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文の鳥  作者: Suzugranpa
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第1話 茜の帰国

 三沢(みさわ) (あかね)は3年ぶりにヨーロッパ音楽留学から帰国した。理由は里心が付いたからだ。ウィーンで同じ音楽学校に通うリトアニア人の友人Linaが日本を旅行し、戻ってきた翌日、いきなりCafeに茜を連れ込んでまくしたてたのだ。


「アカネ、私、アカネの故郷へ行ったのよ。そう、ナラへ行ったのよ。勿論キョウトも行ったわ。でもキョウトは都会で人が一杯で、私は静かなナラの方が良かったわ。

 アカネもいつも行ってたでしょ?グリーンが美しく鹿が(くつろ)ぐ広いディアパーク。歩いてると鹿が寄って来て挨拶してくれるの。日本では鹿まで礼儀正しいのね。近くの有名な寺院にも行ったわ。息をのむ迫力よ、Big-BuddhaやサウスゲイトのNio(仁王)。千年前に作られたなんて信じられない。そう、トラディショナルなものだけじゃないわ。近代的で整った街と優しい人たち。Cafeにだってゴミ一つ落ちてないのよ。物静かに本を読んだり、まあ、今はI-Phone見てる人の方が多いけど、騒いでるのはみんな旅行者よ。

 そうだ!National-Museumにも行ったわよ。まるで時間が止まったみたいな、そう、聞こえない音楽が空間に満ちているの。そこでね、ガイドの女性に私聞いたの。私の日本の友人はアカネって言いますけど、どんな意味の名前ですかって。そうしたら、アカネ、素敵じゃない。パパとママに感謝しなよ。アカネは日本の色の名前です、夕焼けの空の色ですって。なんてロマンチックなの。アカネ、あなた、名前負けよね。陽が落ちる広い空、雲がたなびいて鳥も巣に戻る。仕事を終えて静かに今日の出来事を振り返りながら仰ぐ空。そんな静かな、絵画のような空の色なのよ。それなのにあなたと来たら少しテンポがずれただけでヒバリみたいにピイピイ騒ぐし、チューニング合ってないとNioみたいな顔になるし、名前と全然違うじゃない」


 Linaのお喋りは止まらない。茜はこれまでも日本へ旅行した友人の話を山ほど聞いて来た。大抵はあのアニメの聖地へ行ってどうのだったので、私は興味ないし知らないしで打ち切れたのだが、今回はそうはいかない。一応、郷里まで行ってくれたのだ。茜は我慢強く聞き続けた。


「まあ、アカネの性格は今更治らないから仕方ないけど、そうそう、私の国じゃ考えられないテクノロジーも経験したわよ。テスト中のシンカンセンに乗せてもらったの。ラッキーだった。ヤマナシ?って所でストローみたいな列車が浮き上がって、チューブの中をヒュン!時速500kmよ。そんなに急いでどこ行くのよって思うけど、列車が浮くなんて信じられない。リトアニアの列車なんてあれに較べたら牛が歩いてるようなものよ」


 Linaはどういう伝手があったのかリニア新幹線にまで試乗できたらしい。全くエネルギッシュなことだ。


「そ、だからアカネ、こんなとこで遊んでる場合じゃないわよ。あなたはナラのディアパークでフルート吹くべきよ。ホルン吹くと集まってくるそうよ。鹿たちにもっと美しいメロディを聴かせてあげなきゃ。勿論、私もまた行くわよ。パパとママがNioみたいになると思うから日本に住むわけにはいかないと思うけど、一緒にディアパークで演奏しようよ」


 初めはウザッと思ったものの、途中から故郷の風景がジワジワ茜の中に湧いて来た。音大を卒業してから丸3年。ウィーンは演奏家としての刺激には満ちているけど、そろそろ学ぶことも尽きた気がする。これからは自分の音楽を確立してゆく時期なのかも知れない。ヨーロッパ滞在が日本の良さを見直すいい機会になった事は間違いない。Linaの言う通り、奈良公園の鹿たちにフルート聴かせるのも悪くない。


 茜は考えた末、WEBで日本での仕事を探した。ラッキーなことに県内の自治体が新しいオケを作ると出ている。滅多にない話だ。応募は殺到するだろうな。勿論、オーディションがあるだろうけど、ウィーンの3年間がモノを言う可能性もある。よし、茜はWEBから応募し、1ヶ月後下宿を引き払いオーディションのため帰国の途についた。


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