社会的な嘘
社会的な嘘
僕は親父のデスクトップパソコンを借りて、サイトの文章を読んでいた。
兄ちゃんの文章を読んでいた。
サイトにあった、最後に更新された日付は2年前だった。
「おおーい!出発するぞー!」
親父が玄関で大きい声を掛けて来た。
「わかったー!すぐ行くよ!」
僕はパソコンの電源を落として、玄関に向かった。
「ばあちゃん多分喜ぶぞ。」
親父が車を運転しながら、変な事を言っていた。
祖母の認知症の深度は分からないけれども、親父が言うなら喜ぶのだろう。
特別養護老人ホーム
「ばあちゃん来たよー。」
親父と僕は祖母に笑顔を向けた。
「ああ、大介じゃないか。今日はどうした?ん?」
車椅子に乗った祖母が、僕を大介兄ちゃんと勘違いしている。
「ああ、こういう事か」と親父が言った意味を理解した。
兄ちゃんが嫌っていた、社会的な嘘をつけと。
「ばあちゃん、果物持ってきたよ。食べるかい?」
僕は大介兄ちゃんのフリをする事にした。
祖母がどこまで、大介兄ちゃんの記憶があるのか分からないけど、手帳と日記を見た事で、ある程度の兄ちゃんのフリが出来る。
「じいちゃんと、娘二人死んで、ええと、ああ、あのクソ親父とまだ暮らしてるのかい?はよ家を出なさい。あんなの早く投げてしまえ。」
祖母は少しご立腹のようだ。
でもどの辺りまでの深度なのか分かった。
「大丈夫だよ。自衛隊も順調だし、自営の仕事も上手く行ってるし、彼女とも上手くやってるよ。」
祖母は僕の言葉で、とても安心した顔をした。
「彼女と上手く行ってるならいいんだ。ほら、看護婦ってのは、きかないのが多いから心配でなあ。」
僕の心に強く罪悪感が沸いて来る。
「お前の母さんが若い頃、叩かれるのが嫌だから離婚したいけど、子供三人もいるから別れられない、って言ってたなあ。」
僕は話をしていて辛くなってきた。
「無理にでもじいちゃんと、ばあちゃんで育ててやれば、あのクソ親父に、ひどい目に会わされなくて済んだかもしれんけど、今が良いなら良いわ。良かったな大介。幸せになれよお。」
感情が押し寄せてくる。
「うん、ばあちゃん、ありがとう。」
もう、耐えられなかった。
「また来るよ、ばあちゃん。元気でね。」
僕は親父と部屋を出た。
僕は泣いていた。
僕を抱きしめて親父も泣いていた。
現実は何て残酷なのだろうと。
そして僕は何て幸せなのだろうかと思った。
2017.27.29 土曜日 平成29年
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