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青ずきん

作者: 貧弱眼鏡

太陽がさんさんと光り、晴れ晴れするような陽気な日。

その女の子の心はブルーでした。


彼女のあだ名は青頭巾(あおずきん)ちゃん。青いパーカーを好んで着ていたら、いつの間にかそう呼ばれるようになっていたのです。


青頭巾ちゃんは不幸な女の子でした。道を歩けば棒にあたり、風が吹けば(おけ)にぶちあたります。昨日も駅に立っていた時、「この泥棒猫!」と知らない男性から殴りかかられました。


左腕の青あざを擦り、青頭巾ちゃんは思います。

あぁ、今日もいいことはないんだろうな。




そんなあるお昼下がり、青頭巾ちゃんの携帯電話に一通のメッセージが届きました。

『おばあちゃんがもうあぶないそうだから、あんたちょっと帰っておいで』

田舎の母からです。


青頭巾ちゃんのおばあちゃんは青頭巾ちゃんと違い、とても幸運な人でした。今はもう年で寝込んでいますが、それまでは特に病気も怪我もなく、気がつけば御年97の大往生(だいおうじょう)です。


とうとうか、と青頭巾ちゃんは思いました。

毎年お正月に帰る度、おばあちゃんは思い出の姿よりくたびれていました。とっくに覚悟はできていると思っていたのですが、やはりその時が来ると悲しみが募ります。


「うぇーおばあちゃんが。そりゃ行ってあげないとね」

友達の(はな)ちゃんが言いました。彼女はおっとりとしていますが面倒見がよく、青頭巾ちゃんの一番の親友です。


青頭巾ちゃんは彼女に午後の講義ノートと今夜の合コンの欠席報告を頼むと、すぐさま家に向かい、夜行バスの予約をしました。


しかし、青頭巾ちゃんは気がついていなかったのです。花ちゃんとの一連の会話を、すぐ近くで盗み聞きしている男がいることに。


彼の名前は狩谷(かりや)くん。女癖が悪いことから皆に「(おおかみ)くん」と呼ばれていました。


青頭巾ちゃんと狼くんが面識を持ったのは半年ほど前。学校祭を巡っている最中に出会いました。

その時、青頭巾ちゃんは狼くんに対してまったく警戒していませんでした。狼くんが悪いけだものだと知らなかったのです。


狼くんは「顔はまぁまぁだが、小柄で少し柔らかめのうまそうな体だ。つまみ食いしてやろう」ぐらいにしか考えていませんでしたが、一度彼女を抱いてみると、その具合の良さに(とりこ)になりました。


狼くんのすけこましぶりはすぐに青頭巾ちゃんの耳にも入り、それから青頭巾ちゃんは彼に近づこうとしなくなりました。


しかし、狼くんはそうもいきません。かならずもう一度彼女と関係を結ぼうと、当時付き合っていた女性とも別れ、青頭巾ちゃんのストーカーとなったのです。




「こんにちは、青頭巾ちゃん。女の子がこんな遅くに出かけちゃあぶないよ?」

荷物を持ってアパートから出た青頭巾ちゃんに、狼くんが話しかけました。


「ご親切にありがとう、狼くん。でも大丈夫、あんたで一回痛い目を見ているもの。変な人についていったりはしないよ」

青頭巾ちゃんは冷たく返しますが、狼くんは塩対応なんて屁でもありません。


「そんなこと言わないでさぁ。それよりどこ行くの? 送ったげるよ」

そう言って狼くんは青頭巾ちゃんの手から荷物を取りました。

「かっ……かえして!」

「いーからいーから。荷物くらい持たせてよ」


青頭巾ちゃんが何を言っても、狼くんはヘラヘラと応えるだけで荷物を返してはくれませんでした。


自転車で行けばよかった、と彼女は思いました。向こうに何日いるかわからないので、そのあいだ駅にずっと自転車を置いておくのもどうなんだろう、と配慮した結果が今の彼女の不幸です。


「ずいぶん急いでるみたいだけど、もしかして家族になにかあったの?」

駅に着くと、狼くんは狙いすましたように言いました。


「あんたには関係ないでしょ」

「そんなつれないこと言うなって。オレ、聞いちゃったんだよね、お昼に話してたこと」


狼くんは青頭巾ちゃんの肩を抱き寄せ、耳元で囁きます。

「オレ、君が心配なんだ。いいだろ? いっしょに行こうよ」


青頭巾ちゃんはすぐさま彼をはねのけ、荷物を取ってバスへと乗り込みました。

しかし、なんということでしょう。狼くんも平然とバスの中に入ってきたのです。


「だって君の実家に行くやつって、電車乗り継いで行く以外この時間のこのバスしかないだろ?」


狼くんは、前に青頭巾ちゃんが「電車に乗るのは好きじゃない」と言っていたのをしっかり覚え、バスの予約をしていたのです。


乗客は青頭巾ちゃん達の他にはおらず、狼くんは青頭巾ちゃんの隣に座りました。


「空いてる席あるんだから、別のとこ座れば?」

「えーいいじゃん。一人だと寒いし」


狼くんは青頭巾ちゃんの首の後ろにに手を回して、そのまま妙な手つきで体を触りはじめました。イヤと言っても肩をがっちり掴まれており、抜け出すことはできません。


「お、大声出すよ」

「いいよ。運転手イヤホンしてるし」


周りに人の目がないのをいいことに、狼くんは青頭巾ちゃんの体を好き放題にまさぐります。


「顔が近い……っ! なんでそんなに近づけてんの!」

「青頭巾ちゃんの声がよく聞こえるようにだよ」


青頭巾ちゃんは顔を背けました。

「目を反らさないで……。ほら、こっち見て」

「なんでそんなこと……!」

「青頭巾ちゃんのことが、よく見えるようにだよ」


「だったら、この手は何……っ!」

「青頭巾ちゃんが、より近くに感じられるようにだよ」


狼くんは青頭巾ちゃんの手を握り、そのまま自信の股に持っていきました。


「……っ! なんで、大きくなってんの……」

「ふふ、わかってるくせに」


どうしよう、このままでは食べられてしまう。青頭巾ちゃんの体は震えました。


するとその時です。今までまっすぐ走り続けていたバスが左にくいと曲がったではありませんか。

驚いて外を見ると、小さな明かりに大きな駐車場。不幸中の幸いにも、このタイミングでバスは休憩のサービスエリアに到着してくれたのです。


「えートイレ休憩とな~りぃます。発車は10分後3時28分となっておりますのでそれまでにご乗車のほうよろしくお~ねがいします」


青頭巾ちゃんは一目散に外へかけだしました。女子トイレへ入れば彼は追ってこれなくなる、そう思ったからです。


少し古めの薄汚れたトイレに逃げ込み、青頭巾ちゃんは携帯電話を取り出しました。もちろん110番をするためですが、手が震えてうまく操作できません。


「何してんの?」


振り向くと、狼くんが立っていました。


「よくないよね、こんな。ただの痴話喧嘩に警察呼ぶとかさ」

腕を押さえられ、青頭巾ちゃんはなすすべがありません。


「痴話って、誰が……! やめて、ホントに大声出すよ。今ならまだ……」

「出すなら出せよ」


狼くんのぎょろりとした目が、青頭巾ちゃんを覗きこみました。


「オフシーズンだからな、人もいない。叫んだってお前の声の大きさで店の中まで届くかなぁ」

狼くんは乱暴な手つきで青頭巾ちゃんの胸を揉みながら、左足を彼女の腰に擦りつけました。


荒い息がかかり、生臭い舌べらが青頭巾ちゃんの頬を舐めあげます。


「……んっ! ぃや、やめ……っ!」

「そろそろ諦めてさ、オレにまかせてくれていいんじゃない? 前の時だって青頭巾ちゃん、けっこう良さそうな声あげてたじゃん」


諦める――その言葉が青頭巾ちゃんの心で揺れました。確かに、もうそれしかないのかもしれません。


「いたっ」


狼くんは青頭巾ちゃんの口に押し込んでいた舌をもどしました。舌にはくっきりと青頭巾ちゃんの歯形(はがた)がついています。


「きたないヨダレで服、汚さないでくれる? お気に入りなんだから」

それは青頭巾ちゃんの最後の抵抗でした。


その言葉を聞いて興奮したのか、狼くんは先ほどより激しく青頭巾ちゃんの唇を(むさぼ)りました。

自分がどうしようとこの場から逃げることができないと悟った時、狼くんの手がズボンの中に入りこんできて、青頭巾ちゃんの体からは少し力が抜けました。


「なんだ、青頭巾ちゃんもけっこうその気じゃん」




その時、ボカン、という音が響きました。それはそれは良い音でした。

その音が鳴ったあと、すぐに狼くんは倒れました。

「まさかこんなところで(さか)ってるなんて、この罰当(ばちあ)たりめー」


青頭巾ちゃんは驚いて、恐る恐る(まぶた)を開きました。

そこにいたのは、なんと親友の花ちゃんだったのです。


「は、はなちゃ……、どうしてここに……」

「いつもは合コンとなると飛びついてくる狼くんが今日は来なかったから、おかしいと思って。まさかとは思ったんだけど、青頭巾ちゃんが心配でね」


花ちゃんの趣味はドライブです。法定速度を気にしなければ夜行バスに追いつくことなど訳もありません。


花ちゃんは手に持っていた木製のバットを一拭きすると、動かなくなった狼くんの首根っこをつかみあげました。


「はなちゃん……っ! ありがと……」

「早く行きなよ。運転手さん、きっと待ってるよ!」

「……うん。今度、絶対埋め合わせするから!」


青頭巾ちゃんは走りだしました。親友への感謝と不幸からの解放に心をたわませて。


ですが、青頭巾ちゃんは知らなかったのです。花ちゃんが、男性を持ち帰ってはその精を絞りつくしていることから、その筋の間では狩人(サキュバス)と呼ばれていることを。


「狼くんはどれくらいまで耐えてくれるかなー♪」




明朝、青頭巾ちゃんは息を切らしながら実家の門をくぐりました。

「おはよう!」


大きな声につられ、「おかえり」と、まだ寝間着の母が現れました。けれど今、青頭巾ちゃんが見たいのはその顔ではありません。


玄関に荷物を放り置いて、手も洗わずにその部屋に向かいます。


「……あら、おかえり」


戸を開けると、布団の上でゆったりと曲がった腰を起こしている、おばあちゃんの姿が見えました。


「……ただいま!」


青頭巾ちゃんはにこりと笑いました。




――――・――――・―――――・―――――・




「その服、また着てるんだね」

「うん。あんなことあったけど、お気に入りだし」

「でも、ずいぶん古いよね。それ」

「中学生の頃から着てるからね。運の悪い私のために、おばあちゃんが作ってくれたんだ。青い鳥カラー」

「ふふ、そうだったんだ」


「それで、それからどうしたの?」

「どうしたのって……。まぁ、色々話して、そんだけ」

「えー、せっかくおばあちゃんの容態が良くなったってのに」

「そんなもんだよ。またいつ悪くなるとも限らないしね。とりあえず話したいことは全部話したよ」

「ふぅーん……」


「それより、あの後どうしたの?」

「あのあとって?」

「ほら、狼くん……あれから見ないし」

「あーあれね」

「あれって……」




「8個ぐらいで壊れちゃった」


丸い石のようなものをころころ手の平で遊ばせて、花ちゃんは笑いました。

書いてて思ったけどエロ小説だこれ

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