日記23
希望
精神の支えであった猟銃は、私の精神疾患発覚により公安で処分されていた。
同時に猟銃所持許可も剥奪となった。
国民の、市民の税金である生活保護の保護費を少しでも削るために、障害年金を申請して通ったが、障害者として生きているのが、私は生きているのが辛くて仕方なかった。
私は猟銃所持許可証の代わりに、障害者手帳を持っていた。
私は杖を突いて歩くようになった。
これ以上、腰と脚の症状が進まないように。
杖を使って歩く事で、道行く人たちが優しい態度を取るようになった。
ドアを開けてくれたり、道を譲ってくれたり。
だが社会的に死んで、社会の負債となった私に、見知らぬ人たちの、その優しさが刺さる。
生きていてごめんなさい。
そんな気持ちで毎日を過ごし、その気持ちがまぎれるように薬が処方された。
消えて無くなってしまいたい。
身体の痛みを紛らわせるために、常時痛み止めを飲む毎日。
生まれてきてごめんなさい。
国民の負託に応える事を誓った過去。
誓いを果たせず申し訳ない。
私は口から出る言葉も行動も全て嘘ばかりの嘘つきだ。
そんな罪悪感から献体の申し込みをした。
死んだとしても、少しでも多くの人の役に立ちたかった。
携帯電話の延滞料を払うために近所の携帯電話ショップでお金を払ってきた。
自宅で呆けていた。
大量に目の前にある不眠の治療薬。
「こいつをオーバードーズしたら死ねるかな」
などと考えていた。
そんな時、看護師の彼女から電話が掛かって来た。
生活保護の存在を知る前、「このままでは死んでしまう」と、彼女に金を無心してから半年、携帯電話が通じなくなって全く音沙汰が無かった彼女からの電話だった。
電話に出たら「良かった。生きてた。」という声が聞こえた。
「私30歳になったよ…」
消え入りそうな声で、彼女は語った。
「うん、おめでとう…」
気力を振り絞ってその声に応えた。
「それでね、お別れしようと思うんだ。大介と。」
悲しそうな声だった。
「お金、大丈夫?」
心配してくれている。
「生活保護が通ったよ。」
私は彼女が欲しい情報を言った。
「良かった。じゃあ大丈夫だね。…さよなら。」
通話が切れた。
あっけない恋愛の終わりだった。
世の中の女性の本性など分かりきっていた。
男はお金が稼げて、イケメンだったら尚良し。
その大前提である「お金が稼げて、」という部分が無い男など、女性の、というか社会の、必要とされない人間なのだ。
そんな中、また電話が鳴った。
「大介、大丈夫か?」
祖母だった。
「落ち着いて聞けよ、お前の、父さんな、山で重機と一緒に、谷に落ちて、死んじまった。」
耳を疑った。
「大介、大丈夫か?身体壊して、心まで壊している大介に、ばあちゃん更にこんなひどい事を言うのが辛いんだぞ。」
祖母が電話の向こうで泣いている。
「ばあちゃん、泣かないで。私なら大丈夫だから。」
精一杯の強がりだった。
「お前の伯父さんたちも、大介と兄弟たちが可哀想だって泣いてるんだぞ。」
そうか、私のために泣いてくれるのか。
「私より先に死ぬんじゃないぞ。分かってるのか?ばあちゃんより先に死んだら許さないからなあ。お前は生きろよ。じゃあなあ。達者でなあ。」
祖母からの電話は切れた。
死ぬ事を禁じられてしまった。
祖母の命令は絶対だ。
私はどうやって生きて行こう。
そう考えて日々を過ごす中、目的もただ生きるだけの私は暇を持て余していた。
そして図書館で「人間失格」というタイトルの本を見つけた。
「今の自分にピッタリじゃないか」などと思いながら本を読んだ。
読み終わったら涙が止まらなかった。
これで人間失格?
じゃあ私は何なのだ。
国民の生命と財産を守ると誓った過去も、薬物で支えられて生きている私も、境遇は違うが、私のほうが人間失格じゃないか。
それでも私は生きている。
何かが出来る。
そうだ、彼のように、この作者のように小説を書こう。
この表現が世間様が許すなら、私がこれに勝る「現代の人間失格」を書き綴ってやろう。
書いてネットにぶちまいてやろう。
どんな反応を読者はするのだろうか。
タイトルはどうしよう。
今が西暦20XX年だから「20XXの人間失格者」とでも名付けようか。
地味な上にパクリっぽくていいな。
原稿用紙を買うお金も、書くための健康も無いからパソコンで書こう。
投稿するサイトもネットで探そう。
私は小説家という化けの皮を被って事実をぶちまいてやろう。
少なくとも嘘を書かなくて良いのだ。
私は正しく自分を表現して良いのだ。
生きる楽しみが増えた。
ああ、楽しみだ。
2017.7.29 土曜日 平成29年
日記終了。




