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第十四話 魔法の元に

「……はっ?」


 その場に居た誰もが、そんな間抜けな声を漏らした。

 背の高い、細長い、真っ黒な怪物。

 体は細いのに、頭部だけは異常に肥大していて、ひとつしかない目はその頭部の面積のほとんどを占めるほど大きかった。


 目の下には、歯並びのガタガタな牙が飛び出しており、大きな口がついていた。


『――キキッ?』


 妙に高い、キンキンする鳴き声でソレは鳴いた。


 私を囲んでいた男達は、唖然としていたが、直ぐに笑い始めた。


「アッハッハッハッハッ!! やべぇコスプレいるぜオイ!!」

「何あれ、めっちゃキモくね? ねー君もそう思うよね!」

「はぁー、何コイツ。ガチ不審者?」


 男のひとりが、立ち上がって怪物に歩いてゆく。


「あ、ちょ、ちょっと――」


 止めようと、私は声を上げ――



 バクンッ



 ――数秒後、男の上半身は、怪物の口の中に消えていた。


「……あー? やべぇ、俺飲みすぎたわ」

「なに、あれ、マジック?」



 死んだ――。

 男の下半身は、為す術もなく崩れ落ちる。

 私の身体が、恐怖で震えた。


 私の肩に手をかけている男が、それに気づいたらしく、私の身体を抱きしめてきた。



「おいおいだいじょーぶ? 怖いのぉ? 大丈夫だって、なんかのドッキリっしょ」

「離して……、離してっ!! 逃げなきゃ、殺される! 殺されるわよっ!」


 男が、私の頬にキスをした。

 ゾッと、背筋に悪寒が走る。

 私は反射的に、男を突き飛ばして、頬を思いっきりビンタした。

 男が怯んでいる隙に、私はベンチから逃げ出す。


「……ってぇなぁ〜、待てよこのクソアマっ!! 犯すぞゴラァッ!!」


 怒鳴り声なんか、どうでもよかった。

 今はとにかく、あの怪物から逃げなくては。



 ――バシュン、バシュンと、二つの何かを切り裂くような音が聞こえた。


 私の目の前に、なにかボールのようなものが降ってくる。


「……、な、なに! これッ――」


 ボールではなかった。

 大学生のグループの一人の、頭部だった。

 歪んだ顔が、私見つめる。



「――っ、ぁ、な、」



「てめぇゴラァっ!! 調子乗ってんじゃねぇぞオラッ!!」


 ゴッ――、と、殴りつけるような音が聞こえた。

 恐る恐る振り向くと、さんざん私に絡んできたあの男が、ベンチから立ち上がって怪物に殴りかかっていた。


 ……無理だ、そんなので、抵抗出来るわけない。


「逃げ――」


 バクンッ、と、また怪物が巨大な口で男を食った。

 ジュルジュルと、咀嚼するように口をぐりぐり歪める。

 巨大な目は充血していて、ぐりぐりと、次の獲物を探すかのように動いていた。



 ――それが、私の前で止まる。


 逃げろ。


 逃げろ。


 私の生存本能が、そう叫んだ。




 私は走り出した。

 そのせいで転がってきた頭を蹴っ飛ばしてしまったが、もはや気にしている余裕は無かった。


 公園から走りでて、住宅街へ滑り込む。

 そして、走る。

 角を曲がる。

 また走る。


 体力の続く限り、それを繰り返す。


 私は、走りながら初めて神に祈った。



「神様っ……」


 ――あの人が、もしかしたら助けに来てくれるかもしれない。

 また、ヒーローみたいに私を助けてくれるかもしれない。


 ……いや、そんなのは都合のいい妄想に過ぎない。

  私はあの人の顔も知らないし、何故戦っているのかも知らない。

 たまたま、私は助けて貰っただけなのだ。

 それを、どうして私は、貰った命をまた粗末にも危険に晒したのだろう。





「……ハァ、ハァ、ハァ」


 ずっと走って、私は立ち止まった。

 もう走れない。

 足はガクガク震えて、もう動かない。

 肺が激しく、酸素を求める。私は喘ぎながら呼吸した。


 ――でも、もう暫く逃げた。

 ここまで追ってこれるわけ……



『……………キキッ?』



 ――その時、私が曲がってきた角から、あの大きな目がこっちを覗き込んだ。


 頭が真っ白になった。


 怪物は私を見つけると、嬉しそうにヨダレをダラダラ流しながら、走ってきた。

 早い。

 あと数秒で、怪物は私の元にたどり着き、私を食べてしまうだろう。


 ――もう、いいや。


 もう全部、どうでも良くなった。

 ……あ、でもやっぱり心残り。

 あの人に、会ってみたかったなぁ……。



 バクンッ。




「――まだ、終わっていませんよ。魔法使い様」


 ――綺麗な、少女の声だった。

 私は、うっすらと目を開ける。



 そこには、長い青髪の、美しい少女が立っていた。


「……え?」

「むしろ、これから始まるのです。魔法使い様、これをお持ちください。時間がもうありません」


 長い少女は、何か、赤い宝石のペンダントを、こっちへ投げ渡した。

 カランカラン、と、私の前にそれが転がる。


「それは、勇者に仕えた魔法使い、カシワギ トモコ様の物です。貴女はそれで、覚醒する……ハズ……」


 カシワギ……トモコ?

 どこかで聞いたような……。


 その時、青髪の少女の顔が苦痛に歪んだ。

 ――混乱していて、よく見えなかったが、青髪の少女の身体に、あの怪物が噛み付いていた。


「……申し訳、ございません……、せめてナタリーのように、結界のひとつでも、……貼れれば良かったのですが……」


 怪物は少女を食い千切ろうと、歯の力を強めたらしい。

 少女の顔が、痛みに歪んだ。


 血が、アスファルトに散乱する。



「勇者様を……探して……」


 青髪の少女は、――掠れた声でそう言った。

 次の瞬間、少女の体は食いちぎられ、体は地面に倒れ伏した。



 勇者、魔法使い、――様々な思考と、悲惨な光景が視界に入る。

 混乱する。

 何から考えたらいいのかわからない。

 怪物が次の狙いをつける。

 私だ。


 ――私を助けてくれた青髪の少女。

 彼女が何者で、誰なのかはわからない。


 しかし、私はまた、他人に助けられてしまった。

 これで二度目。

 ――そして私は、たった今この少女に託されたのだ。何かを。


 目の前に転がったペンダント。

 私はそれに触れた。


 ――光。真っ赤な、暖かい光だった。


『キキキキキッ』


 怪物の、困惑するような鳴き声。


 私は、ペンダントを掴む。

 暖かい光が、私の中に入ってくるようだった。


 自然と、どうしたらいいか分かる。

 私は立ち上がって、怪物と向き合った。

 怪物は、口を血だらけにして立っていた。

 ――どれだけの命を食らったのだろう。


 兎にも角にも。

 この怪物は、生かしては置けない。


「――この、化け物ッ!!」



 私は叫んだ。

 心の中の不安を吹き飛ばすように。

 私の中に宿った、莫大なエネルギーの様なものを、そのままぶつけるように。


 ――真っ白な光が、私の目の前に吹き出した。

 光は明確な殺意を持って、怪物を襲う。

 怪物は、為す術もなく、光に体を食い破られていった。



 これは――魔法?


 何故かそんな確信が、私の中にはあった。


 光が収まると、そこに残ったのは血まみれの少女と、ところどころ燃えている光の痕跡のみだった。

 怪物は、消滅していた。



「……あ、あの、大丈夫……?」


 私は、少女の半身の近くにしゃがみこんだ。

 この子が何者かは分からない。けれど、私をかばってくれたことは確かだった。

 魔法に目覚めたとか、勇者とか、賢者とか、そんなことよりも、その罪悪感が勝っていた。


「私のせい、だよね」


 そんな私の心情を読み取ったのか、その子はニコッと笑いかけてきた。


「……いえ、魔法使い様のせいでは、ありませんよ……、これが、私の使命、ですから……」

「ちょ、ちょっと、喋ったりしたら――」


 少女の体が、光に包まれてゆく。

 少女はニッコリと私に微笑みかけた。


「無事、覚醒されたの、ですね……。良かった……」


 ――そして、消えていった。



 まるで、全て夢だったかのように、怪物も、少女も消えてしまった。

 あとに残ったのは、この真っ赤な宝石のペンダントのみだった。

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