことないな。

 もしかして、エルフはしないのか?


 そんな事聞くと、女の子なナタリーは怒りそうなのでそっとしておこう。


「ナタリー、どうにかした?」

「あ、あの勇者様……そのですね……」


 ナタリーは顔をちょっと赤らめる。

 この時点で、俺にはナタリーが何かを頼もうとしていることに気づいた。


 ナタリーは何か俺に頼む時、ちょっと顔を赤くする。

 とりわけコロッケをせびる時なんかは。

 初めて食べた時から、もう何回か寄っているが、一向に飽きないらしい。


 ちょっとしてから、ナタリーは決心したように口を開いた。


「私、街の方へ行ってみたいのですっ!!」

「いいよ」

「え、あっさりっ!?」


 別に断る理由もないし、俺も家の中で非生産的な祝日を過ごすのが憂鬱だった所だ。

 それに、いつかは頼んでくるだろうと思っていた。

 だって、商品カタログとかじっと見てるし……、ぐるなびとか見てるし……。


 ナタリーは嬉しそうにはしゃいでいる。

 そんな姿を見ていると、なんだか俺まで嬉しくなってきた。


 それに、美少女と街へ遊びに行くなんて、男冥利に尽きる。尽きすぎる。

 ちょっと俺まで楽しみになってきた。まるでデートみたいだなぁ……。


 ……あ、もしかしてこれ、デート?



 ◇◇



「わぁーっ! これが『電車』なのですねっ!」


 あれから、急かすナタリーを落ち着かせて準備を終えた俺達は、最寄り駅に訪れていた。

 ここから電車に乗れば、ものの数分で大きめの都市である、『川城市』へ行ける。

 川城市には東急も、スタバも、アニメイトも、有名な店ならなんでもある。

 ここなら、ナタリーが行きたいという店もあるだろう。


「本当に、その、かわしろ? にはなんでもあるのですかっ?」

「ああ、川城ならなんでもあるぞ」

「じゃ、じゃあ『ビッグ・ベン』ってやつ見たいのですっ!」


 ごめんそれは無い……。

 と言うか、何故そこ?

 無いよ、と言うと、ナタリーはむーっと残念そうな顔をした。


「じゃあ、この『マルキュー』ってやつ見たいのです」

「マルキューは無いな……トーキューならあるけど」

「勇者様……なんでもあるって嘘なのですね……」

「うん、ごめん嘘だわ」


 悲しそうな顔をするナタリー。


 嘘をついたつもりは無かったんだけど、結果的には嘘になってしまった様だ。

 ナタリーの意味での『なんでも』だと、文字通り何でもになってしまう。

 スカイツリーでもエッフェル塔でも万里の長城でも川城市にある事になってしまう。

 ……どんな街だそれ。



 ――と、そんなことをしているうちに、電車が停車した。

 ナタリーははしゃぎながらそれに乗り込んだが、乗ったあとは慌てて身体を落ち着けて、奥の扉の方へと歩いていった。


 事前に、電車の中では静かにと言ったのを思い出したらしい。

 俺は薄く微笑みながら、その後を追って乗車した。


 乗車すると、ナタリーに乗客の視線が一際集まっていた。

 駅にいる時点で結構視線が痛かったが、まあ、仕方がないだろう。


 なんたってナタリーは、明らかに異国人である上に超絶美少女。視線を集めてしまうのは生まれ持った宿命みたいなものだ。

 でもその横にいる俺にも自然に視線は注がれるわけで。


 ――まあ視線に晒されるのには慣れているので、特に問題もない。

 特に好奇の目や、悪意の目で見られるのは慣れている。


 俺は、気にしないように入口のドアの窓際に立って、ナタリーの横で外を眺めることにした。




 ――と、窓の向こうに視線を移そうとすると、光が反射して、窓に俺の顔と、その後ろの光景が薄く写った。


 その光景の中に、ちょっと気になるものが写った。

 気になったのは、車両の、俺とナタリーとは逆の入口の壁に寄りかかって立っている、俺と同年代くらいの少女だった。


 肩が浸かるくらいの長い黒髪で、随分と綺麗な美少女だった。

 雰囲気も顔立ちも服装も、何処か垢抜けていて、大人びている。

 学校では人気なんだろうなぁ〜、という感じの少女だった。

 そんな少女が、驚いたように俺の後ろ姿を見ていた。


 なにか付いてるのだろうか。

 それはとても恥ずかしいんだけど、後ろを振り向いて気にするのも気まずい。

 俺じゃなくてナタリーを見た方がまだ有益だぞ〜、と内心思いながら、俺は電車が停車するのを待った。



 ◇◇



 電車は、特に遅れもなく川城駅へと到着した。

 ちょうど目の前が開いたので、俺とナタリーはそこから駅へと降りた。


 そして改札を抜け、駅を出た。

 そこに広がっているのは、街で最も栄えている大通りだ。


「わ、わぁーっ! こ、これが……」


 駅からまっすぐ伸びている大通りを眺めて、ナタリーは目をキラキラさせていた。


 両脇の歩道も車道も、どっちも混んでいた。

 まあ、祝日だから当たり前なのだが、この様子ではどこへ行っても並ぶかもしれない。


「さ、何処行きたいんだ? 有名どころなら案内できるけど」

「えーっと、これとこれとこれと……」


 ナタリーは焦ったように俺にメモを見せてきた。

 メモには、店の名前らしきものがぎっしり書かれている。

 うーむ、……分からん!

 なんの店かすらわからん。


 何やら英語のオシャレっぽい名前なので、洋服店か何かだろうか。

 君変身でいくらでも服変えれるのに行く意味ある? ……なんて野暮なことは言わない。

 きっと実際に着るのじゃ何か違うのだろう。


「ま、とりあえず行ってみようか。場所はまあ、調べれば分かるし」


 俺はスマートフォンを取り出して、店の場所を探し始めた。

 学校に持っていったら間違えなく壊されるか、捨てられるだったので、今まで家に封印してあったのだ。


「まず最初の店は……あっちだな。行くぞナタリー」

「は、はいなのですっ!!」


 俺達は、大通りへと歩き出した。



 ◇◇



 ナタリーとのデート(?)は、少し忙しかったが、つつがなく進んだ。

 案の定、あのリストにあった店の半分は洋服屋や靴屋、アクセサリー屋などで、ナタリーは試着やらしながら店から店へハシゴした。


 どうしてか試着するだけで満足してしまうので、俺は少しは買ってもいいんだぞと言ったが、ナタリーはあっさりとこう返してきた。


『着いてきて頂いただけでも有難いのに、勇者様にそんな負担をさせる訳にも行かないのです! それに、変身で着れるから買わなくてもいいのです』


 やっぱり変身で着れるんじゃん、と聞いたところ、デザインやらなんやらを直に見たかったらしい。

 その方が再現度が上がるんだとか。

 ちょっと試着しただけで完全コピーできてしまうのか? エルフすげぇ。



 ――と、そんなこんなで時間は過ぎ、もう時間帯は夜へとなっていた。



 俺とナタリーは、夜になっても人通りが多い大通りへと戻ってきた。

 クリスマスはまだ先なのに、イルミネーションが光っている。

 昼は電気がついていないので気づかなかった。


「勇者様、今日は本当にありがとうなのですっ!!」


 ナタリーが、ニコニコと笑いながら横で言った。

 そんなに笑われると、照れてしまう。

 しかし、こんなに出費が少ないとは思わなかった。

 せいぜい行き帰りの電車賃と、昼食代だけだった。



 大通りをずっと歩いてゆくと、前方に駅が見えてきた。


 そんな時、ふと俺は周りの様子に注意を向けてみた。


 周りから聞こえてくる、人々の笑い声。手を繋いで歩いてゆく恋人。大きな袋を持って満足そうに両親と歩いている子供――。


 かつての俺がこの道を歩いても、きっとこんな幸せな光景は、見つけられなかっただろう。

 ずっと、また虐められる日が来るのを恐れていたに違いない。


「……礼を言うのは俺だよ、ナタリー」


 ナタリーは、不思議そうに俺を覗き込んだ。

 俺はそれに、笑って返した。

 それを見たナタリーは、少し驚いた顔をする。


「勇者様がそんな顔で笑ったの、初めてなのです」

「……そうか?」


 ナタリーは本当に嬉しそうに、はいっ、と頷いた。


 すぐに、俺達は川城駅に到着した。


「……勇者様、今日のこと、一生忘れないのです」


 ――駅に入る直前、ナタリーが何か言った気がした。

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