日記14
祖父の死
祖父が死んだ。
亡くなる3週間前に、私と彼女で祖父のお見舞いに行ったのを思い出す。
ドカ雪が降っていたのを覚えている。
病院の駐車場から施設までの間で、頭に雪が積もる程の吹雪の中だった。
祖父はベッドに横になっていた。苦しそうに咳き込み、ベッドの壁の水のタンクがゴボゴボと音を立てていた。
「おじいちゃん。お見舞いに来たよ。」
私に気がついた祖父は手招きで私を呼んだ。
「何かな?」
私は祖父の顔に耳を寄せた。
「大介…タバコ、持ってるだろ…1本よこせ…吸いたい…」
病室でタバコを吸わせてあげる訳には行かなかった。
苦しそうな祖父に、私は自衛隊で覚えた、優しくも残酷な事を言った。
怒りはアドレナリンが出て、苦しみや痛みを紛らわせる効果がある事を知っていたのだ。
「じいちゃん。あげられないなあ。」
私はわざと大げさに言った。
「それにおじいちゃん。私はおじいちゃんから貰った小遣い倍にして返してないぞお。元気になったら1カートンでも2カートンでも買ってあげるよ。」
祖父は私の言葉に怒りを覚えたようだった。
目つきが変わったのがすぐに分かった。
「だからさ、元気になって帰ってきてよ…。」
私の最後の言葉で、祖父は残念そうな顔をして、ぷいっと向こうを向いてしまった。
帰り道
自家用車の中
「おじいさん、もう長くないよ。」
隣の助手席に座る看護師の彼女が言った。
「だろうなあ。苦しそうだったから、わざと怒らせたけど、伝わったかなあ。」
祖父に対する私の優しさだったが、伝わったかどうかは分からない。
「葬儀用のスーツ持ってる?」
不意に彼女が聞いてきた。
「持ってないなあ。買って行くか。」
私は帰宅前にスーツ屋で黒ネクタイと安いスーツを買った。
葬儀の日
恐ろしい数の参列者だった。
一番大きい会場が満員で、焼香の荷台が会場のロビーにまで回される程の人数だった。
私は涙は流れなかった。
悲しむという感情はあったが、悲しいというよりは残念な気持ちの方が強かった。
そんな私を従姉妹の、伯母の娘の長女が責めた。
「悲しくないの!?」
私が無表情だった事に対して、疑問と怒りが混ざったような声で彼女は聞いてきた。
「そりゃ悲しいさ。」
私は命と言うものに敬意を持っている。
祖父はその寿命を終えて、死んでしまった。
誰かに殺されたのではなく、命を全うした人だ。
死は確かに悲しい事だが、私は祖父が尊く思えた。
その考え方が私に涙を与えなかったのだと思う。
「だったら泣け!」
涙と鼻水で、ぐしゃぐしゃの顔の従姉妹が怒った。
「美人が台無しだぞ。」
私は従姉妹にハンカチを渡した。
それから何と言っていいのか、わからなかった。
ただ、外の雪は風が混ざって、吹雪だったのを覚えている。
2017.7.29 土曜日 平成29年




