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ひだまり童話館 参加作品

宝石になるまで

作者: 朝永有

 ブン! ブン!

 日が暮れる中、僕は野球のユニフォームのまま、一人素振りを繰り返した。

 ブン! 

「少しきゅうけいしよう……」

 公園にあるベンチに座って、僕はスポーツドリンクをグイッと喉を鳴らした。

 どうして僕はヒットが打てないのだろうか……

 周りの友達は試合に出ると、大体二試合のうち一本はヒットを打っている。

 なのに僕は、試合に出てもヒットがまったく打てない。

 隣に置いたバットを見つめ、オレンジ色に染まった空を見上げた。

「練習してもむりなのかな……」

 僕はバットをケースにしまい、肩に担いで公園を出た。


「ただいま~」

「おかえり~! さあ、お風呂に入りなさい!」

「分かった~」

 カラスの行水だ! とかなんとかお母さんに言われながら僕はお風呂を上がって、食卓にある自分の椅子に座った。すると、お母さんが大盛りのカレーをテーブルの上に置いた。僕はすぐに夢中になって食べた。

 お腹いっぱいになった僕は、リビングのソファーに座ってテレビの電源をつけた。

 昔のアニメ映画が流れ始めた。お母さんは「懐かしい~」と言って、洗い物をすぐに終わらせてソファーに座った。

 白いカッコイイ服を着た杖をもつ猫が言葉を話して飛んだり、おじいさんやお兄さんが楽器を演奏する中で女の子が歌ったり、そんな場面が楽しげに流れていた。

「お母さんね、ここからが好きなのよ」

 お母さんはそう言って僕に笑いかけた。僕は急いでテレビの方を向くと、女の子がおじいさんから何かを受け取って、光を当てて回しながらのぞきこんでいた。


 それは七色にピカピカと輝いていた。


「なんであんなに光ってるんだろう? どこにもそんなものないのに?」

「それはね、宝石の原石だからよ」

「げんせき?」

「そう。宝石というのはね、初めからあの姿ででてくるわけじゃないのよ。ああやって色々なものがくっついているのよ」

「じゃあ、どうやって宝石にするの?」

「それはね、一生懸命磨くのよ」

「みがく?」

「ゴシゴシ、一生懸命に磨くのよ。ほら、お皿だってそうでしょ? 今日食べたお皿もカレーがついてるけど、一生懸命にみがくとピカピカになるでしょ?」

「うん!」

「それと一緒なのよ」

 お母さんは優しく笑った。僕はなんだか心の奥のほうがくすぐったくなった。

「あなたはまだ原石なんだから、少しずつ磨いていけばいいのよ」

 お母さんは僕のことが何でも分かっているようだった。




 ブン! ブン!

 日が暮れる中、僕は野球のユニフォームのまま、一人素振りを繰り返した。

 ブン! 

「少しきゅうけいしよう……」

 公園にあるベンチに座って、僕はスポーツドリンクをグイッと喉を鳴らした。

  周りの友達は、また今日の試合でもヒットを打っていた。

 なのに僕は、今日もヒットは打てなかった……

 隣に置いたバットを見つめ、オレンジ色に染まった空を見上げた。

「……あと10回やろう!」

 僕はバットをもう一度握って、さっきまで素振りをしていた場所へと向かった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 有さん、読みました。有さんの作品を少しずつ読んでいますが、この小説は有さんのなかでも指折りに入ると思います。僕の好きなタイプの作品でした。風景に溶け込んだ少年の描写が素敵だし、諦めずに練習…
[良い点] 拝読しました。 まさに、人間のピカピカ。 人は、自らを磨くことによって、宝石になる――まったくその通りですね。 なんだか勇気の貰えるほっこり童話、ありがとうございました。
[良い点] 宝石になるまで!タイトルの意味がわかった時、そういう事かΣ( ゜艸゜;)!ってなりました(*´∀`*) 思わず、「がんばれ!」って応援したくなっちゃいました(*≧∀≦*) 読ませて下さり…
2017/08/25 12:34 退会済み
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